読書の森

向田邦子 『きんぎょの夢』その2



さて、『金魚の夢』は彼女のシナリオを
小説に書き換えたものである。

主人公は小料理屋の女将である。
水商売と言えども芯は真面目な女だ。
父親が早く亡くなり、経済的な事情から店に出て、妹を学校に行かせた。

小料理屋の目玉はおでんで、おでんが目当てか、女将が目当てか分からない男客が何人か来る。
その一人と女将は恋に落ちてしまうのだ。
それは、男の妻の知るところとなった。
考えられない程理不尽な虐めを受けながら、女将は男の妻の未練の狂態に何故か同情してしまうのだった。

彼女は又普段の商売に戻って、甘辛いけど暖かい目線で締めくくる場面が、いかにも向田邦子らしい。

私には、この健気で頑張り屋の女将に向田邦子が重なって見える。
実際、向田邦子は家庭のある男と密度の高い恋をしていた。

当時は情報があちこちに伝わらない。
それに彼女は個人の大事な秘密は誰にも打ち明けない人だった。
親しかった山口瞳も後で事実を知ってコンチクショーと思ったらしい。

ただ、この恋人は重い病気に罹って亡くなってしまう。
献身的に尽くした結果呆然とした向田邦子だが、そこで自らも癌に侵されているのを知る。

彼女が憑かれた様に創作に打ち込むのはその頃からだ。

読んでいただきありがとうございました。

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