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読書の森

宮部みゆき『幻色江戸ごよみ』

名もない江戸庶民の哀感をミステリータッチで描いた短編、宮部みゆきさんが手がけたのはバブルが萎み始めた1992年頃だったようです。

『火車』や『理由』が世に出て、著者の名を不動のものにした時、かなり周りでプレッシャーがかかり、ご時世の批判の形になる著作を避けるようになったのでしょうか?


『幻色江戸ごよみ』は生家の貧しさ故に奉公に出された少女が主人公の短編集です。

第一話「鬼子母火』は江戸新川の酒問屋に奉公に出たばかりの12歳の少女おかつが登場する。

師走の深夜、母屋の仏間から火が出た🔥
火元となれば、当然その界隈で悪評が立ち、商売が到底続けられない。母代わりにおかつを看る奉公人頭のおとよと番頭の藤兵衛は、近所に知られぬ内に燃え盛る神棚の火を消して一安心。
しかし、何故きちんと火の始末をした筈の神棚から炎が上がってしまったのだろうか?

ひょっとして、流行り病いで死んだおかつの母の一筋の髪を〆縄に潜めた為だろうか?
土葬の慣わしだった故郷で母はろくに供養されぬま焼かれた。考えた挙句、おかつはこっそり〆縄に入れて一緒に供養したかった。

ここら辺が最近のコロナ禍で亡くなった方や家族の無念の想いを彷彿とさせる。

しかしながら、この物語は全然オカルト的ではない。
忠実にお店一筋に勤めてきたおとよは、神棚の火の不始末として収め、本当の事を誰にも言わない。

そして、仕事一途で子供も産めなかったこの女は外の闇に向かって啖呵を切る。
「あたしの目の黒いうちはあの子の世話はちゃんとやいてあげるからね。きっとだよ」
そして新しい年が静かに明けていった。

宮部みゆきさんらしい締めくくりだな、としみじみと癒されました。


この短編集の中では、特に巧さを感じる作品ではありませんが、私はこの手の物語に非常に弱いのです。

さて、時代は過ぎて世の中が大きく変わっても、冬場火事が多く危険な事には変わりありません。
特に昨今は高齢者家庭に不慮の事故が多いようです。
それぞれ、暮らしに工夫してくれぐれも火の用心をしたいものです。


読んでいただき心から感謝いたします。

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