Belle Epoque

美しい空間と、美しい時間

『譜めくりの女』

2010-06-15 | cinema... eiga
理由はもはやなく、狂気は、ただそこに存在するだけ。・・・

美しく不思議な映画を観ました。
一つの楽曲を聴くように始まり、演奏が終わるようにそっとエンディングを迎えました。
監督は実際に実績ある演奏家だそうで、西洋音楽にこめられた緊張感、高揚、これらを映画にしたのでした。
「フーガのような構成になっている」そうです。
筋は、あってないようなもので、矛盾いっぱいのシュールな流れですが、物語の骨格に大した意味はなく、逆に物語が適当だからこそ、細部に魅力が光ります。
そういう、一枚の混沌とした絵画のような映画が、わたしは好きです。


公開された時の監督のインタビューに、こんなのを読んだことある記憶があり、
(おぼろげなので、もしかしたら違う映画かもしれないが・・・)
とても興味深く思っていました。

「こだわったこと、それは主人公の少女の髪の色。日本では皆黒髪なので、髪の色のニュアンスというものになじみがないかもしれないが、西洋では、髪の色とキャラクターが密接な関係を持っている。
主人公の髪の色は、金髪に少しだけ赤を溶かしこんで微妙な色を作ってみた。赤毛の女というのは西洋ではとても情熱的なんだ。彼女の隠れた狂気を、髪の色が表現している。」

この映画を音楽とするなら、色は音符です。
「SATC」と違って、この映画の登場人物たちは繰り返し同じ服を着て登場します。そこにはメッセージがあるのです。服の色が、彼女たちの心理状態やポジションを示します。
服と髪の色の調和、部屋の壁紙の色と模様、
これらが「演奏されて」います。
役者たちは、抑えた演技。その内側に観客は目をこらすしかなく、その入り口が、これらの色です。

翻弄される女性ピアニストは、暗い赤毛に、彼女の不安を体現しているかのようなぼんやりと白い、あるいは白地の服を着て、透き通るように青い壁の部屋で、黒いピアノに向かいます。
黒やボルドーの、闇に融ける色の服に身を包んだ主人公の少女の金髪は、どの部屋でも明かりのように輝きます。
白い肌と、赤いくちびると、戸外の緑と、冷たいプールの水の色。
時には晴天の蒼、大地の豊かな土色。
色の重なりが、この映画を奏で続けています。



ストーリーにはなんの教訓もなく、ひとの狂気が仄かに、香の煙のように昇って流れ、消えていくだけの映画。
しかし、ひとつの曲が言葉にならない印象を心にそっと刻みこみ、時には潤すように、この映画も静かで濃密な印象を残してくれました。


『譜めくりの女 La tourneuse de pages』

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