所用で新幹線に乗った時、小柄なおばあさんと隣合わせになりました。
列車の窓から娘夫婦らしいカップルが軽く会釈する姿が見えます。おばあさんは上品な笑みを浮かべたままであります。
列車が動き出しても、笑みは崩れてません。
ちんまりとお行儀良く座っていて、お人形がそのままの形を保っている感じがありました。
お人形にしては歳を取り過ぎてます。細いか弱そうなお年寄りがたった一人で何処へ行くのでしょう?
「お一人ですか?」
思わず声が出てしまいました。
「はい」
はっとする程、彼女の表情が変化したのです。
お上品さはそのままですが、取り澄ましたお人形の顔から、「聞いてちょうだいな」という人懐こい老女の顔になったのです。
「まあ!お偉いわ。どこまでいらっしゃるのですか?」
と私。
彼女は私の顔をちょっと睨みます。
「ああ、すみません。こちらから言うべきです。私は名古屋ですがお宅は?」
優しくなって
「小倉でございます」
「ええ!まあ遠く迄」
又にっこり。
小倉はご存知のように福岡県北九州市にあります。歴史の古い都市ではありますが、逆にひっそりと歴史に埋もれた町の印象が強いのです。
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小倉はご存知のように福岡県北九州市にあります。歴史の古い都市ではありますが、逆にひっそりと歴史に埋もれた町の印象が強いのです。
新横浜から小倉迄、「かなりの距離で時間もかかるのに、疲れるだろうなあ」と思わずおばあさんを見つめてしまいました。
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私の視線を充分意識したのか、彼女は身の上話を一気にしてくれたのです。
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私の視線を充分意識したのか、彼女は身の上話を一気にしてくれたのです。
以下は彼女の話です。
「私は90歳になります。夫に先立たれて、息子夫婦と共に小倉にある自宅に住まっております。
ただ、何の仕事も持たされず、親しい友人も次々と鬼籍に入った日々は砂を噛む味気無さがあります。
それほど上手くいってる訳じゃない嫁との間も余計ギクシャクしてしまいました。
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そこで子供たちの間で話合いがあって、一年に数回横浜に住む娘夫婦の所で暮らす事になりました。
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そこで子供たちの間で話合いがあって、一年に数回横浜に住む娘夫婦の所で暮らす事になりました。
私も歳ですから、どこに連れて行ってくれる訳でも無いし、他所の家ですが気楽な訳でもないです。娘も独身の頃とは違って寂しい気が致します。
しかし、夫の遺した古い家と僅かな年金の他は何の財産も無い90歳の老婆です。大きな口を叩く訳にはいきません」
おばあさんの話の内容は見方によってかなり悲惨とも言えます。老いの身で横浜と小倉の往復の旅がどれほど負担だろうと、子供達(と言っても中年夫婦)自身の生活を護る為に強いられてると受け止められます。
私の反応に満足したのか、彼女は打ち明け話をピッタリやめました。
昼時の事で駅弁の蓋を開ける私に合わせて、サンドイッチを口にしてます。有名店のお上品なサンドイッチをゆっくり咀嚼して二切れ食べ終えるとジュースを飲んで終わりでした。
「歳を取るとこれだけでお腹が満足してくれます」と儚げに微笑んでゆっくり眼を閉じました。
きっと経済的には豊かであろう、若い頃は美しかったろう彼女は、又人形の様に無表情で動かない姿になりました。
その時、自分は勿論母もとても元気でした。私は「大変だなあ」と言う思いだけでこの出会いを締め括り、名古屋駅で降りてます。
しかし、今改めて考えると、このお年寄りの幸福とは何だったのだろうか、と思わずにいられませんでした。
細いとは言え、頭の機能も身体の機能も並以上の彼女が、長い一生の最後に言わばたらい回しの日々を送っているのは、どう考えても割に合わないな、と感じました。
ここでも、長生きが幸せに繋がるとは思えなかったのです。
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気分を変えて、最近の料理のお話です。
アボガドとタコのサラダです。
アボガド、タコは適宜に切って、お好みのドレッシングをかけるだけ(私は酢、砂糖、醤油、胡麻油、ニンニクのすりおろし、レモン汁を混ぜました)です。
さっぱり涼しい気分になれました。