伝説の魔人の強さを知るマクミラがつぶやいた。
「おどろいた。魔神スネールさえ、異次元空間へ送り込んでしまうとは・・・・・・」
ドルガが振り向いた。「よいか、ここまでは想定内。お前にすがるスネール様のなさけない姿を見ることで、汚れた世界で落ちぶれた我の力は完全復活した。貴様の愛しいダニエルなど、ひとひねりにしてくれる」
普段でも青白いマクミラの顔が、蒼白になった。
精神世界に来て以来、頭痛の止まらないダニエルが絞り出すように言った。「俺は、そんなに簡単にやられるつもりはないぜ」
「さあ、嵐が吹き荒れる部屋へ移動だ!」アストロラーベが宣言する。
嵐の吹き荒れる部屋は、立っていられないほどの暴風雨だった。例によってアストロラーベが、立会人たちのためにセイフティゾーンを作る。
アストロラーベが語りかけた。「死の神トッドの娘ドルガよ。プルートゥ様の遠縁にあたるお主は、冥界でも名門中の名門の出。なぜ魔人スネールなどと組むようになったのか、語ってはくれまいか?」
「よかろう。冥界の貴公子が、人間界まで追って来てくれたのだ。それくらい教えてやってもバチは当たるまい」
マクミラは、また悪い癖が出たと舌打ちしたい気分だった。
第三の部屋の勝負が終わった時点で111分あった時間は、さかさまジョージの手出しで99分に減っていた。無駄にする時間は、一分どころか1秒もありはしないというのに・・・・・・しかし、アストロラーベは不利になればなるほど、意識的なのか無意識的なのか余計な手間をかけたがる癖があった。これまでは、そうした余裕が裏目に出たことが無いにしても、今回は胸騒ぎがしてならない。
「その前に確認しておきたい。最後の闘いに勝利したならば、我らに自由を与える約束だったな?」
「神に二言はない」
「よし、知りたいのは、なぜスネール様と関わるようになったのかだったな。よいか。我ら死の神の一族は、9つの魂を持っている。だから、8回までは殺されても生き返る」
「死の神一族の9つの魂の噂なら、聞いたことがある。今回の闘いでは、どうすればよいのだ。お主を9回殺さなければならないのか? それとも、一度でも殺せば我らの勝ちなのか?」
「もちろん、一度でも殺せればお主たちの勝ち。ただし、9回殺すことはできない。なぜなら我は、すでに生涯に一度殺されたからだ」
「その相手が魔人スネールだったのか?」
「違う。我が父じゃ!」
ドルガが実の父に殺されたと聞いて、さすがに皆が息を飲む。
「どうした。父の我に対する仕打ちを知って臆したか、冥界の貴公子殿」
「なぜ、そんなことを?」
「父は、母の堕天使ダラミスと地上で契りを結んだことを後悔していた。母は美しかった。美しすぎたと言ってもよいほどに。美しいが移り気な母は、我を産み落とすと次の恋を求め、父の元を去って行った。捨てられた父は、表面的には仕事をこなしていたように見せていたが、独りになると会えなくなった母を忘れられず苦しんでいた。そんな父があわれでならなかったから、我は救ってやろうと思ったのだ」
「つまり、殺してやろうと思ったのだな?」
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