財部剣人の館『マーメイド クロニクルズ』「第一部」幻冬舎より出版中!「第二部」朝日出版社より刊行!

(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

第一部 序章と第1〜5章のバックナンバー

2019-11-29 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

  
 財部剣人です! 第三部の完結に向けてがんばっていきますので、どうか乞うご期待!

「マーメイド クロニクルズ」第一部神々がダイスを振る刻篇あらすじ

 深い海の底。海主ネプチュヌスの城では、地球を汚し滅亡させかねない人類絶滅を主張する天主ユピテルと、不干渉を主張する冥主プルートゥの議論が続いていた。今にも議論を打ち切って、神界大戦を始めかねない二人を調停するために、ネプチュヌスは「神々のゲーム」を提案する。マーメイドの娘ナオミがよき人 間たちを助けて、地球の運命を救えればよし。悪しき人間たちが勝つようなら、人類は絶滅させられ、すべてはカオスに戻る。しかし、プルートゥの追加提案によって、悪しき人間たちの側にはドラキュラの娘で冥界の神官マクミラがつき、ナオミの助太刀には天使たちがつくことになる。人間界に送り込まれたナオミ は、一人の人間として成長していく内、使命を果たすための仲間たちと出会う。一方、盲目の美少女マクミラは、天才科学者の魔道斎人と手を組みゾンビー・ソルジャー計画を進める。ナオミが通うカンザス州聖ローレンス大学の深夜のキャンパスで、ついに双方が雌雄を決する闘いが始まる。

海神界関係者
ネプチュヌス ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 海主。「揺るがすもの」
トリトン ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ネプチュヌスの息子。「助くるもの」
シンガパウム ・・・・・・・・・・ 親衛隊長のマーライオン。「忠義をつくすもの」
ユーカ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 第一次神界大戦で死んだシンガパウムの妻
アフロンディーヌ ・・・・・・ シンガパウムの長女で最高位の巫女のマーメイド
アレギザンダー ・・・・・・・・・・ 同次女でユピテルの玄孫ムーの妻のマーメイド
ジュリア ・・・・・・・・ 同三女でネプチュヌスの玄孫レムリアの妻のマーメイド
サラ ・・・・・・・・・・ 同四女でプルートゥの玄孫アトランチスの妻のマーメイド
ノーマ ・・・・・・ 同五女で人間界に行ったが、不幸な一生を送ったマーメイド
ナオミ ・・・・・・・ 同末娘で人間界へ送り込まれるマーメイド。「旅立つもの」
トーミ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ナオミの祖母で齢数千年のマーメイド。
ケネス ・・・・・・・・・ 元ネイビー・シールズ隊員。人間界でのナオミの育ての父
夏海 ・・・・・・・・・・・・ 人間界でのナオミの育ての母。その後、ニューヨークに
ケイティ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ナオミのハワイ時代からの幼なじみ
ナンシー ・・・・・・・・・・・・・・・・ 聖ローレンス大学コミュニケーション学部教授

天界関係者
ユピテル ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「天翔るもの」で天主
アスクレピオス ・・・・・・・ 太陽神アポロンの兄。アポロノミカンを書き下ろす
アポロニア ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ アポロンの娘で親衛隊長。「継ぐもの」
ケイト ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ アポロンの未亡人。「森にすむもの」
シリウス ・・・・・・・・・・・・・・ アポロニアの長男で光の軍団長。「光り輝くもの」
               で天界では美しい銀狼。人間界ではチャック
アンタレス ・・・・・・・ 同次男で雷の軍団長。「対抗するもの」で天界では雷獣。
                            人間界ではビル
ペルセリアス ・・・・・・・ 同三男で天使長。「率いるもの」で天界では金色の鷲。
                         人間界ではクリストフ
コーネリアス ・・・・・・・・・・・・・ 同末っ子で「舞うもの」。天界では真紅の龍。
   人間界では孔明

