厳しく𠮟責されても、意に介さなかったらしい。当然であろう。予てからの望みが叶ったのである。有頂天に為るなと云う方に無理がある。
そこに入りたがっている者を普通に刑務所に入れた丈では、褒美に為っても罰には為らない。適正に量刑した事には為らないのである。
精神鑑定は無駄である。異常が見付かって措置入院という事に為り、軽快して早目に退院させられる事にでも為れば、被告さえ喜ぶまい。
幸か不幸か死刑制度の有る我が国である。妥当なのは死刑宣告であった。無論死傷者の数等を判例に照らすと、無理が有ったのであろう。
併し判例は飽迄例に過ぎまい。例に例外は付き物である。裁判長も宣告の後の被告を見て、臍を嚙んだに違いない。
今からでも遅くは無い。検察は控訴して死刑を求め、裁判長はそれに応えて死刑を宣するが良かろう。
但し執行はせず自然死を待つべきである。
そうすれば、つい惻隠の情に流され量刑に於いて判例に背いた結果、復讐の念に迎合せざるべしとの、我が国の刑法の精神に悖る事をする仕
儀と為ってしまった司法機関としての、罪滅ぼしにも為ろうというものである。
一方受刑者は、扉の外に足音を聞くたびに縮み上がる事に為ろう。惨過ぎるかも知れない。
併しそれでは、尊い盾と為って亡くなったり、其の御蔭で辛うじて助かりはしたものの、心身に生涯癒えぬかも知れない傷を負った人達の
運命は、惨過ぎるものでは無いのであろうか。