理乃美

ソフトとハードと論理の覚え書き

ドップラーセンサーとPluto SDRによるマイクロ波 FM通信実験

2021-08-04 16:15:12 | RF

ドップラーセンサーを送信機にPluto SDRを受信機にして 10GHz 帯FM音声通信の室内実験に成功した。

元ネタは、RFワールド No.8 の マイクロ波FMワイヤレス・マイクの制作[1] や 2018年のマイクロウェーブミーティング講演資料 [2]など.

 

0. はじめに、

昔は、マイクロ波というとガンダイオードを使うのが定番だった。最近では簡単には手に入らないなぁ、と思っていたところに前記の情報を得たので試してみることにした。

RFワールドの記事は送信も受信もドップラーセンサー。送信側はドップラーセンサーの電源を揺さぶるという単純な物だが、受信側はドップラーセンサーのIF出力をFM復調する回路の制作・調整が面倒そう。

Pluto SDR同志だと、そもそも2台必要なうえ、基本波を十分にカットできないとどっちの周波数で通信しているのかわからなくなってしまう。10GHzの1/3は携帯電話に割り当てられた周波数でもあるしね。

ということで、送信はドップラーセンサー、受信は PlutoSDR という組み合わせでいくことにした。

1. ドップラーセンサー

RFワールドの記事で使っていたドップラーセンサーは新日本無線のNJR4178J。以前は秋月電子通商で単体購入できたが、今はキットに含まれるパーツとしてしか入手できない。そのいっぽうで、みんな大好き中華通販では HB100というドップラーセンサーがあちこちでお安く売られている。ということで、両方を入手して試すことにした。まあ、HB100と言ってもパチモンだとは思う。この記事でHB100とあるのは、私がAliExpressでとある販売店から購入したドプラーセンサーのこととして読んでほしい。

左がNJR4178Jで右がHB100。電線は実験の為に私がハンダ付けしたもの。MJRがダイキャストのしっかりしたカバーに対してHB100はプレスで作ったカバー。どちらも裏のシールをはがすと周波数調整用のビス穴が現れる。

HB100をバラすとこうなる。おそらく、左上のは発振用のTrと誘電体共振器。中央下にはミキサのデュアルダイオードかな。

2. PlutoSDRを使った 10GHz帯の信号確認

まずは、アンテナ作り。なにしろ、10GHz帯を扱える測定器が無いので 10.525GHzの 1/3 の 3.5GHz用パッチアンテナを制作。この周波数なら PlutoSDRで直接扱えるし、手持ちのスペアナで受信もできる。手持ち機材で3.5GHzでの動作が確認できれば、その3倍波でも動作するだろうという算段。

手持ちの1.6t ガラエポ両面基板を適当に切り出し、幅広のビニルテープを張り付けてレジストにしてエッチング。SMAのジャックをはんだ付けして一丁上がり。二つ作って、一つはPlutoSDRのTXに、もう一つはスペアナ接続して電波が通ることを無事確認。アンテナはできた。

次に、ドップラーセンサー(NJR4178J)に5Vを供給してPluto SDRで受信を試みる。制御は、いつものごとくJetson nano上のGNU Radio 3.7 。サンプル周波数がかぎられているので、ちょっと探したが無事ドップラーセンサーからの信号を確認。

だが、少々妙な現象が。スペアナ表示をさせて、信号がセンター周波数より高いときにLO Frequencyを高くすると、信号はより高いほうに逃げてゆく。つまり、周波数の高低が逆にみえている。

PlutoSDRで3倍波が受信できるのは、LOの3倍波成分と信号とでのIQ復調だと想像するが、3倍波成分なので本来の相とは異なっていることで周波数関係がひっくり返って見えるのではないだろうか。ただ、周波数が逆なのは混乱するので Complex Conjugate を通して逆転させることにした。

次に、ドップラーセンサーをHB100に換えて受信実験をしたところ、なかなか信号を探し当てられずに苦労した。結局、230MHzも下に離れていたのをやっとこさ探しあてた。中華クオリティなのか、かの国の周波数割り当てがそうなのかは不明だけど。

なお、ドップラーセンサーと受信アンテナが (5cmとか) 近すぎるとゴーストの信号が見えたりする。20cmほど離して実験することにした。

3.  ドップラーセンサーを使ったFM送信機

回路は次の通り、とっても安直。12Vを5KΩの10回転ポットで分圧して基準電圧を作り、OPアンプのボルテージフォロアの出力をそのままドップラーセンサーの電源とするという作り。ドップラーセンサー程度ならオーディオ用のOPアンプでドライブできるだろう、異常発振があったらその時はまた考えるさ、という考えである。基準電源のインピーダンスが1KΩ程度だからイヤホン出力で十分ドライブできるだろうと考え、ウォークマン(音源)のイヤホン出力を100uのコンデンサーでDCカットしてつないだ。

回路はブレッドボードに組んだ。赤と緑のミノムシクリップはウォークマンのイヤホンジャックからの線。右上からの撚った線は電源(12Vなのは機材の都合)。OPアンプの下半分は未使用で、上半分をボルテージフォロアーに使っている。

4. PlutoSDRを使った FM受信機

最終的なGnu Radioの構成は以下の通り。Complex Conjugateが挟まっているのを除けば、何の芸もないFM受信回路。

5. FM通信実験

通信実験をしてみたところ、意外とあっさり成功。ただし、リアルタイムの音声出力に対して信号生成が追い付かずにぽつぽつとノイズが入る。GNURadioのログに、aUaUと並んでいるのがそれ。サンプルレートやFM変調のパラメータを調整すれば解決できるだろう。

最初はNJR4178J。ウォークマンの音量を最大にして流し込むと、HDMIでつながったモニターのスピーカーからはっきりと音が流れる。アナウンス音声だとノイズが目立つがJ-Popならノイズは気にならない。

次にHB100で実験。周波数をHB100に合わせた状態で試したところ音が割れる。ウォークマンの音量を半分に絞ったところいい感じの音になった。HB100の方が、電圧-周波数の感度が高いと見て取れる。

6. 電源電圧-周波数の関係を測定

改めてドップラーセンサーの電源電圧と周波数の関係を測定した。マイクロ波カウンターなど無いので、GNU Radio でFFT表示させ、画面から読み取った。周波数基準はPLUTO内蔵のクリスタルなので絶対精度は期待できない。また、発振周波数はゆらゆらと動いているところを、えいやと読み取った値である。

結果、VCOとして考えると、HB100はNJR4178Jより20倍感度が良い。ただし、周波数の揺らぎも同様な感じがする。

7. まとめ 

ドップラーセンサーとPlutoSDRを組み合わせることで、夏休みの工作レベルの手軽さで 10GHz帯のFM音声通信を実現することができた。

 

[1] マイクロ波FMワイヤレス・マイクの制作, 漆谷 正義, RFワールド No.8 p62-, CQ出版社

[2] PlutoSDR単体による10GHz帯の送信と受信, JA1SYK 松本 廣, 2018/11/17,  http://www5.wind.ne.jp/ja1syk/MWM-2018/PlutoSDR-10GHz-P.pdf

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