冥界関係者
プルートゥ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「裁くもの」で冥主
ケルベロス ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3つ首の魔犬。「監視するもの」で
  キルベロス、ルルベロス、カルベロスの父
ヴラド・“ドラクール”・ツェペシュ ・・ 親衛隊の大将軍。「吸い取るもの」で
       人間時代は、「串刺し公」とおそれられたワラキア地方の支配者
ローラ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・“ドラクール”の妻で、サラマンダーの女王。
「燃やし尽くすもの」
アストロラーベ ・・・・・・・・・・・・・・ ヴラドとローラの長男で、親衛隊の軍師。
                            「あやつるもの」
スカルラーベ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 同次男で、親衛隊の将軍。「荒ぶるもの」
マクミラ ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 同長女で、人間界に送り込まれる冥界最高位の
神官でヴァンパイア。「鍵を開くもの」
ミスティラ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 同次女で、冥界の神官。「鍵を守るもの」
ジェフエリー・ヌーヴェルヴァーグ・シニア ・・・パラケルススの世を忍ぶ仮の姿
ジェフエリー(ジェフ)・ヌーヴェルヴァーグ・ジュニア … マクミラの育ての父

「第一部序章 わたしの名はナオミ」

「第一部第1章−1 神々のディベート」
「第一部第1章−2 ゲームの始まり」
「第一部第1章−3 シンガパウムの娘たち」
「第一部第1章−4 末娘ナオミ」
「第一部第1章−5 父と娘」
「第一部第1章−6 シンガパウムの別れの言葉」
「第一部第1章−7 老マーメイド、トーミ」
「第一部第1章−8 ナオミが旅立つ時」

「第一部第2章−1 天界の召集令状」
「第一部第2章−2 神導書アポロノミカン」
「第一部第2章−3 アポロン最後の神託」
「第一部第2章−4 歴史の正体」
「第一部第2章−5 冥界の審判」
「第一部第2章−6 "ドラクール"とサラマンダーの女王」
「第一部第2章−7 神官マクミラ」
「第一部第2章−8 人生の目的」

第一部 第3章−1 ドラクールの目覚め

第一部 第3章−2 仮面の男

第一部 第3章−3 マクミラ降臨

第一部 第3章−4 マクミラの旅立ち

第一部 第3章−5 海主現る

第一部 第3章−6 ネプチュヌス

第一部 第3章−7 マーメイドの赤ん坊

第一部 第3章−8 ナオミの名はナオミ

第一部 第3章−9 父と娘

第一部 第3章−10 透明人間


第一部 第4章−1 冥主、摩天楼に現る

第一部 第4章−2 選ばれた男

第一部 第4章−3 冥主との約束

第一部 第4章−4 赤子と三匹の子犬たち

第一部 第4章−5 一難去って・・・

第一部 第4章−6 シュリンプとウィンプ

第一部 第4章−7 ビッグ・パイル・オブ・ブルシュガー

第一部 第4章−8 なぜ、なぜ、なぜ

第一部 第4章−9 チョイス・イズ・トラジック

第一部 第4章−10 夏海の置き手紙 

 

第一部 第5章−1 残されし者たち

第一部 第5章−2 神海魚ナオミ

第一部 第5章−3 マウスピークス

第一部 第5章−4 マウスピークスかく語りき






 


  

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第一部 第5章−11 滅びへの道

2019-11-25 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

 水と緑と空気と大地のエコシステムは、二十一世紀の声を待たずに完膚なきまでに破壊されようとしていた。オゾン層の破壊、地球温暖化、森林地帯の消滅などはほんの微熱に過ぎないほど、地球という「病人」の容態は悪化していた。警鐘を鳴らそうとする者には利益追求の権化の企業群と手先の政治屋たちによって、「狂信的な環境保護主義者」というレッテルが貼られた。

 ガイアにとって最大の脅威はカチカチと音を立てる人口時限爆弾だった。

 一九五〇年に二十五億人だった人類は、二〇〇〇年までに人口六十億を突破し、二〇五〇年までには九十億、あるいは百億に達すると予想されていた。わずか百年間で、それは四倍にもならんとしていた。ネズミ算ならぬ「人類算」という言葉が必要だった。

 気の遠くなるような歳月をかけて自然が作り出したエネルギー資源も、人類の手にかかると自分の代で財産を使い果たすと決めた強欲ジジイのような勢いで消耗されつつあった。このままいけば石油が枯渇するまでわずか一万日、そのまま飲める水がなくなるまで一万五千日、地球温暖化によって農作物が取れなくなるまで三万六千日だった。次世代のために開発を止めようする国など一つもないし、それどころか開発と消費のスピードは急上昇しつつあった。

