7-2.小野小町 移ろう花の色
馬場あき子氏著作「日本の恋の歌」~貴公子たちの恋~ からの抜粋簡略改変版
小町のような華麗な歌人には花の歌が似合いそうだが、意外にも二首を数えるだけだ。そのうちの一首は貫之が「古今集」の序に評価したものである。もう一首は定家によって「百人一首」にえらばれ、最も人口に膾炙している。恋の歌ではないが、恋多き女性の述懐が含まれた花の歌なのであげてみたい。
花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふるながめせしまに
(花の色はすっかり色褪せてしまった。長雨のつづく折ふし、いたずらに人生の悩ましさに思いわずらっているうちに)
貫之はこの歌を「春下」に収録し、花の時が短く過ぎてしまった嘆きとして読むことを求めている。しかし、大方の読み手は、むしろ褪せゆく花の色をみつつ、その身の盛りの時代が過ぎたことを重ねてうたった歌として読んでいる。
歌は二句で切って詠嘆の心が深く、「わが身世にふる」というあたりに単純でない思いがこめられている。花の色にたとえるというより、あえて言い紛らした二重写しの表現に、文学的な修辞の面白さを求めたもので、女文体の特色がよくでている一首といえよう。
つづく (次の予定も「小野小町」)