BLロック王子小説「ディスティニーアンダー・グラウンド-ギターとスターに愛され過ぎた王子-」

 ★過去に傷を持つ美貌のロックギタリスト遠藤麻也(まや)。運命の恋人・日向 諒と東京ドームに立つが…

★BLロック王子小説23-19「ディスティニーアンダーグラウンド」

2020-12-23 15:23:38 | ★ディスティニー第23章

 直人が某ブランドの香水のキャラクターになっていたこと、ロックの大御所・西園寺勝輝のミュージックビデオに役者として出演していたこと…

「カッコ良かった?」

「なんだ、お前、まだ見てないのか。カッコ良かったぞ。黒い真っ直ぐな髪なびかせちゃったりしてさ」

 あれなら男の子にもウケるんじゃないかな…の言葉に、二人はこの日初めて大笑いした。

 しかし、それで父は諒のことを思い出してしまったらしく、困った顔で、

「あれから諒くんとは話とかしてるのか?」

 麻也は少し答えに困った。どうにか、

「次の曲を書くことになりそうだって言ってたよ」

 麻也は今回の事件の真の原因を、当然両親には話していない。麻也のかつてのあの「事件」を知っているのは、恭一と諒と、きっと真樹だけだ。


 諒は麻也の病室を訪れ続けていた。

 迷惑だったら言ってね、と本来ならば言うべきなのだろうが、諒はあえて言わなかった。

 言ってしまえば2人のこの微妙な関係が崩れてしまうようで…

 そのことには触れず、ベッドの脇の椅子に座って、麻也の手を優しく取った。

 この日はまだ10日目だというのに、諒は麻也の手を強く握ると、

「ごめん、麻也さん。俺100日ここに通うつもりだったんだけど…」

「えっ…?」

 麻也の顔がみるみる曇る。それを見て諒は少しほっとしながらも…自分もちょっと涙目なのを感じている。

 どう切り出したものか…

「いい話だよ。あのね、その、俺が最初に話していいか分からないんだけど…実は俺たちに、ディスグラに、東京ドームでやらないかっていう話が来てるのね…」

「えっ?」

 麻也は驚いて諒の顔を見つめるばかりだった。

 そして、やっと、

「えっ? 東京ドーム?」

そして暗い表情になると、

「…何でそんな名誉なことが? 俺がみんなに迷惑かけてるのに…」

 諒が長くなりそうな説明に口ごもった時に、麻也はかすかな声で呟いた。


★BLロック王子小説23-18「ディスティニーアンダーグラウンド」

2020-12-21 21:45:07 | ★ディスティニー第23章

本当ならば、諒と一緒に二人のあの部屋にいたかったからだ。諒が本当にまだ自分を愛しているのなら、という条件つきだが。

「いや…社長の家にかくまってもらおうと思ってる。しつこい追っかけが病院のまわりもうろうろしてるっていうから…」

 父も苦々しそうに、

「…確かにウチのまわりも、女の子はうろうろはしてるんだ…お前には言いたくなかったけど…」

 麻也も大きなため息をついてしまった。

「父さん、ごめんね」

 いやいや、と首を横に振ったが、父はなおも、

「ウチだって、警備もつけてるのに…社長さんの家の方がいいのか? すぐに仕事か?」

 事務所に不信感を抱いてしまった父は、少し怒ったように言う。

 麻也はありのままを言った。

「仕事はないよ。社長の家は都心の一等地の戸建だけど、ウチと違って、庭は狭くて不審者が入って来づらいんだよ。警備会社もうちと同じだし、息子さんたち男手もあって、留守になることがほとんどないし」

 それにひきかえ、麻也の実家は東京でも郊外の、のどかなところだ。

「ウチは昔風に敷地が広いし、門は門扉ないから誰でも車のままで入れるし、物置や蔵に誰か潜んでも嫌だし。特にひとりの時間が長いお母さんが心配で」

 確かにそうなので、父は困ったように黙り込んだ。 

 しかし、そこで麻也は気づいてしまった。

 諒とのマンションの部屋が一番、システム的にはセキュリティーが充実していることに。

 父がそのことを思い出さなければいいなと思った。

(でも、これを理由にあの部屋に帰れたら…)

