投資家の目線

投資家の目線102(「虚構」を読んでいたら)

 「虚構」(宮内亮治著 講談社)を読んでいたら、MSCBの発行に関して気になる部分があった。「最近、日本証券業協会から出たMSCBと公募と比べた報告書の中に、どちらの調達がその後下落率が高いかの記載があるが、公募のほうが下落率が高いことが証明されている。」(93ページ)とあったのである。
 日本証券業協会のHPの「報告書」を見ると、「会員における引受審査のあり方・MSCBの取扱いのあり方等について―会員における引受審査のあり方等に関するワーキング・グループ最終報告―」というものがある。
http://www.jsda.or.jp/html/houkokusyo/pdf/hikiuke4.pdf
そして、その最後に「MSCBと公募増資との株価への影響に関する比較検証」したものが掲載されている。
 発行決議日終値と実際の発行価額(1株当り手取金額)を公募増資とMSCBで比較した場合、
MSCBの方が発行決議日終値に対する転換価額(発行価額)の水準の分布は広いものの、
・ 上記の水準が90%以上になる累計割合が公募増資の35.2%に対してMSCBは39.5%と、「MSCBの方が結果として既存株主負担が小さくなるケースも少なくない」
・ 上記の水準は中央値で公募増資87.3%、MSCB87.1%とほぼ変わらないものの、希薄化率(=調達金額/時価総額)はMSCBの方が高く、「希薄化率の割には株価への影響は限定的であったことが確認できる」
ことが記述されている。つまり、公募増資と比べて、MSCBの方が既存株主の負担は同じ程度で相対的に大きな金額を調達できたと解釈できる。

 この比較検証から見ると、巷で言われるMSCB批判の多くは的外れなものであったといえよう。そのうえこの報告書が出された今になっても、実証データに基づかないMSCB批判が見られるのは残念だ。それは実証データに基づかない批判が、日本のファイナンスの発展の妨げになることが危惧されるためである。

 余談だが、日本航空も公募増資ではなくMSCBにした方が、資金調達額が多かったのではないだろうか?
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・最近話題のふるさと納税制度は受益者負担の観点から問題視されているが、受益者負担の原則から言うと、NHKの受信料はペイパービュー方式にするのが正当だと思うが・・・。
・5月21日にヤマトHDと丸井の資本業務提携が発表されたが、ヤマトHDは自治体の広報誌配布業務などには参入しないのだろうか?
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