BLロック王子小説「ディスティニーアンダー・グラウンド-ギターとスターに愛され過ぎた王子-」

 ★過去に傷を持つ美貌のロックギタリスト遠藤麻也(まや)。運命の恋人・日向 諒と東京ドームに立つが…

BLロック王子小説23-13「ディスティニーアンダーグラウンド」

2020-09-24 20:41:48 | ★ディスティニー第23章

 入院して三日目に、麻也は静かな環境の病院に移ることをすすめられ、その通りにした。

 追っかけもうろうろし始めていたので…

 地元ではあるが、山の奥の方の病院なので、麻也を乗せた車はどんどん山を登っていく。

「俺、いつか本当に家へ帰してもらえるのかなあ?」


 麻也があまりに不安そうなので、真樹と須藤と鈴木は大笑いしていた。

 しかし、麻也の隣りに無理やり乗ってきた諒は無言のままだった。


 到着してみると、外観からしていつもの病院よりやっぱり古い。


 入院の手続きを済ませて


「麻也さん、早く部屋に入りましょう」


須藤に促されて入った部屋はまあまあだった。


疲れた麻也がベッドの上に座ると、諒は須藤に耳うちをした。

「あ、私たちはこのへんで…」

と、二人とも麻也たちに笑顔で部屋を出ていった。


(俺のせいで仕事なのかな…)


麻也は暗い気持ちになった。


 それで、

「鈴木さん、俺のことその、ファンにはどう伝わってるんだろう?」


 最初の病室に飛び込んできて、泣き続けた母のことを、麻也は思い出していた。


 もううちにはいなくなっていい子なんていないのよ…


 しかし、鈴木の答えは頼もしいものだった。

「確かにショックだったとは思いますが、万全の手を打ちましたから大丈夫です」

と、社長と真樹がいち早くテレビでお詫びをしたこと、他のメディアにもすぐに対応したことで、ファンはかなり落ち着いたということだった。


「やっぱり、弟の真樹さんが表に出てくれたのが大きかったんでしょうね」

 麻也は真樹にすまなくてうつむいてしまった。

 すると鈴木は励ますように、

「でも、実は、麻也さんにお願いしたいことがあるんです」

ファンクラブで号外的に今回のことをお詫びしたいので、麻也に自筆で書いてほしいというのだ。

「まだ気分がのらないようでしたら、文章を考える手伝いは僕もしますので」

 麻也は頭を抱え込んだ。

「あ、まだキツいですかね。でも、せめて麻也さんの、ファンに大評判の綺麗な字を見せたいんです。王子さまらしいあの字で、順調に回復してることを伝えて…」


 しかし、鈴木はまだ治りきっていない麻也に告げていなかっただけで、ファンのパニックは大変なもので、まだ続いていた。

 なぜ麻也はこんなことになってしまったのか…


BLロック王子小説23-12「ディスティニーアンダーグラウンド」

2020-09-17 22:42:00 | ★ディスティニー第23章
 諒にとっても、世間の目をはばかった入院生活だった。まあ諒は次の日には退院して、いつものマンションの部屋に戻ったのだが。
 
 事件の日の病院には、最初は両親の2人で飛んできた。まだ小さい大翔〈ひろと〉はご近所に預けてきたという。

 2人とも諒を責めなかったが、父が、
「芸術家同士の同居ってものに、無理があるんじゃないか」
 と麻也との同居を解消することをやんわりと提案してきた。
 特に母は、
「忙しかったらお母さんも身の回りの世話を手伝うから。
 その…きちんと再婚するまでは1人暮らしの方がいいんじゃない?」
母の方は諒の麻也への気持ちを黙認している面があっただけに、諒の胸にはずしりときた。
「再婚て…」
しかし、まだ今日の事件ショックから立ち直れてない諒は、理解できなかった。
「大翔もものがわかってきたら…新しい親がどんな人でどうつきあうのか悩むだろうし…」
まだベッドの上にすわっていた諒は、返す言葉がなかった。

★BLロック王子小説23-11「ディスティニーアンダーグラウンド」

2020-09-08 22:13:00 | ★ディスティニー第23章
諒はつらそうに言った。
「麻也さん戻れないの?俺達は?」
そして、
「麻也さんからどんな回答もらったとしても、俺は今の方が幸せかもしれない。麻也さんの苦しみが初めてよくわかったから、その理由がよくわかったから」
 
 本来ならありえないことだろうが、悪い夢からぼんやりと覚めた麻也にはその諒らしい強引さが嬉しかった。
 諒に捨てられなくて良かった。
 あんなことがあっても自分はやっぱり諒が必要なんだ…
 
「麻也さんの苦しみにつけ込んで付き合い始めた俺は間違っていたよ、本当に卑怯だった。でもそれでも麻也さんが欲しかった。でもこれでその卑怯から逃れられるような気がするんだ」

 諒もずっと嫌なことをたくさん聞きかされ、悩んできたのだろう。言葉が止まらない。
「これでフェアに麻也さんに付き合ってくださいって言えて、麻也さんもちゃんと俺に回答してくれると思うんだ」
 そして唇を噛み締めると、
 「それが、麻也さんのノーだとしても…今がそのスタートなんだと思う。2人の本当のスタートなんだと思う
そう言って寂しそうに微笑んだ。

 そこにドアがノックされ看護婦が入ってきて、びっくりした表情を浮かべた。
 よく見ると前にも風邪をこじらせて入院した時にお世話になった看護婦だった。
「まぁ、諒さん悪いけど、この部屋は今は身内しか入れないのよ」
 すぐに麻也がとっさに、こっちは俺のいとこなんでと適当な作り事を言う。

 それを受けて、彼女は、まぁ芸能人の方だしね、皆さん、さっきも社長さんやマネージャーさんも入ってたんだから、まあメンバーの方もいいわよねと言って麻也の点滴の様子を確認すると出ていった。
 
 麻也がかばってくれたので、諒は少しほっとした。自分のことを完全に悪くは思っていないかもと思って…
 
 麻也の「事件」はその日の一般紙の夕刊で小さく取り上げられただけだったが、麻也の知らぬところでファンには大騒ぎされていた。
 事務所に鈴音との結婚を反対されているせいだったらどうしようなどと… 
 テレビのニュースの方には麻也の事故はやや大きく取り上げられてしまった。
 社長が、全くの事故であり、事件性はない、お騒がせして申し訳ないというコメントを社長の家の玄関で読み上げたというのも麻也は数日後に知った。
 翌朝のワイドショーでは事件性がないことで、先の社長のコメントに、「同じバンドのベースで、実の弟の真樹さんのコメント」として、
〈お騒がせして申し訳ありません…兄はここ数ヶ月、疲労から不眠に悩んでおり、病院で処方された薬を服用していました。
それを昨日は間違ってアルコールで飲んでしまい、こんなことになってしまいました。
 倒れているのを見つけて、救急車を呼んだのは同居人の諒です。
 幸い軽症で、数日で退院、あとは静養の予定です〉
 そのように、社長の家の玄関で読み上げた。
 おかげで、ファンからの事務所への鳴りっぱなしの電話もファックスもやっと収まったのだった。