 そして、今ここに諒が来たらどうしよう、と少し焦った。

 しかし、父は意外にも話題を変えた。

「お前、本当に仕事の方はどうなるんだ?」

 一瞬麻也は言葉に詰まったが、

「それ考えると眠れなくなっちゃうんだけど、俺はやめたくない。事務所からも医者からも止めてほしいとは言われてないし」

「メンバーは? 真樹はともかく、諒くんや直人くんは?」

と言いかけて、

「そういや、直人くんはまだバンドにいるんだろ?」

などと、恐ろしいことを言い出した。

「いるよぉ、何で?」

「いや、雑誌で香水か何かの広告で見たんだよ」

飛行機の機内誌とか…

「あと、夜遅く帰ってテレビつけたら、宣伝用のビデオで、直人くんが一人でドラム叩いてた。それで歌ってるのが諒くんじゃない人でびっくりしたんだ」

 そこまで言われて麻也は思い出した。


BLロック王子小説23-17「ディスティニーアンダーグラウンド」

2020-12-21 07:24:00 | ★ディスティニー第23章

 次の日は夕方までは、いつものように鈴木しか来なかった。

 あの日、病室で父に怒鳴られたのが何となく懐かしく思い出された…と、ため息をついていたら、母から携帯に電話がきた。

 今日もめまいがとれないので、父だけがこちらに来るという。

 そう言いながらも母が「病室でも事務所にこき使われているのでは」と怪しんでいるのが伝わってくるので、鈴木がいる気配を感じさせないようにしたが…

 鈴木が帰り支度を始めた頃、父がやってきた。

「ああ、鈴木さん、どうも。打ち合わせか何かですか?」

(父さんも母さんと同じ考えなんだろうな…)

すると、それを察したらしい鈴木は笑顔で、

「いえ、お見舞いです。麻也さんに寂しいと言われまして。近々また社長がお詫びにお伺いしたいと申しておりました」

「いやいやそれは…」

と、うやむやになったうちに、鈴木は帰っていった。

 それを見送ると父は、

「鈴木さんは毎日来るのか?」

麻也はどう答えたものか困ったが、

「うん。小さくてアットホームな事務所だから…でも人手不足だから来られるのは鈴木さんだけ」

「そうか」

父は言いたいことを我慢している様子だった。

 すると、

「これ、お母さんから」

と、和菓子でも入ったような立派な紙袋をテーブルに置き、中から缶のオレンジジュースを一本取り上げて見せてくれながら、

「母さんがどうしても持っていけ、って。もうこれぐらいなら飲めるんだろう?」

「うん」

それは麻也の大好物だった。

 父はソファに腰を下ろすと、

「ここを退院したら、ウチで休めるのか?」

 麻也は困ってしまった。



★BLロック王子小説23-16「ディスティニーアンダーグラウンド」

2020-12-20 21:08:00 | ★ディスティニー第23章

 でも麻也さん…

 諒は急に麻也に覆い被さり、

 「全部俺のせいだけど、ごめんなさいなんだけど、麻也さん回復しててよかった」

と、耳元に囁いてくる。

 麻也はまた悩む。

 確かにその言葉は嬉しいけれど、でも、でも…

 でも諒を失いたくなくて、麻也は諒を抱き締めた。

 まだ不安定な二人の関係だから…するといつものように諒に唇を奪われる…

 そこまでしておきながら、また急に、

「あ、疲れさせちゃうね、ごめんね…では今日のところは帰ります…」

 と、はにかんだ表情で帰っていった。

 また明日も来てほしいけど…

 口に出しては言えなかった。

 いや、もしかするとこれが諒の作戦かもしれないが…

 でも、自分が諒たちメンバーのオフを奪ってしまったのは事実なわけで…

(…みんな何にも言わないけど、直人にもずいぶん迷惑かけてるんだろうな…)


 それから一時間ほどして、鈴木と真樹がやって来た。

 用事は携帯で済む訳だから、心配で様子を見に来たのだろう。

 あいかわらず真樹は、いやさすがに鈴木も疲れた表情で、麻也は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 しかし、真樹は笑いながら、

