臨済寺 竹千代君 手習いの間
静岡市葵区 大岩本町
今川義元への年賀挨拶の折り、竹千代君と祖母、源応尼は今川の軍師格の雪斎禅師に声をかけられた。
~わしは臨済寺の雪斎と申す。
~竹千代殿、先ほどの放尿はいかなる存念でなされた。~
~今川の家来が座中で私の陰口をしてる故、一度にわからせてやろうと思い、小便を放ちました。~
~ほう、それでどうなったかの。~
~もっとざわめきました。~
~お主の先ほどの行いはのう。太刀を片手に名乗りをあげ、今川の家来衆を向こうにしてみせた様なものである。
お主はいずれ三河の国守となる身、館での軽挙妄動は慎みなされ。~
~けいきょもうどう…?~
~お主が軽はずみな行動を取れば、国元の民、家臣に類が及ぶと考えなされ。~
雪斎禅師の戒めを察した竹千代君は無言で平伏された。
~尼殿。~
別室に控えた源応尼が襖を開け、雪斎禅師に一礼する。
~尼殿、竹千代殿を月に三度はお連れ下され。手習い等を施しましょうぞ。~
~ありがたき幸せ。~
雪斎禅師は平伏する源応尼に静かに語りかける。
~尼殿、竹千代殿のこと、努々慎重にな。当家の家臣らには、快く思わぬ者も少なくない。~
~心得ました~
〜この老いぼれにも若い時分を思い出す楽しみがやって来たようですぞ。〜
竹千代君の最初の師となる雪斎禅師との出会いである。