病院の書架には、この『きんぎょの夢」
と山口瞳の『木槿の花』が隣り合って並んでいた。
偶然にも、「木槿の花」の半分が向田邦子の不慮の死を惜しむ文章で占められていたのだ。
人生の中で最高の光を浴びた才女を、それだけの事でなく山口瞳は手放しで褒めている。
彼女は独特の魅力で周りの人を惹きつける人だった。
作家仲間も彼女が好きで作品に期待する人が多かったのだ。
それ故山口瞳は彼女の不慮の死を、感情丸出しで、何度も惜しんでいる。
さて、向田邦子の葬儀の後親しい仲間が集まって飲みたい放題飲んだ。
そして誰からともなく肩を組みあい『戦友』を歌ったそうだ。
「ここは御国を何百里 離れて遠き満州の
友は野末の石の下」
歌詞は何番も続く。
途中、何人も涙で声が詰まりながら歌い切ったそうである。
『きんぎょの夢』から飛躍した話題になってしまった。
ただ、作家としての向田邦子は忘れ去りたくない。
彼女の書いた昭和の風俗を、今日読んで知ることは極めて貴重だと思う。
当時何処にでもある日常生活が、正確に書かれいて、人の心にホッとする安らぎを与える。
「古い」ことは確かだが、「良き時代の当たり前の人情」を描く作品にも一度触れてみたいと思う。
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