9.枕草子第一章 春はあけぼの 3の2
山本淳子氏著作「枕草子のたくらみ」から抜粋再編集
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では、「春は、あけぼの」は、雅の世界から外れているのか?「春」と「朝」は品格の無い取り合わせなのだろうか?
そうではない。実は「古今和歌集」に、「春」と「朝」の取り合わせが何度も記されている文章がある。
和歌の力と歴史を記し和歌文化を高らかに謳(うた)った「仮名序」、文字通り仮名で書いた序文である。
そこには、いにしえから人々が四季の様々な風景につけて歌を詠んできた典型例として、「春の朝」に花を詠むという雅びが記されている。
「枕草子」は「古今和歌集」「仮名序」を知っていてこそ、それを革新させた機知である。
「枕草子」の冒頭、まさしく「古今和歌集」の「仮名序」の位置にこれを置くことで、「古今和歌集」の向こうを張った企画「枕草子」の心意気を、清少納言は示したのだ。
実はこれこそが定子という人の文化だった。ありきたりではなく、非凡なものを。右にならえではなく、自分の感覚で工夫して。定子はそれを、後宮で女房たちに説いてきた。定子が司った知的なサロンにおけるそうした場面は、「枕草子」の随所に見ることができる。
(続く:難しいけど試行してみます)