 だが、人類同士の戦乱と搾取に比べればこうした身勝手はまだ「無知」の一言で済んだ。本当の愚かさは果てしのない殺し合いと支配の中にあった。

 ヒットラーに導かれたナチスのホロコーストを例に出すまでもなく、狂気の事例には枚挙に暇がなかった。十五世紀から十九世紀初頭にヨーロッパの奴隷商人がアフリカから無理矢理連れ去った人々の数は一千二百万人以上であり、劣悪な環境の奴隷船の中で新大陸到着前に死亡した人々の数は四百万人とも五百万人以上と言われている。ソ連の独裁者スターリンは自分の意に背く農民一千万人以上を処刑または餓死させた。世界をまっぷたつに割った第二次世界大戦では死傷者は五千万人とも六千万人とも言われている。

 文明と文明が出会うたびに学び合おうとするよりも相手を粉砕しようとする人類の態度は宇宙レベルで見ても希有な存在だった。なぜ人間にだけ天敵が存在しないのか。歴史を調べていく過程でマクミラが持った疑問のひとつだった。

 このまま行けば人間たちはあやつら自身が作り出した「科学」という名の魔術に手痛いしっぺ返しを受けることは必定じゃ。

 神々の議論の場でネプチュヌスが発した思念が思い出された。

 そのあたりにヒントがあるかも知れない。

 調べれば調べるほど確実に地球は滅亡に向かってひた走っており、冥主プルートゥは圧倒的に有利な立場にあると判断せざるを得なかった。

 だが、とマクミラは思った。個々のバトルに勝っても最後に戦争に勝てるとは限らない。一部の人類をあなどってはならない。誰かがまぐれ当たりの代打逆転満塁ゲームエンディングホームランを打たないともかぎらない。

 長い時間をかけてマクミラはついに決断した。ゲームなんだから、それにふさわしい設定をしなくては。たかがゲームされどゲームといわけだ。

 ミシガン州山中にヌーヴェルヴァーグ財団に広大なテーマパークを作らせた。ただし、外部から誰かを迎えることはなく客と言えば、たまにマクミラがニューヨークから訪れるだけだった。

 施設は四つの建物から成っており、通常のテーマパークが「夢と希望の象徴」なら、彼女のテーマパークは「悪夢と恐怖の象徴」だった。

 第一の建物ゾンビーランドでは不老不死の研究を行うことにした。第二の建物ノーマンズランドでは軍事兵器を研究することにした。第三の建物ナイトメアランドでは精神世界の研究を行うことになった。最後の建物アポロノミカンランドでは魔術と神話の研究とアポロノミカンの探索を担当させることにした。

 

 

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第一部 第5章−10 哲学と歴史学

2019-11-22 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

 会社の建て直しが一段落するとマクミラは、ヌーヴェルヴァーグ財団が所有する図書館で毎日を過ごすようになった。

 名門大学の図書館に匹敵する蔵書数を誇るだけでなく、宗教、哲学、歴史、神秘学などの分野では世界有数の文献がオーディオ化されていた。しかも、盲目のマクミラのためにどんな言語で書かれた文献も短時間で点字化する設備と人員が用意されていた。

 彼女は、まず哲学を調べた。冥界に来た哲学者や教祖の誰もが「なぜ人間は生きるのか」という問いに答えを出せなかったという話が気になっていたからだった。

 調べ出すと、ほとんどの哲学書はくだらない代物だった。哲学者とはまるで最初から存在しない埋蔵金のありかを捜そうとする山師だった。ニーチェにだけは、にやりとさせられたが答えが提示されているとは思えなかった。まあ、答えがないと開き直っている分だけましだった。

 だが、フランスの思想家ミシェル・フコーだけは例外的だった。

 マクミラは思った。神の血筋を引く者だ。

 並の学者なら一生かかってもせいぜいひとつしか扱えないテーマの数々をエイズで死ぬまでの短い生涯に取り扱っていた。狂気、性、刑罰、言語といった人間が作ったシステムや枠の理不尽さを緻密な分析と鋭い舌鋒で次々暴いていった。

 デカルトの「我思うゆえに我あり」という言葉で有名な理性主体(コギト)の問題しかりだった。フーコーの理性や人間性など万人に共通な性質を否定し、すべては時代の文脈の中で力関係の一部として構築されるというアプローチにひかれた。彼は「なぜ」という問いには興味を持っていないようであり、「どのように」という問題を追い求めているようだった。

