投資家の目線

投資家の目線811(東証改革とTOB)

 2022年4月から東京証券取引所の市場区分がプライム、スタンダード、グロースの3市場に再編される。株式会社東京証券取引所の資料「新市場区分の概要等について 2020年2月21日」によれば、プライム市場は「多くの機関投資家の投資対象になりうる規模の時価総額(流動性)を持ち、より高いガバナンス水準を備え、投資家との建設的な対話を中心に据えて持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場」、スタンダード市場は「公開された市場における投資対象として一定の時価総額(流動性)を持ち、上場企業としての基本的なガバナンス水準を備えつつ、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場」、グロース市場は「高い成長可能性を実現するための事業計画及びその進捗の適時・適切な開示が行われ一定の市場評価が得られる一方、事業実績の観点から相対的にリスクが高い企業向けの市場」とされる。運用金額の大きい機関投資家の資金が入りやすいプライム市場が東京証券取引所の主力市場になるのだろう。

 そして、流通株式比率に関しては、プライム市場は35%以上、スタンダード市場、グロース市場は25%以上必要である。現行の流通株式数は上場株式から、主要株主が保有する株式(10%以上所有)、役員等の保有する株式、自己株式数を除いたものだが、改革後は保有比率が10%未満でも保有目的が純投資であるものを除く国内の普通銀行、保険会社及び事業法人等の所有する株式も流通株式数から除かれ(「流通株式の定義見直しについて」JPXホームページ)、上場株式数の基準が厳しくなる。

 筆頭株主である日本製鉄が保有比率を2割弱に高めるための東京製綱へのTOB、出資比率を最大3割までに引き上げる投資ファンドのエフィッシモ・キャピタル・マネージメントによるサンケン電気へのTOBなど、経営権を握る目的ではないTOBも見られる。TOBの際に、主要株主のようなもともと流通株式数から除かれるような株主からの株式の移転なら影響はないが、流通株式を保有する株主からTOB実施者への株式移転が起きれば流通株式数が減少し、プライム市場の上場基準から外れる企業も出てくるのではないだろうか?運用金額の大きい機関投資家が参入しにくい市場では、市場の時価総額も小さなものになるだろう。TOBの結果、プライム市場から外れる企業は、株価もディスカウントされたものになるのではないだろうか?それはTOB実施側だけでなく、公開買い付けの選に漏れ、保有の継続を余儀なくされる株主にとってもマイナスである。TOBを行う側も、そういうことを考慮して実施してほしいものである。
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