投資家の目線

投資家の目線52(紆余曲折がありそうなインサイダー取引疑惑)

 先週の月曜日にいわゆる村上ファンドの代表者、村上世彰氏が逮捕された。東京証券取引所における記者会見の報道を見る限り、ファンドを守るために検察当局の言い分を受け入れたように感じる。そもそも証券取引法第167条2項で「公開買付け等の実施に関する事実又は公開買付け等の中止に関する事実とは、公開買付者等(当該公開買付者等が法人であるときは、その業務執行を決定する機関をいう。以下この項において同じ。)が、それぞれ公開買付け等を行うことについての決定をしたこと又は公開買付者等が当該決定(公表がされたものに限る。)に係る公開買付け等を行わないことを決定したことをいう」とされている。つまり本来は、取締役会で公開買付け等を行うことを決定したことを知って公表前に売買したような場合である。しかし、ニュース等に流れる検察の動きを見ているとライブドア社の機関決定後かつ公表前にはニッポン放送株を購入していないと推測される。
 インサイダー取引の判例として第三者割当増資に関する日本織物加工事件(最高裁平成11年6月10日判決、この場合証券取引法第166条2項1号)で「業務執行を決定する機関」は、商法(当時)所定の決定権限のある機関に限られず、実質的に会社の意思決定と同視されるような意思決定を行うことのできる機関であれば足りるとの判断を示している。村上氏の会見において2005年1月初旬までに出てきたライブドア社の取締役は、堀江元社長と宮内元取締役(ただし、宮内氏は2004年10月25日に取締役を辞任しており、11月8日には取締役ではなかった)の2人である。当時の5名の取締役のうち2名がニッポン放送株大量取得に前向きだからライブドア社は実質的に意思決定しているという考え方に立てば、インサイダー取引に当たるといえよう。検察側はこのような考え方なのだろう。一方、これは2人の腹案にすぎず、残りの3人が反対する可能性もあり、本当にニッポン放送株を取得するかどうか不明確であると考えれば、インサイダー取引に当たるとはいえないだろう。
 日本織物加工事件において、罪に問われたのは買収側企業の監査役であり買収交渉を担当した顧問弁護士で、買収側企業は日本織物加工と秘密保持契約を交わしていた。一方、今回の村上氏のケースはそこまでの立場になかったように思われるが、どう判断されるであろうか?また、日本織物加工のケースでは当該株式の発行が確実に実行されるとの予測が成り立つことは要しないと解するのが相当であると判断されているが、ライブドア社のケースのように11月8日の会合から年の暮れまでほとんどニッポン放送株を買い付けなかったような場合でも、実行の確実性が問われなくともよいのであろうか?そこのあたりにも今回の争点があるのではないだろうか。
 企業等の内部情報が耳に入ることはあり得ることだ。合法か違法かの線引きを予めはっきりさせないと、投資はやりにくいものになるだろう。

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最近の「村上ファンド」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事