 歴史。

 この言葉が頭にひっかかったが、なぜかはわからなかった。

 哲学に興味を失った彼女は、次に、歴史を調べることにした。人類の歴史は知れば知るほど驚愕の連続だった。それは、自らを「万物の霊長」と呼ぶ驕り高ぶった者同士の憎しみと闘い、際限のない環境破壊の物語だった。

 地球上の動植物や微生物、森林や水資源、食物を一つの連鎖と考える歴史上の人物は見事に記述がきれいに抹殺されていた。これでは、この惑星と我が身を合体させてまで救おうとしたガイアも浮かばれまいとマクミラは思った。

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第一部 第5章−9 ようこそファンハウスへ

2019-11-18 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

 列車がぶつかると、お化け屋敷そっくりのドアがギーッと音を立てて観音開きに割れた。終点に着いたのだ。

 巨大なベッドに男が横たわっていた。

 こぼれ落ちそうなほど巨大な両眼、不自然なほど高いワシ鼻、ナイフで刻み込んだような深いシワ。男は、南ドイツのバートヴァルゼーの魔女の仮面をかぶっていた。

 ジェフが真っ黒なゆりかごに寝かされていたマクミラを紹介した。「パパ、娘のマクミラです」

「長生きはするものじゃ。麝香の香りを持つ赤子にまさか巡り会えるとは。いや、久しぶりというべきか」ドイツ訛りの英語はしゃがれており相当の年寄りとわかった。

「わたしをしってるのでちゅか?」

「いかにも」

「なぜ?」

「儂の名前が、かつてパラケルススだったと言えばわかるかね」

 赤子は、惚けたような、怒ったような顔をした。

「ホッホッホッ興奮させてしまったね。すべてはアポロノミカンに予言されていたよ。

 

  ・・・・・・竜延香の香りを持つ赤子

  麝香の香りを持つ赤子

  ナオミとマクミラが現る刻

  パラケルススの運命が終わりを告げる

  そしてゲームが始まりを告げる・・・・・・」

 

「いったい、なんのことでちゅ。ナオミというのはだれ?」

「儂はこれまで五百年近い歴史を眺めてきた。過去、現在、未来を通じて旅した年月を合わせれば、さあ、いったいどれだけの年月になるか。ある時はパラケルスス、ある時はファウスト、そしてこの時代ではジェフェリー・ヌーヴェルヴァーグ。さまざまな名で呼ばれてきた。だが、儂もそろそろプルートゥの元に行く時が近づいているようじゃ」

「まだ、だめでちゅ。ちっていることをじぇんぶはなすでしゅ」

「マクミラよ。お前は父親より兄弟たちに似ているなあ。あるいは、儂の知らないお前の母親に似ているのか。心配せずとも必要なことはジェフに教えてあるし準備もしてある。我が孫よ・・・・・・・」

 そこまで言うと、ヌーヴェルヴァーグ・シニアの姿はまるで日の光に当たった吸血鬼のようにボロボロと崩れていった。

 彼の姿はひとかたまりの埃になって、ベッドの上には魔女の仮面だけが残った。

 

 

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第一部 第5章−8 人間のくせに?

2019-11-15 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

 気づくと机上で真っ黒なベビークリフが揺れていた。闇夜のように不吉な思いが広がった。

 まあ、最後の願いくらい聞いてやっても罰はあたるまい。ベイビーの顔を見たらおいとましてこの会社の精算の算段でもすることにしようと思い直した。

「お名前は?」

「マクミラと言います」

「めずらしいお名前ですな。パパに似てかわいいお顔をしてま・・・」

 最後の部分は、声にならなかった。赤ん坊のするどい爪がのどぶえを絞りあげたからだった。助けを求めて声を絞りだそうとするが、ただ意味のないうめき声だけが漏れる。

「いいこでちゅね。もうすこしそうちてなちゃい」

 暗い影が近寄ると、首筋に冷たい唇を当てられたような気がした。その後、貧血を起こしたような気分になって気が遠くなっていった。その後、彼は追加融資を破格の条件で行う契約書を締結すると、最高級マンションの自室から飛び降り自殺をしてしまった。

 仕事を一歩離れれば、ジェフはマクミラの忠実なしもべだった。マクミラのためなら何でもするつもりだったし、出来るだけの財力を築き上げつつあった。

 あの抜け目のないプルートゥがヌーヴェルヴァーグ製薬を立て直すためだけに自分を転生させるはずがないという確信がマクミラにはあった。その確信は正しかったことが、ジェフェリー・A・ヌーヴェルヴァーグ・シニアに会った時に証明された。

