投資家の目線

投資家の目線545(大英帝国の親日派)

 アントニー・ベスト著「大英帝国の親日派」(中公叢書 武田知己訳)は、第2次大戦前後の日英外交を人物の動きを中心に書かれた本である。これを見ると、戦前の日英外交と現在の日米外交に類似点を感じる。


・「親日派」頼みの日英外交と「知日派」頼みの日米外交

 重光葵らは英国の「親日派」を頼って日本の政策を英国に認めさせようとしたが、彼らの見立てと違い実際には親日派でなかったということがあった。また、「親日派」とされる人の中にはカネで情報を外国に売ったり、顧問として日本からカネをもらっているため英国内で不信感を持たれたりしていた。そうでない日本に親近感を持つ「真の親日派」は日本に対する見方に偏見があるとみられ、英国内でまったく信頼されていなかった。
 日本で「知日派」と報じられるリチャード・アーミテージ氏などは以前書いたとおり、米国の政界に影響力がないようだ。また、日本の立場を認めさせるため米国内でロビー活動を活発化させるべきという意見もあるが、ロビー活動のカネが日本から出ているならば米国内では信用はされないだろう。
 さらに、重光は英国の「純正保守党系」は親日的と考えていたが、共和党政権になれば日米関係がよくなると考える識者が日本に多いように思う。
 また、吉田茂駐英大使は、直接英国外務省でなく政府の他部局やその他の有力者に直接日本の政策の共鳴者を求めようとしたが、それは英国外務省の癇に障ることだった。「知日派」頼みの日本外交は米国国務省でどう思われているのだろう?


・中国に対する見解

 吉田茂らは日英共同で中国の不平等条約改定要求に対抗しようとするなど中国は対等な存在ではなかったが、イギリスの主流派は中国と対等な関係を築いて効果的な極東政策を遂行しようとしていた。現在、米中間では経済だけでなくリムパックなど軍事部門での交流も進んできているが、日本の論調は、まるで「米中新冷戦」が始まっているようになっている。当時の日英関係のように、日米間にも中国に対する考え方の齟齬が発生しているように見える。
 また、吉田はソ連を悪者にして日英関係を改善しようとしていたが、それは現在の「対中国包囲網」などという考え方に似ている。


・人権等の問題

 日中戦争で日本が中国市民を爆撃したり租界に出入りするイギリス人を取り締まったりする行為は、イギリス国民に反日感情を起させた。日本の従軍慰安婦(もしくは性奴隷)問題などは、米国内では好ましく思われていないようだ。


 このように検討していくと、今後の日米関係を考える上でも「大英帝国の親日派」は読んでおいて損はない本だと思う。

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・先週の円安を要因とする悪影響・値上げ発表等記事
『仕入れ値「上昇」7割、水産加工業円安や漁獲減少で、焼津信金。』(2015/12/5 日本経済新聞 地方経済面 静岡)
「主力のトウモロコシはほぼ海外産で、現地相場が安くなっても円安で国内価格は高いままだ。」(『「物価の優等生」卵に異変、エサ代かさみ卸値高止まり、小売りはブランド卵シフト(真相深層)』 2015/12/5 日本経済新聞 朝刊)
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