自民裏金問題で「もはや遠い昔」 ウクライナ電撃訪問、日銀総裁交代、G7広島サミット… 岸田首相の「激動の2023年」を振り返ってみた
2023/12/30 09:30
自民裏金問題で「もはや遠い昔」 ウクライナ電撃訪問、日銀総裁交代、G7広島サミット… 岸田首相の「激動の2023年」を振り返ってみた
(47NEWS)
「今年はいろいろあったけれど、『裏金』が炎上する前の出来事が、もはや遠い昔のようですよ」。年の瀬のある日、東京・永田町で会った自民党関係者が苦笑しながら口にした。「裏金」とはもちろん、自民党安倍派などの裏金問題のことだ。東京地検特捜部が派閥事務所へ家宅捜索に入るなど、異例の展開が続いている。
2023年最大の政治ニュースは裏金問題と言っていいだろう。とはいえ、自民党関係者の言葉通り2023年は他にもさまざまな出来事があった。岸田文雄首相のウクライナ電撃訪問、こども家庭庁の発足、日銀総裁の交代、岸田首相の地元・広島での先進7カ国首脳会議(G7サミット)開催―。内政、外交とも節目やイベントが相次いだ一年でもあったのだ。
そこで、2023年の主な政治関連の動きを振り返ってみたい。激動の一年だったが、政権への国民の評価が上向いていた時期もある。遠い昔のように感じるかもしれないが。(共同通信=中田良太)
▽1〜3月:岸田首相がウクライナを電撃訪問。首相秘書官が差別発言で更迭も
「覚悟を持って先送りできない問題への挑戦を続ける」。岸田首相は、1月4日、年頭記者会見で、こう抱負を述べた。2022年は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題や物価高などによる内閣支持率低迷の中で終えており、巻き返しの一年が始まった。
最初の大きな仕事は欧米歴訪だった。フランス、イギリスなどを訪問後、アメリカで1月13日(現地時間)にバイデン大統領と会談。経済安全保障における連携などを確認した。
2月には首相周辺による不祥事が批判の的となった。秘書官の荒井勝喜氏が3日、LGBTなど性的少数者や同性婚を巡って記者団に「見るのも嫌だ」などと差別発言をしたのだ。首相は4日、「言語道断だ」と荒井氏を秘書官から更迭した。
また、2月は原発を巡り大きな動きがあった。政府は10日、次世代型原発への建て替えや運転期間60年超への延長を盛り込んだ、脱炭素化に向けた基本方針を閣議決定。原発の依存度低減を掲げてきたエネルギー政策の方針を転換した。
3月は外交で重要なニュースが続いた。日韓関係悪化の一因となってきた元徴用工訴訟問題を巡り、韓国の尹錫悦政権が6日、「解決策」を発表。16日に東京で日韓首脳会談が行われ、両首脳は関係正常化で合意した。
21日には岸田首相がウクライナを電撃訪問した。首都キーウでゼレンスキー大統領と会談し、連携強化を打ち出した。首相は地元・広島県の必勝祈願のしゃもじを贈呈したが、この振る舞いが適切だったのか、後に議論となった。
▽4〜6月:首相の演説会場に爆発物。回復基調の支持率は長男問題で暗転
4月1日、こども家庭庁が発足した。深刻化する少子化への対策をはじめ、虐待や貧困など各省庁にまたがる多様な課題に一元的に取り組むとしている。
9日、日銀総裁に経済学者の植田和男氏が就任した。2013年3月の就任以降、アベノミクス推進の中核を担い、在任期間が歴代最長となった黒田東彦氏から10年ぶりに交代した。
岸田首相にとって悪い出来事もあった。15日に選挙応援で訪れた和歌山市の街頭演説会場に爆発物が投げ込まれたのだ。首相にけがはなかったが、2022年7月の安倍晋三元首相に続く要人襲撃は社会を揺さぶった。
5月19〜21日にかけ、G7広島サミットが開催された。アメリカのバイデン大統領らG7首脳は、原爆資料館を史上初めてそろって訪問。岸田首相は議長国記者会見で「核兵器のない世界」実現という理想をG7で共有したと意義を強調した。ウクライナのゼレンスキー大統領も来日した。
サミット前、ウクライナ電撃訪問などで内閣支持率は回復基調にあった。4月29、30両日の共同通信の全国電話世論調査で支持率は前月比8・5ポイント増の46・6%。サミット効果でさらなる上積みを期待する向きもあった。
だが、終了から間もない5月27、28両日の調査は、横ばいの47・0%。6月には40・8%へ下落した。マイナンバーカードを巡るトラブルの続出や物価高に加え、首相秘書官だった首相の長男・翔太郎氏の行動に批判が集まったことが要因とみられる。
週刊文春によると、翔太郎氏は2022年12月、親族らと忘年会を開催。赤じゅうたんが敷かれた階段で記念撮影を行った。首相が記者会見で使う演説台で親族とみられる男女がポーズを取る写真もあった。
