BLロック王子小説「ディスティニーアンダー・グラウンド-ギターとスターに愛され過ぎた王子-」

 ★過去に傷を持つ美貌のロックギタリスト遠藤麻也(まや)。運命の恋人・日向 諒と東京ドームに立つが…

★BLロック王子小説22-10「ディスティニーアンダーグラウンド」

2020-03-21 15:15:00 | ★ディスティニー22章
 クローゼットの中だったっけ と、諒がクローゼットの下の棚を見ると、奥の方に2種類の薬袋があった。それを二つとも取り出して尋ねた。 何錠だったっけ?…
 するとベッドに座った麻也は目をそらしたまま、
「自分でやるからいいよ」
 それでも諒はいちおうキッチンからミネラルウォーターを持ってきて、麻也にその薬をのませた。
  そして、サイドテーブルに水のボトルと薬袋を置くと、諒は麻也を寝かしつけることもせず、背を向けたまま寝室を出た。ドアに外鍵があればよかったのにと思いながら 。
諒はリビングに戻ると、飲み残していたシャンパンのグラスを空けた。手が震えていた。
 足りなくて、もう一杯を半分空けたところで携帯が鳴った。
 ディスプレイで社長からとわかったので仕方なく諒は出た。
 麻也が、今度はこの家から出ていかないか心配になって廊下に移りながら。
ー諒、今自宅か? 麻也はいるか? さっきから麻也の携帯にかけても出なくて…
「家です。麻也さんは寝てます」
 社長の緊迫した様子に諒は怖くなったが、社長はそのままの調子で、
ー諒、あの関村響子っていう女優には、最近はどんな感じで付きまとわれてたんだ? ホテルに突撃されて須藤くんたちが撃退したのは聞いてるけど、自宅に押しかけられたりもしてたのか?
 思いもよらなかった質問に諒は戸惑ったが、
「いえ、それはなかったです。そのホテルと楽屋だけ須藤さんたちがいるところばかりだったから助かりました…何かあったんですか?」
 すると社長は、
ー麻也と、えーっと、冬弥君とかいう子と鈴音ちゃんも同じ感じだったのかな?
 それを言われて諒は返事に困った。
「う一ん、麻也さんからは何も聞いてませんけど、麻也さんだけの、俺らメンバーとは別の現場だと本当のところはわかんないですね」
 それを聞いた社長は、また麻也を起こすことはできないかと尋ねてくる。
「いやかなり疲れてるんで起こすのは忍びないんですけど…」
ーじゃあ俺が後からそっち行って話すけど、お前には先に言っとくな。さっきあの冬弥の親父さん、大御所俳優の藤田氏がわざわざ事務所に来たんだよ。昨日の詫びということで。
 諒は一瞬何を言われているかわからなかった。
ーこれまで冬弥が麻也をはじめとしてディスグラの皆に迷惑をかけてすまなかったと。親として申し訳ないと…それでこれを機に冬弥は芸能界を辞めさせるんだって。本人も承知だって。
(え…?)
 頭の中がまっ白になった。よく尋ね返せたと思う。
「どういうことですか?」
ー昨日の土下座もセリフもあの女優、響子の差し金だったんだって。
「えっ…」
 そこで諒は聞かされた。響子が冬弥と鈴音の二人を騙して操っていたことを。
「どこからそんな話が…」
ー親父さんが本人を問い詰めて聞き出したそうだ。
「それ本当なんでしょうか?」
ー親父さんが言うには本当らしい。友人夫婦の女房の方に裏切られたと大ショックみたいだったよ。あの落ち込みようは演技には見えなかったな。
 社長の声には真実味があった。

★BLロック王子小説22-9「ディスティニーアンダーグラウンド」

2020-02-22 21:16:08 | ★ディスティニー22章
 諒は麻也を無理やりバルコニーの手すり壁から引きはがそうとするが、バランスが崩れそうで怖い。
 それをどうにか引きはがした時、諒も一緒に倒れ込んでしまった。
「何やってんだよ! 全部バレたら逃亡かよ! 死んだら何やっても許されると思ってんのかよ!」
 ショックのあまり諒も悪態をついてしまった。
 しかしここは五階である。 麻也もショックのせいか涙が止まらないようだった。
「 諒、信じて…信じてくれるだけでいいんだ…」  
「だから、もうどうやったって無駄さ、信じられねえよ、こんな狂言やったって」
とっさに出た「狂言」、という言葉に諒自身も驚き、麻也の体がビクッと反応したのも感じて後悔した。
 しかし、それから何と言っていいかわからず、 それでも仲間への最後の温情とでもいったものなのか、諒は優しく肩を抱き立ち上がらせて、麻也をリビングに入れた。
 でも、それでも心配だったので、窓が小さいベッドルームへと肩を貸して連れていった。麻也の体は小刻みに震えていた。
(何か鎮静剤のようなものでもあれば…)
 それで麻也をベッドに座らせると諒は、
「睡眠導入剤まだあるって言ってたよね? それでものんで少し休みなよ」

