投資家の目線

投資家の目線312(WSJは小沢氏に期待)

 6月3日のウォール・ストリート・ジャーナル日本語版の社説は、「小沢主導の政界再編への期待」だった。彼らの気にしているのは震災対策ではなく、債務の積み上がった財政問題である。米国の金融界にとってGDP第3位の日本の経済力が低下するのは、彼らの利益に合わないのだろう。

 ヘンリー・A・キッシンジャーは「外交 下」(岡崎久彦監訳 日本経済新聞社)で「ソ連邦に唯一残されていた同盟は東ヨーロッパの衛星国であったが、ブレジネフ・ドクトリンで暗に示されたソ連邦の力の脅威によってソ連邦には従っていたものの、ソ連邦の富を増加させるどころか、枯渇させたのであった」と記述している。このまま日本の米国への依存が続けば、米国の富が枯渇するのではないかという懸念が出てきてもおかしくはない。同書では、「結局、フィンランド型の政府が東ヨーロッパにおいてソ連邦を囲んでいた方がソ連邦にとって安全であり、ソ連邦は経済的に強力になっていたであろう。なぜならば、そうであればソ連邦がこれらの国々の国内の安定や経済発展について責任を果たす必要がなかったからである」とも書かれている。

 しかし、リチャード・L・アーミテージ氏は小沢一郎氏を「反米」と思っている(参考資料:「日米同盟vs.中国・北朝鮮」 リチャード・L・アーミテージ ジョゼフ・S・ナイJr 春原剛 文春新庫)。日本の政策は米国において金融・産業界の言い分が通るのか、それとも軍事・国防関係者の言い分が通るのかでずいぶん違ったものになるのだろう(個人的には、菅総理の「小沢切り」はアーミテージ氏らのグループのおぼえを良くし、足を引っ張られないようにするためだと思っている)。

 それで現状はといえば、米国の軍事・国防関係者の勢力の方が強いのだろう。5月30日に統合参謀本部議長の人事が軍の抵抗でひっくり返された。5月31日の日本経済新聞朝刊は、「オバマ氏は財政難の解消に向け、国防費の大幅削減を目指すが、ポスト減などを警戒する軍は絶対阻止の構え。オバマ路線を容認しそうな「カートライト議長」をつぶしたようだ」、「大幅増派支持だったデンプシー氏らが主導権を得たことで、7月に始まるアフガン駐留軍の撤収が小規模にとどまる可能性が一段と大きくなった」との観測を伝えている(偶然か、ソ連邦の崩壊を決定的にしたのはアフガン侵攻だった)。現に、6月4日にはゲーツ米国防長官が駐留米軍のアフガニスタンからの部分撤退には慎重な発言をした。

 日本に関しても、軍事支出削減からレビン上院軍事委員長(民主党)が普天間基地の嘉手納統合案を提案すれば、イノウエ上院歳出委員長(これも民主党)は辺野古移転が最善と言い、火消しに回っている。現実問題として日米関係は日本政治の根幹なので、日本の政局もこれに関連しているのではないか?日本が米国に依存するのならば、このような政局の混乱は甘受せざるを得ない。

 また、上記の「外交 下」にはこんな記述もある。「フルシチョフはイギリスがアメリカから離れられないと認識した時から、交渉をアイゼンハワーに集中した。フルシチョフの見方では、マクミランはワシントンを交渉に巻き込むことによってその目的を果たしたのだった。つまるところ、フルシチョフが求めているものを与えてくれることの出来る唯一の交渉相手は、アメリカ大統領であった。」米国と「特別な関係」になるということは、第三国と日本の関係はその国とアメリカ大統領との交渉で決まるということも甘受せざるを得ない。

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・ついでに、孫崎享著 「日本人のための戦略的思考入門」(祥伝社新書)では、プリンストン大学のアイケンベリー教授と米国家安全保障会議欧州部長を務めたカプチャンの共著論文「新しい日本、新しいアジア」(2010/1/21 NYT紙)を取り上げ、その中に「自立した自己主張をする日本の方が、ワシントンの言うことに従う日本よりも、東アジアに貢献することが期待できる」と紹介していることも書き添えておこう。

・「世界の艦船」2011年7月号には、米空母の放射線洗浄作業の写真が掲載されている。飛行甲板を、洗剤をつけたモップで掃除するなんて、確かに手間がかかりそうだ。空母ジョージ・ワシントンが定期メンテナンス途中でも横須賀から避難した理由として、そのような手間の問題が挙げられていた。

・5月27日のMSN産経ニュース。取り調べ中のウガンダ国籍の男性に対し、大阪府警の警察官が「お前には人権がない」と言ったそうだ。佐賀市農協の背任事件で暴言を吐いたことを認めた市川寛元検事は、先輩検事から「ヤクザと外国人に人権はない」と教えられたそうだが、警察も状況は同じようだ。埼玉県深谷市議の公職選挙法違反の取り調べといい、福岡県川崎町議会議長の自殺といい、警察の取り調べも早急に可視化したほうがよさそうだ。

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