気づいた時には、本性であるレッド・ドラゴンに変身した父トッドの口から、火の川ピュリプレゲドンの業火が吐き出されていた。炎は、彼女の身体を着実に焦がしていった。まず美しい翼が焼けただれ、髪の毛が燃えさかり、着飾った服が燃え上がり、皮が剥け、肉が焼けこげ、最後には骨まで炎に溶けていった。
しかし、ドルガは、生まれてからこれほどの陶酔を感じたことはなかった。死とは、これほどまでに甘美なのか。これほどまでに、自らを解き放ってくれるのか。これほどまでに、父の愛を感じることができるのか。
最後に目の前にあったのは、怒りが解けて死の神の姿に戻って自分の娘を殺したことに茫然自失とするトッドの顔であった。それでもトッドは、ドルガを許さなかった。
理由は、父を殺そうとしたためではなく、不意打ちをくわせたためであった。卑怯と非難されるとは、ドルガは夢にも思わなかった。ただ子供なりに、確実に父を殺してやろうとしただけだった。最初の死を迎えてドルガは、死神の姫としてでなく、父の怒りを吸い取ったかのような「悪魔姫」として転生した。彼女は、父の愛とひきかえに、秘技ファイナル・フロンティアを身につけた。
父トッドは、ドルガに短い別れの言葉を残した。
「よく聞くがよい。これが、我が親としてお前に話しをする最後の機会である。死とは、崇高なものであり、軽々しくあつかったり、ましてやもてあそんだりするものではない。人間はもちろんたとえ神々であっても、一つの生において一つの死しか得ることはできぬ。その重い価を持つ死を司る死の神一族だけが、9つの魂を持つことを古より許されている理由だ。闘いを挑むのは、かまわぬ。だが、たとえ何も分からぬ子供であったとしても、父に平静を与えようとしたのであったとしても、不意打ちで死を与えようとしたことはけっして許せぬ。これより父でもなければ娘でもない。悪魔姫として、勝手に生きてゆくがよい」
「おい、どうした」
ドルガは、マクミラの声で我に返った。
「マクミラ、お前は兄たちと比べるとサラマンダーの血が薄いのであろう? 数千度の炎に耐えるアストロラーベや一万度の熱さえもろともしないスカルラーベと比べて、お前が自らを炎の化身とするなど自殺行為ではないか」
「大きなお世話だ」
ドルガがアストロラーベの方を振り向いた。「おい、軍師殿。話がある」
「いったいなんだ?」
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