★BLロック王子小説22-8「ディスティニーアンダーグラウンド」

2020-02-21 22:09:07 | ★ディスティニー22章
「 お前のやってることは、あの坂口と一緒だよ!」
 麻也の目が大きく見開かれ、何とも言えない色をたたえているのを見て、間違っているのは自分ではないかと諒は思った。なのに
「処女をつまみ食いしてポイ捨てかよ。まぁ俺は同性愛での童貞だったけど、それとも俺に突っ込んでみたかった? 」
「違うよ、そんなんじゃない… 」
「 浮気みたいなことも嫌だけど、あんたがそんな奴だと思わなかった。 いや、坂口の方がマシかもな、あんたにマンションだのポルシェだの買ってやったんだからな。」
 麻也は諒にバレるのが嫌だというのを口実に、冬弥にも鈴音にもプレゼントのひとつも買ってやらない冷たいヤツという噂も諒は嫌だった。
「それとも、この一連のことはあんたと坂口のプレイってわけ?  俺とセックスの後もふとした時もぼーっと何か物思いにふけってさ、ツアーの頃のセックス依存症も坂口が忘れられなかったからだろ。よっぽど坂口とのセックスが良かったんだろうね」
「 違う!」
「何が違うのかな、可愛いMA-YAちゃん」
「 やめろよ…」
「もうこれで終わりだよ、俺もうあんたの事 信じられねーもん。なんにも知らないアマチュアバンドの俺を引っ掛けるなんて簡単だったろうね 。 心に傷があるなんて、処女を捧げたオヤジのことが忘れられないだけじゃ…」
「違う!」
「 んまあ、麻也ちゃん安心して。俺はバンドの方は辞めないからバンドは東京ドームに一番近いところで付けてるからね 」
  諒はリビングを出ようとした。
  すると、背後で勢いよくベランダに面した大きな窓が開く音がした 。
 振り向くと…
 勢いよく麻也が飛び出していく…
 麻也の黒くふわふわの長い髪がたなびく。
 真っ青になって、諒も後を追う 。
 見れば黒のスーツ姿の麻也がこの5階のバルコニーを乗り越えようとしていた…

★BLロック王子小説22-7「ディスティニーアンダーグラウンド」

2020-02-20 21:46:42 | ★ディスティニー22章
「アンタなんか、裸の王様だよ! バンドのためにアイドルのプロデュースまで引き受けて、体こわしてすまないなと思ってたのに、外でいったい何やってたんだよ!」
 麻也の顔色がみるみるうちに青ざめていくのがわかる。それは自分が言っていることが間違っているせいなのか。そうであってほしい、と思いながらも諒は自分の言葉を止められない。
「 ロリコン野郎がバンドのことは放っておいて、このザマかよ」
 そして、最も相手を傷つけることを選んでしまう。 
「あんたの曲のセンスは古いんだよ。 もうあんたのやり方は古いんだよ。俺はもう25になるから賞味期限切れってわけ? とんだシンデレラだな。 こっちが子持ちでバツイチだからっていつまでも下手に出てると思ったら、大間違いだよ。 まあ、あんたの甘ったるいラブソングはせいぜいあのガキ共に歌わせてろよ。 もうあんたの歌を、俺に歌わせるのはやめてくれ。俺の歌が死にそうだ」
 しかし…
 諒はなぜかまだ言い足りない。
(俺、本当は麻也さんの過去を憎んできたって言いたい?) 
それは付き合いをスタートさせた時の約束を破ること…過去の傷を癒やすって…
(でも、あのオヤジは今も麻也さんとつながってるって言ってた。あの悪徳社長のサカグチ…芸能界のドン…)

★BLロック王子小説22ー6「ディスティニーアンダーグラウンド」

2020-02-19 22:23:47 | ★ディスティニー22章
「あれ、諒そのシャンパン開けちゃったんだ」
 麻也の声だった。諒は目がさめた。
 おかえり、と言いかけて、諒は昨夜のいきさつを思い出し、ロをつぐんだ。
 麻也も疲れた様子で、何も言わない。
 諒は初めて麻也から何かをもらっている状態が嫌になって、シャンパンの壜をテーブルの上で麻也の方へ押しやった。
 それに麻也は驚いたようだったが、いい言葉が見つからないらしく無言のまま…
 諒はいつものように麻也の体調が気になって、どこに泊まったのか尋ねようとして、止めた。
(もう、やだ。ツアー中もあんなに俺は尽くしたのに、麻也さんには他に…) 
 諒は思い余って、二人のシルバーのエンゲージリングを左手の薬指から引き抜くとテーブルの上にガツンと勢いよく置き、
「営業ホモ、お疲れ様。もう俺のこと。愛してないんでしょ、もう俺は騙されないよ。 お仕事のため、保身のために愛してるふりしてるだけなんでしょ」
麻也は何のことかわからないらしく、諒を見つめるばかりだった。
「あんたがあの時、弟のバンドを見に来なければ、 俺はあのトシで父親になることもなかったし、人生狂うこともなかったんだ!」
「諒…」
「もうこれ以上、俺の人生狂わせるのやめてくれる?ねえ? おエラいプロデューサーさんよ!」