 立志伝中の人物である彼は尊敬と愛情を込めてJANと呼ばれていた。

 数十億ドル以上と言われる個人資産は自分でも完全に把握出来ない。一代にして巨万の冨を成した男。二十世紀初頭の「アメリカの夢」の体現者のご多分に漏れずその過去と私生活は謎につつまれていた。

 数年前、重病にかかってからは引退して人前に出なくなっていた。

 現在はニューヨーク州北部オルバニーのブドウ畑に囲まれた大邸宅に住んでいた。一度、英国で解体してから船で米国まで運ばせて組立て直させたというヨーロッパの古城は悪趣味の極みだったが箴言できる者など誰がいただろうか。

 信じられないことに彼の部屋に着くには、列車を使わなければならなかった。ゴトゴトと音を立ててロココ様式の飾りのついた列車は広大な庭を抜けて、寝室のある地下室に向かっていった。通路はあちこちにたいまつがあって暗くはなかったが、ピラミッド内部のような室内は不気味な雰囲気を漂わせている。

「なんのためでちゅか? このちかしちゅは?」

 日の光が届かなくなったので、幕がかかったゆりかごから少し顔をのぞかせてマクミラが言った。

「父は太陽の日差しが苦手なんです」

「人間のくせに?」

 

 

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第一部 第5章−7 ヌーヴェルヴァーグ・シニア

2019-11-11 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

 一九七二年秋。ここ数ヶ月でジェフェリー・ヌーヴェルヴァーグが行った改革は見事の一言に尽きた。

 賠償起訴を乗り切ったジェフは、遊休資産を次々有利な条件で売却し、リストラを徹底的に行った。さらにヨーロッパの製薬会社と提携話を成立させ、あっと言う間にヌーヴェルヴァーグ製薬の業績を回復させてしまった。

 社内の雰囲気も一変した。

「わかるかい。頭のよい者が生き残るでもなければ、強い者が生き残るのでもない。変化に適応出来る者だけが生き残るのだ。ピンチは今まで変えられなかったシステムを変えるチャンスなのだ。だが、ピンチをピンチと認識出来ない者が社内にいたとしたらそれこそピンチだが」

 深夜にしか開かれなくなった会議でジェフが発言すると取締役連中の背筋が引き締まった。お坊ちゃまと思われていた彼からおどおどした雰囲気が消えて自信満々に物事を進めていく。「ジュニア」と呼ぶものはいつしかいなくなり、立派な後継者と社内外で認められるようになった。

 人々はいったい彼に何が起こったのかと噂した。ある者は有能なアドバイザーがついたのではないかと考えた。またある者は悪魔が彼の後ろ盾についたのではないかと真剣に噂した。

 それがジェフのいくところ必ず見かける赤ん坊だとは誰も思わなかった。彼女の足下から三匹の子犬たちが離れることがなかった。彼らは一人前の盲導犬のつもりだった。

 マクミラは折衝の場面でも重要な役割を演じた。

 初めて同席した商談相手は大銀行の融資担当者だった。

「ヌーヴェルヴァーグさん、御社の財務状態が劇的に改善したとかでもなければ互いの時間の無駄ではないですか?」夜間に呼び出されたグルーディホーンは不機嫌そうに言った。生き馬の目を抜くどころか、にこやかに飛び降り自殺者のポケットから借金を取り立てかねない血も涙もない銀行家だった。

「最近、結婚しましてね」

 グルーディホーンは、それがどうした。やけに血色の悪い顔をしているが、とうとう頭がどうにかなったのかと思った。

「それはおめでとうございます。ですが御社の追加融資申し込みとあなたの御結婚と何か関係があるんでしょうか?」

「娘が生まれたのです」

「はあ」なるほど、結婚したのは、そういうわけかという表情が相手に浮かんだ。

「かわいい娘です。どうぞ見てやってください」

 

 

