母は結構クラシック音楽を好んでたけど、父の好みはちょっと洋楽っぽい歌謡曲でした。
船を見つめていた。
当時の中国人にとって、とんでもなく迷惑で嫌な話だったでしょうが、上海で暮らす日本人にとってそこは自由でエキゾチックで心が高揚する異国だったのかも知れません。
洋楽っぽい歌謡曲はディックミネ、越路吹雪、二葉あき子など戦後まもない頃特に流行ってましたね。などと言っても今の人にはちんぷんかんぷんでしょうけど。
幼い私も歌謡曲に馴染めずにずっとNHKのラジオ歌謡のメロデイ以外知らなかった。
ところが、
歌詞もメロディもとっても覚えやすい歌が、それが一日中流れてる時代があったのです。
日本中流れてたと言っても良いみたい。
『リンゴの歌』よりもです。
むしろ、ロマンスの甘い苦しみがたっぷり入ったこの歌は、ようやっと復興し始めた日本の街に彩りを添えたのかも知れません。
72年過ぎた今もメロディも歌詞も私はばっちり覚えてます。
それが津村謙の歌った『上海帰りのリル』です。
船を見つめていた。
ハマのキャバレーにいた。
風の噂はリル。
上海帰りのリル リル。
甘く切ない思い出だけを
胸にたぐって探して歩く
リル リル どこにいるのか リル
誰かリルを知らないか
真面目そのものの津村謙は不動の姿勢で歌うのですが、声は切ないです。
真面目そのものの津村謙は不動の姿勢で歌うのですが、声は切ないです。
戦前、日本及び海外の国々がアヘン戦争で疲弊し切った中国に居留地を作ってた時がありました。
探し回る男は客でリルは水商売の人でしょうか?家の事情(貧しくて)で働いていたのか、若くて可憐な娘の印象です。
二人は互いに心惹かれる。ただしプラトニックっぽい(?)
それから悪夢みたいな戦争が始まって、理不尽に引き裂かれた恋人同士、、、。
などと私は勝手な空想を膨らませるのでした。
当時の中国人にとって、とんでもなく迷惑で嫌な話だったでしょうが、上海で暮らす日本人にとってそこは自由でエキゾチックで心が高揚する異国だったのかも知れません。
この歌に潜むロマンに憧れた私、母の幼馴染が送った戦前の上海の写真を見て、その地に憧れを持ってしまいました。
現実は決してそんな甘いものではないでしょう。
なんだかかんだを経て、もはや結局夢の上海になりました。
それにしても歌の持つ魔力とは怖いものです。
リルがいたという「ハマ」の異国情緒に憧れて横浜に長く住んだのですから。
幼い頃にインプットした歌にしろ言葉にしろ、人の一生を左右するものかも知れません。