小学生の昔、映画化された『二十四の瞳』を観て涙をボロボロ流し、壷井栄の童話や小説を小遣いで買い、せっせと読んだ思い出があります。
暖かい瀬戸内の小豆島で青春期を送り、代用教員として働き、上京して文学を志す夫と生きる、とっても庶民的なおっかさん、というイメージはずっと変わりません。
実子に恵まれず戦災で親を亡くした親戚の子を引き取って、仕事をしながら育てたエピソードにも好感を持ってました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/55/01/a6e6ec82947574256f262f23eddef5c2.jpg?1678664474)
ところが、生意気な中学生になると、ダサいと感じました。
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ところが、生意気な中学生になると、ダサいと感じました。
それには理由があります。
その頃頃、脚の手術で入院してました。
看護婦さんが検温中に
「XXさんいっぱい本読んでるのね。えらいね。私は壷井栄が一番好きよ。暖かくて優しいから」
とニコニコ声をかけてくれた事があります。
彼女が去った後、同じ部屋にいた若い奥さんが
「壷井栄って全然文学的じゃないわよね。私は横光利一が好き」
と皮肉っぽく言うのです。
悪いけど、看護婦さんはダサくて太ってて美人のイメージに程遠い、その奥様はいかにも頭良さそうな美人。
それが壷井栄作品と横光利一作品のイメージと重なり、14の私は大好きだった壷井作品に触れなくなった^^
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壷井栄作品は文学的じゃないというイメージはずっと自分の中にありました。
正社員となり、華やかな都会の中心で綺麗なモノに囲まれて暮らすようになると、戦後間もない昭和の暮らしの貧しさがおよそ不潔感に満ちたものに思えたのです。
ダサいのを売りつけてるとも感じました。
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様々な紆余曲折を経て、社会も自分も貧しくなった今、「も一度壷井栄」という思いが込み上げてきました。
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様々な紆余曲折を経て、社会も自分も貧しくなった今、「も一度壷井栄」という思いが込み上げてきました。
全作品に流れる素朴なヒューマニズムほど今の自分を癒すものは無いからです。
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『あたたかい右の手』は仲良しの同級生の不幸な死を描いたものです。
勉強がクラス1出来てクラス1控えめで優しい慈雨ちゃんと正反対の主人公、お転婆で行動的な竹子は、清らかな慈雨ちゃんに憧れている。
ところが学校遠足の汽車の中、慈雨ちゃんは圧死してしまった。戦後間もない頃、車両不足が極端にひどくて、箱のような貨物車両は物凄い混雑、押し合いが酷かった。
小さな慈雨ちゃんは人に押されても耐えるだけ決して自分で押し返そうとしない為に命を落としてしまった。その両親は「神に召された」と涙を堪えて静かに祈るだけ。
竹子は哀しいのを通り越して腹が立った。
何故慈雨ちゃんも親も素直すぎて大人しいのだろう。
「何故押されたら押し返そうとしないのだろう」
悔しくて、慈雨ちゃんがかわいそうで仕方ない。
お母さんは涙をしゃくりあげる竹子に右手をかけてそっと引き寄せて言う。
「泣いてあげなさい。泣いてあげる人がいなくっちゃ」と暖かい言葉をかけた。
そして小さな声で
「人間が貨物列車に乗るなんて、、もとはみな戦争のせいよ」と言った。
ネタバレで申し訳ないですが、この童話の趣旨を書きました。
やさしい壷井作品には実は一貫した反戦思想があるのです。
「そんなヤワな事言っても戦争は非情なものだ」と通り過ぎないで欲しいですね(小声)。