「俺は今日は家族代表で来ただけだから」

と言い、

「母さんは明日は来れそうだって。親父がつきそってくると思うよ。」

 親父、と聞いて、麻也は緊張してしまったが、

「真樹、ごめんね、せっかくの休暇なのに…ちゃんと寝てる? 」

うん、寝てるから大丈夫。

兄貴こそ心配しないでゆっくり休んで」

真樹の笑顔が嬉しかった。


★BLロック王子小説23-15「ディスティニーアンダーグラウンド」

2020-12-19 22:35:45 | ★ディスティニー第23章

 とはいうものの、麻也はやっぱりこの古い病院が気に入らず、鈴木に、この入院は長くなってしまわないのか…疑わしくて

「短期入院と僕は聞いてますし…でも、今日も夕方でも諒さん来るから大丈夫でしょう?」

「…いや、それはないでしょ」

「来ますよ。あの調子はいつも通りじゃないですか」

 もちろん麻也も来てほしいとは思うが…

 鈴木の予言の通り、その日の麻也の夕食の頃、諒はやってきてくれた。

「あ、諒…」

 いざ2人きりになると、愛しいが、これまでのような慣れた気分にはなれない。

 それをさとられるのも嫌なのだが…


それは諒も同じようだった。

 

まだあの事件から五日しかたっていないのだから… 

 しかし、諒はちょっとおどけた様子で、麻也の夕食のトレイをのぞきこむと

「えっ、それスイカのジュース? おいしそう」

「ーロ飲む?」

「うんうん」

 そう言って、諒は麻也のカップを取り上げて一口飲んだ。

「おいしい~。これっておかわりできないの?」

「ダメもとで頼んでみようか?」

「いやあいいよ、ごめんごめん」

 諒の笑顔がまぶしかった。そして麻也は気づいた。

(諒って、俺のカップ使うの平気なんだ…)

それは事件の前ならば不思議なことではなかったが…

(あ、でももう諒の方からたくさんキスしてくるんだからいいのか…)


「座っていい?」

「うん。少し良くなってきたら、一人は寂しくて」

 諒といたくて、とはまだ言えなかった。

 あと、実は母が来ることになっていたのだが、心労のせいらしく動けなくなって、近所に住んでいる叔母が看病に来たらしい。麻也はそれも言いたくなかった。

「あ、でも諒は気にしないでね。もしかして今日も、俺のせいでオフつぶれて仕事だったんじゃない?」

すると、

「いや、そんなことないよ」

と諒は言いながらも目が泳いでいるのがわかって、麻也は後悔した。

(やっぱり俺のせいだよね…)

 しかし、諒は照れくさそうに、

「実はね、体が固まっちゃったから、いつものエステ屋さんでマッサージしてもらったの…」

「で、何で照れてるの?」

「だってえ、ヤワな男と思われたくなかったんだもん」

まるで以前に戻ったような雰囲気が嬉しい。

「そんなこと思わないよ」

それでも諒はまだ何か言いたそうだ。

「後は? まだ何か言いたそうだよ」

 諒は麻也の笑顔が嬉しかったようににっこりして、

「うーん、バレたか。実は社長に出くわしちゃってざっくり命令を受けたの。新曲出さないかって。新アルバムか新シングルを出そうって。で、麻也さんに伝えられたら伝えておいてって」

「?」

いくら頭を休ませ中のミュージシャンの身とはいえ、麻也はびっくりした。

「ずいぶん急じゃん」

「うん、いつも以上にファンを喜ばせた方がいいだろうと」

 社長は年内に出したいようだという。

「俺は曲書かなくていいんでしょ?」

「まさか。どうして?」

諒はその質問が理解できないといった風に目を丸くしている。

(…あの時、俺の曲が嫌いって言ったくせに…)

 麻也はそんなことを思い出して、腹が立ち、また悲しくもなって言葉に困った。

 それで諒も思い出してしまったらしく、しかし、うつむきながら、

「俺、ずっと麻也さんの曲好きだから」

 と、口角を上げるその表情が何とも照れくさそうで、嘘が感じられなかったので、麻也は何も言えなくなった。あれはきっと、諒が激しいケンカの最中に叫んだ「思ってもいないこと」なのだろう。

 そして、

「ごめんね麻也さん、俺がここに来るだけで、仕事のこと思い出しちゃうよね。

 それで真樹はお見舞いためらってるってのに…」

 それは麻也も初めて知ったことだった。でも、弟にもどんな理由でもいいから心身を休めて欲しかった。