読書の森

猫のデモンストレーション その3



彼と私の間に気まずい空気が流れた。
その時である。
ふすまがスウッと開いて、飼っている猫の親子が入ってきた。

家の猫は、隙間から手を入れてふすまを開ける事が出来るのだ。

母猫はスリムな身体を立てる様にして、子猫は母親の真似をして、ぐるっと彼の周りを回った。

明らかな嫌がらせだと感じた。

「帰るよ!」
彼は立ち上がった。

オロオロと見送る私と嬉しそうな猫たち。
信じられない事だが、私はその猫が可愛いのである。



その後、自分の年も全て打ち明ける手紙を送るなどあがいたが、結局彼の心が戻る事など無かった。

行動力のある誠実な「いい人」だったという思いだけが残る。
私との交際はさぞかし嫌な思い出だったろうと、後悔する。

それよりも、あの嫌がらせの犯人の猫はずいぶんと長生きしてくれた。
彼女に向かって「イイコチャン、美人ね」と私はいつも言っていた。
それが効いたのか?

猫は嫉妬深い生き物で利口な猫はオカルト的な事をする。
人より予見が早いのだ。


ただ、もし万一好きな人と一緒になれそうな時、私は猫を飼わない。
情が猫の方に行っちゃうから。

これは縁の無い事の言い訳だろうか。

読んでいただき心から感謝いたします。

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