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第一部 第5章−6 生きる目的

2019-11-08 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

「つくづくおもしろい子ね」

 マウスピークスは考える様子をした。

「『人生はただ歩きまわる影法師、哀れな役者だ』。聞いたことある? 」

「はい」夏海が持っていた教科書で見かけたことがあった。

「そう。でもわたしには、そこまでシニカルには考えられない」

「シニカルでしょうか?」

「文学的ではあるけれどシニカルとは思わないかな。わたしたちは、台本のない芝居を演じてるようなものだわ。『人生』を生きる。それはあなたがさっきしたように階段を上るようなもの。さまざまな出会い、楽しいこと、苦しいこともあって。時には立ち止まって、踊り場で休むことも必要。どこまで上れるかは誰も知らないし、最後に何が待っているかもわからない。他人の階段がどうなっているかもわからない。誰かと一緒に行くこともあれば途中から別れ別れになることもある。でも、あなたがみたいな二段飛ばしはおすすめしない。だって転んだらけがをするわ」

 ナオミは真っ赤になった。

「ひとつはっきりしてることがある」

「何でしょう?」

「階段をどこまで上るか、どこで立ち止まるのか、誰と上るか、あるいは降りるか、それを決めるのはつねに自分自身ということ」

「決めるのは自分自身・・・・・・」

「どんな台本を演じるかを決めるのは自分自身。人類をホモ・サピエンス(知恵のある人)と呼ぶでしょう? 他にも、アリストレスが言ったホモ・ファベル(作る人)、ホイジンガが言ったホモ・ルーデンス(遊ぶ人)とかいろいろな総称で人は自分たちを定義してきたわ。今、私はホモ・コントラバーシア(葛藤する人)という論文を今書いてるの。わたしの意見では、人を人ならしめているのは、自律、自らを律すること。つまり自ら何が正しいのかの基準を決めて行動すること。でも、それは同時に多くの葛藤を抱え込むことでもある」

「すいません。自らを律するって何でしょう?」

「難しい言葉を言いたがるのは学者の悪い癖ね。わかりやすく言えば、自律は自由意志を持った個人として行動すること。それは権利と同時にさまざまな責任を伴う。他人が自分の役割や仕事を決めてくれたら楽かも知れないけど、本当にしたいことを追求出来なくなる。これならわかる?」

 誰かによって役割が決まると聞いて、ナオミは神々の世界を考えた。

「少しだけど、わかります」

「正直でよろしい。校長が古い友人で、今日の講演を頼まれたんだけど、あなた以外には嫌われちゃったみたいね」と言うと、彼女は豪快に笑った。

「とんでもないです。最高の講演でした」

「ムリしなくてもいいわ。でも、あなたには最高だったみたいね。時間がなくなっちゃったわ。この後、校長に会わなくちゃ。今日はお話しできて楽しかったわ」

 どっこいしょと、彼女が巨体を持ち上げた。

「わたし、あなたの学校に行きます。コミュニケーション学を教えてください」

 ナオミが、愛の告白でもするように言った。マウスピークスはにっこりした。

「リクルートはうまくいったかな。次はカンザスで会いましょう!」

 

 

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第一部 第5章−5 ホモ・コントラバーシア

2019-11-04 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 少し歩いただけで足が痛み出す童話の人魚姫とは違って、ナオミの足は丈夫だった。少女時代の海岸遊びと訓練のたまものだった。

 講演が終わるとナオミはゴムまりのように弾んで階段をかけ抜けた。

 なぜ彼女はマウスピークスとの邂逅にそれほどまで興奮したのだろう。

 悩み続けてきた問題の答えが与えられる予感を得たせいかも知れなかった。

 ドアをノックすると返事を待つ間さえももどかしくドアを開けた。

「元気のいいお嬢さん。階段を段飛ばしに上る音が聞こえたわよ」 

 マウスピークスは巨体をカウチに沈めていた。

 竜延香・・・・・・ナオミが入ってきた瞬間、かすかに漂う香水に気づいた。

 興奮した犬のように息を切らしたナオミは言った。

「すいません。二段飛ばしに来ました。ナオミ・アプリオールと言います」

「つっ立ってないでおすわりなさい。何か聞きたいことがあるんでしょう」

 指さされた応接椅子を見た時、ナオミは気がついた。興奮しておしかけたが質問など何も考えていなかったことに。

 思わず正直に現在の悩みを相談した。

「人生とはいったい何でしょう?」

 マウスピークスは恐そうな表情を浮かべたが、しばらくすると大声で笑い出した。

 どうやら、相手を間違えてるよというセリフは聞かされなくてもよさそうだ。

「真剣らしいわね。笑ったりしてごめんなさい。学生時代に英文学部で一番恐い先生が言っていた、なぜ人は文学を勉強するかという理由と答えが同じだわ」

 ナオミは彼女が気を悪くしたのでないと知ってホッとした。

「人生とは何か? その質問に答えるためには人間性とは何かを考えなけりゃ。人生を考えることは人が生きる意味を考えること。人間という存在を規定し他の動物から隔てているもの。それは、人間が余計なことを考えるってことじゃないかしら」

