クローゼットの中だったっけ と、諒がクローゼットの下の棚を見ると、奥の方に2種類の薬袋があった。それを二つとも取り出して尋ねた。 何錠だったっけ?…
するとベッドに座った麻也は目をそらしたまま、
「自分でやるからいいよ」
それでも諒はいちおうキッチンからミネラルウォーターを持ってきて、麻也にその薬をのませた。
そして、サイドテーブルに水のボトルと薬袋を置くと、諒は麻也を寝かしつけることもせず、背を向けたまま寝室を出た。ドアに外鍵があればよかったのにと思いながら 。
諒はリビングに戻ると、飲み残していたシャンパンのグラスを空けた。手が震えていた。
足りなくて、もう一杯を半分空けたところで携帯が鳴った。
ディスプレイで社長からとわかったので仕方なく諒は出た。
麻也が、今度はこの家から出ていかないか心配になって廊下に移りながら。
ー諒、今自宅か? 麻也はいるか? さっきから麻也の携帯にかけても出なくて…
「家です。麻也さんは寝てます」
社長の緊迫した様子に諒は怖くなったが、社長はそのままの調子で、
ー諒、あの関村響子っていう女優には、最近はどんな感じで付きまとわれてたんだ? ホテルに突撃されて須藤くんたちが撃退したのは聞いてるけど、自宅に押しかけられたりもしてたのか?
思いもよらなかった質問に諒は戸惑ったが、
「いえ、それはなかったです。そのホテルと楽屋だけ須藤さんたちがいるところばかりだったから助かりました…何かあったんですか?」
すると社長は、
ー麻也と、えーっと、冬弥君とかいう子と鈴音ちゃんも同じ感じだったのかな?
それを言われて諒は返事に困った。
「う一ん、麻也さんからは何も聞いてませんけど、麻也さんだけの、俺らメンバーとは別の現場だと本当のところはわかんないですね」
それを聞いた社長は、また麻也を起こすことはできないかと尋ねてくる。
「いやかなり疲れてるんで起こすのは忍びないんですけど…」
ーじゃあ俺が後からそっち行って話すけど、お前には先に言っとくな。さっきあの冬弥の親父さん、大御所俳優の藤田氏がわざわざ事務所に来たんだよ。昨日の詫びということで。
諒は一瞬何を言われているかわからなかった。
ーこれまで冬弥が麻也をはじめとしてディスグラの皆に迷惑をかけてすまなかったと。親として申し訳ないと…それでこれを機に冬弥は芸能界を辞めさせるんだって。本人も承知だって。
(え…?)
頭の中がまっ白になった。よく尋ね返せたと思う。
「どういうことですか?」
ー昨日の土下座もセリフもあの女優、響子の差し金だったんだって。
「えっ…」
そこで諒は聞かされた。響子が冬弥と鈴音の二人を騙して操っていたことを。
「どこからそんな話が…」
ー親父さんが本人を問い詰めて聞き出したそうだ。
「それ本当なんでしょうか?」
ー親父さんが言うには本当らしい。友人夫婦の女房の方に裏切られたと大ショックみたいだったよ。あの落ち込みようは演技には見えなかったな。
社長の声には真実味があった。