一部報道機関が5月下旬に実施した世論調査では、サミット直後にもかかわらず支持率が下落した。6月1日に翔太郎氏は秘書官を交代となった。
▽7〜9月:処理水放出に中国反発。「不発」に終わった内閣改造
8月24日、東京電力は福島第1原発の廃炉を巡り、処理水の海洋放出に踏み切った。処理水は放射性物質で汚染された水を多核種除去設備(ALPS)で浄化したものだ。岸田首相は風評対策に全力を挙げる姿勢を示したが、漁業者は影響を懸念。中国も放出方針に反発し、7月の日中外相会談などでけん制した。放出後、日本産水産物の輸入を全面的に停止した。
9月13日、首相は内閣改造と党役員人事を実施した。発足した第2次岸田再改造内閣には、歴代最多タイとなる女性5人が入閣。改造後の記者会見で首相は「強固な実行力を持った閣僚を起用することとした」と人心一新をアピールした。だが内実は派閥への配慮がにじむ布陣で、国民の支持拡大は「不発」に終わった。共同通信の9月13、14両日の世論調査で内閣支持率は上昇こそしたものの、39・8%にとどまった。
さらに15日の副大臣・政務官人事で、女性起用がゼロとなり、野党から批判が相次いだ。10月の山田太郎文部科学政務官の交代や、12月の裏金問題を受けた人事により、副大臣、政務官とも女性ゼロは解消した。
▽10〜12月:裏金問題で激震。支持率は政権発足後で最低に
10月20日に臨時国会が召集されると、岸田政権は序盤から不祥事に悩まされた。10月26日、女性問題で山田太郎文部科学政務官が辞任。31日には、公選法違反事件に関与した疑惑により柿沢未途法務副大臣が辞任した。柿沢氏は12月28日、東京地検特捜部に公選法違反(買収など)の疑いで逮捕された。過去の税金滞納が報じられた神田憲次財務副大臣も11月13日、事実上の更迭となった。
岸田内閣は11月2日、所得税・住民税を計4万円減税し、低所得世帯へ7万円の給付を行う経済対策を閣議決定した。防衛費増額のための増税が控える中での減税判断には、交流サイト(SNS)上で岸田首相を「増税メガネ」とやゆすることをはじめとした「増税批判」を払拭する狙いがあったと指摘されている。
だが、減税も支持拡大につながらなかった。11月3〜5日の共同通信世論調査で62・5%が「評価しない」と回答。内閣支持率は28・3%で、2021年10月の岸田政権発足後で最低だった。
11月後半以降、国会の主要テーマは裏金問題になり、立憲民主党など野党は岸田首相らを厳しく追及した。東京地検特捜部が派閥担当者を任意で聴取したことが明らかになったからだ。12月に旧統一教会関係者と岸田首相の面会報道まで流れ、政権は対応に追われた。
裏金問題を巡っては、安倍派のパーティー券収入のキックバックを、派閥中枢の高木毅、松野博一、西村康稔、萩生田光一、世耕弘成の5氏らが受けていたとされる。松野氏は官房長官、西村氏は経済産業相を務めるなど、5人はいずれも政府や党の要職にいた。
立憲民主党は12月11日、派閥事務総長の経験がある松野氏の不信任決議案を衆院に提出した。12日の本会議で与党の反対により否決されたが、わずか2日後の14日、首相は松野氏など閣僚らを交代させる人事を実施した。安倍派の閣僚4人、副大臣5人、政務官1人が辞任。首相補佐官らも対象となった。政調会長の萩生田氏、国対委員長の高木氏、参院幹事長の世耕氏も辞表を提出した。
国民の目は厳しかった。「安倍派一掃」の人事もむなしく、12月16、17両日の共同通信世論調査で内閣支持率は22・3%と最低を更新。不支持率は65・4%に上った。自民党の支持率は11月から8・1ポイント減の26・0%に落ち込んだ。
東京地検特捜部は12月19日、安倍派と二階派の事務所を家宅捜索した。萩生田氏ら安倍派中枢の5人を事情聴取したことも、その後に判明。さらに27日、池田佳隆衆院議員の議員会館事務所などを家宅捜索した。池田氏側は安倍派から4000万円超を受け取ったと指摘されている。また28日には5000万円超を裏金にしていたとみられる大野泰正参院議員の関係先も家宅捜索。強制捜査は受領議員側にまで及ぶこととなった。自民党は今後も裏金問題に揺れそうだ。
▽「来年はどうなっちゃうんだろう」
2023年も内閣支持率が低迷する中で始まった。とはいえ、自民党の支持率は40・1%で、10%未満にとどまる他党を引き離していた。また、外交での得点を背景に一時的とはいえ内閣支持率は上昇した。
裏金問題と向き合う2024年、岸田首相を取り巻く環境はより厳しい。検察の捜査が及ぼす影響は底知れない。「政治とカネ」で失った国民の信用を取り戻すのは容易ではないだろう。政権の立て直しは、果たして可能なのか。
冒頭の自民党関係者は「『裏金』が炎上する前の出来事が、もはや遠い昔のようですよ」と述べた後、先行きの見えない不安をこう漏らしていた。「来年はどうなっちゃうんだろう…」