「余計なこと?」

「たとえば学問。学問がなくても死ぬわけじゃない。でも人間は余計なものと百も承知で学問する。わたしはまだ犬に学校があるという話は聞いたことがないわ。たしかに番犬や警察犬の学校はあるけど、あれは彼らが自発的に行くのじゃなくて飼い主の意志が働いているわけでしょう。芸術もそうね。魚が美術館を作ったという話も聞かないわ」

 ナオミは、魚だって芸術の何たるかくらい知ってるわと思ったが、はぁと間の抜けた返事をした。

「余計といっても、すべきじゃないって意味じゃない。しなくてもいいかもしれないけど、すれば世の中のためになる。それで他人が、もしかして自分までハッピーになるなら素晴らしいことじゃない。社会的使命や貢献、親切、生き甲斐、思いやりとかは人間もまんざら捨てたもんじゃないって気にさせてくれる。それにね、最初はムダと思ったことが後からすごく役に立ってるってことは多いわ。たとえば、気が進まないけど行ってみた講演会で思いがけない出会いがあったり。ここまでは、答えになってる?」

 いつかケネスに聞いたことに似ているとナオミは思った。

「もちろんです。でも・・・・・・」

「でも、何?」

「何なのでしょう? 生きる目的って?」

 


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第一部 第5章−4 マウスピークスかく語りき

2019-11-01 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

「一九五〇年代に政治演説研究をしていた英文学部所属の学者たちが始めたのがコミュニケーション学部の前身になったレトリック学部よ。古(いにしえ)の哲人たちは『思索』と『批評』の両方をしていたのに、いつのまにか批評は哲学者の仕事ではなくなった。英文学部を飛び出した学者たちは文学という虚構の言説の批評に不満を持って、現実世界の言説の批評を目指してコミュニケーション学を発祥させた。アリストテレスの『レトリカ』は単なる美辞麗句を弄することを教えた本じゃない。いかなる場合にも可能な説得の手段を見つける能力を教える本よ。さらにプラトン以前に雄弁術を教えたソフィストと呼ばれた哲学者たちに始まる二千三百年の伝統を持つ学問、それがコミュニケーション学なの」

 マウスピークスは、コーヒーを口にした。

「この後はくわしい説明を要しない。中西部の農家の子どもたち向けの対人コミュニケーションから、第二次大戦後に必要とされた異文化コミュニケーションを経て、メディア時代に発展したマス・コミュニケーション、次々とコミュニケーション学が取り扱う内容は膨らんでいった。医師と患者の関係を取り扱う医療コミュニケーション、陪審員制度を分析する法律コミュニケーションも始まった。あなた方は思うかもしれない。医療コミュニケーションを知らなくても医療は医学部で勉強できるんじゃないか。法律コミュニケーションを知らなくても法科大学院で法律は勉強できるんじゃないか。でも違うの。知識やシステムとして政治や医療を研究するんじゃない。コミュニケーションによってわたしたちが共同的に認識する意味が作り出される。コミュニケーション学の研究対象は辞書に載っているような単なる情報伝達じゃない。結論に達するまでには、どんな議論と葛藤があったのか、どのように世論が形成され対立して変容するのかというダイナミックなプロセスが研究対象なの。科学技術の進歩についていけなくなった市民社会が近年のコミュニケーション学の隆盛の背景にあるのは間違いないわ。何か質問は?」

 誰の手も上がらない。

「オーケー、これ以上話を聞きたいなら、午後二時から三時まで二階のゲストルームにいるわ。解散!」

 多くの学生は煙にまかれたと感じたが、ナオミにはそうではなかった。

 完全に理解できた自信はないが、心の琴線に触れた何かがあった。マウスピークスの説が正しいならばコミュニケーション学者こそ現代の哲学者ではないか。

「現代の哲学者」。

 このフレーズが気に入って、何度も繰り返してみた。コミュニケーション学こそ人間をもっと知りたいと思っているマーメイドにぴったりではないか。


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