「ちょっと前までは『霜降り』じゃないと肉じゃない、みたいな感覚があったんですよね。でも最近、番組などでも『赤身肉』を食べる機会が増えて、赤身のレベルが上がっていると思うようになりました。軟らかいし、うまいし。僕の中では『肉イコール霜降り』の図式は崩れてきている」。「まいう~」でおなじみのお笑いコンビ、ホンジャマカの石塚英彦さんはそう語る。
グルメリポーターとして年の半分は全国を回り、朝昼晩3食とも必ず肉を食べる「肉好き」としても知られる石塚さん。その鋭い嗅覚から感じ取っているように、最近の肉ブームを支えているのは「赤身肉」だ。
「2~3年前から、がっつり食べたいけど、なるべく健康に、という『肉食女子』が脂肪分の少ない赤身肉を好むようになり、赤身肉人気をけん引したといえます。肉って、ファッションと似ていて、景気がよくなると“攻める”ムードが出て、売れるんですよ。景気の良さも下支えしているのではないでしょうか」。料亭や精肉を手掛ける肉の老舗「柿安本店」(三重県桑名市)の信田広美さんは、健康志向や景気回復がブームの背景にあると指摘する。
実際、赤身肉を提供する店はここ数年、急速に拡大している。飲食店のインターネット検索サービスを提供する「ぐるなび」によると、赤身肉のメニューを持つ店の登録数は2011年(4月1日現在)で約300店だったのが、今年(同)は約1200店と4倍に膨らんだ。
「赤身肉が注目され『脱・霜降り』現象が起きています。良いものを手軽に食べてもらおうと、『立ち食いステーキ』や『肉バル』などの新業態も赤身肉を提供し、人気はさらに広がったようです」とぐるなびの鈴木裕美さんは話す。「ペッパーフードサービス」が運営する立ち食いステーキ店「いきなり!ステーキ」などの登場が、赤身肉ファンの裾野を広げたようだ。
さらに、赤身肉人気を決定的にしたのが熟成肉だ。熟成肉は「脂肪分が少ない赤身肉をよりおいしく食べるための調理法として登場しました」と鈴木さん。生の肉を温度や湿度などを一定に保った冷蔵庫で30~40日ほどねかせたもので、表面についたカビなどの働きで肉は軟らかくなり、ナッツのようなまろやかな風味が生まれる。
「熟成というテクニックも加わり、赤身肉のうまみはすごくなっている。赤身肉はヘルシーでうまいっていう、なんかすごく良い方向に向かってくれている気がします」と石塚さんも歓迎する。
昨年ごろからは、シカやイノシシなどのジビエ料理を扱う店も増えた。ジビエ料理は、イノシシなどの野生動物が田畑を荒らす被害が広がっていることから、おいしく食べて農作物被害の有効な対策につなげよう、と注目された。厚生労働省が昨年10月、ジビエ料理を安全に食べるための指針を初めて作成。そんな話題性もあって、脂肪が少なく、栄養価が高いジビエ人気も上昇、肉ブームをいっそうもり立てているようだ。
肉には実際、栄養面でどんな効果があるのだろう。
プロスポーツ選手らの栄養指導を手掛けてきた管理栄養士で医学博士の本多京子さんはこう話す。「髪も皮膚も骨もそうですが、人間の体の組織を作る重要な栄養素がたんぱく質。肉はたんぱく質を豊富に含むので、若い人もお年寄りも意識して食べることが必要です。特に赤身肉はカロリーが少なく、基礎代謝が低下したお年寄りにも向いています」
ただ、肉ばかり大量に食べるなど偏った食事はNGだ。本多さんは、肉や魚、卵などの「動物性たんぱく質」と、豆腐や納豆といった大豆製品などの「植物性たんぱく質」を同じ比率で食べることが最もよいと指摘する。「赤身肉だって、取り過ぎれば大腸がんのリスクが高まるんですよ。お肉は1日50~80グラムを目安に、魚や大豆なども加えバランス良く食べてください」。でも、焼き肉パーティーで肉が50グラムなんて物足りない。「お肉をたくさん食べた日の翌日は魚や大豆を多く取るなど、2~3日で調整すればいいんです。楽しみながら、お肉と上手につきあってください」
世界的な和食ブームに伴い、海外では高級和牛の引き合いが強まる。一方、協議が最終局面に入っている環太平洋パートナーシップ協定(TPP)が実現すれば、輸入肉の価格が下がり、肉がより身近な存在になる可能性が高い。冒頭の肉フェスは元々、そんな肉に対する関心の高まりを受けて企画された。期待以上の反響が続いたため、8月には初の地方都市開催として新潟県で開かれるという。
肉をめぐる話題は今後も熱を帯びそうだが、肉を楽しく食べられる世の中は、なんだか明るさと力に満ちているような気がする。そもそも肉の魅力って何だろう。石塚さんはにっこり笑いこう結ぶ。
「疲れている時に肉を食べると元気になる。逆に、肉を食べたんだから頑張りなさい、と励まされる。やる気を出したい時は肉。優しい言葉よりも肉。肉って、やる気を起こさせる起爆剤みたいなものなんですよね」
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