財部剣人の館『マーメイド クロニクルズ』「第一部」幻冬舎より出版中!「第二部」朝日出版社より刊行!

(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

マーメイド クロニクルズ 第二部 最終章−5 分離するダニエル(再編集版)

2021-06-29 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人


   すべてを燃やし尽くす蒼き炎が
   すべてを覆い尽くす氷に変わり
   猛々しき白骨が愛に包まれて石に変わり
   冥界の神官が一人の人間の女に変わる時
   巨大な合わせ鏡が割れて
   太古の蛇がよみがえり
   新たなる終わりが始まりを告げて
   すべての神々のゲームのルールが変わる

 ここまでは、アストロラーベの思い通り進んでいる。
 時空変容ミラージュの儀式によって起きた「すべてを燃やし尽くす蒼き炎が」、第一の部屋で「すべてを覆い尽くす氷に変わり」ナオミが氷天使メギリヌに勝利を収めた。第二の部屋では、「猛々しき白骨が愛に包まれて石に変わる時」、スカルラーベが蛇姫ライムと引き分けた。だが、第三の部屋では、アストロラーベが唄姫リギスに辛勝したものの「冥界の神官が一人の女に変わる時」などなかったではないか? だが、「巨大な合わせ鏡が割れて」しまっても「太古の蛇はよみがえり」をするどころか、異次元空間に飛んで行ってしまった。「新たなる終わりが始まりを告げて、すべての神々のゲームのルールが変わる」とは、いったい・・・・・・
「心配するな」気がつくと、アストロラーベが近くに来ていた。「ここまでは計算通り。ケネスが身を犠牲にしてシンガパウムを呼び出したことも、スカルラーベの呪いが解けたことも、唄姫リギスにかろうじて勝利したことも。だが、ダニエルとペルセリアスに身体を提供しているクリストフが、精神世界でどうなるかは予測できなかった。ここは、精神がすべてを支配する世界。ミックスト・ブレッシングのように相反する精神体から発せられるエネルギーの技は、とても危険なのだ。よいか、アポロノミカンの予言は当たっている。愛に目覚めたお前は、すでに冥界の神官から一人の人間の女に変わっているのだ! これ以上、ダニエルに技を使わせると身体が分離してしまって完全体では元の世界に戻れなくなるぞ。マクミラ、愛するもののために全力で闘ってみろ!」
 アストロラーベの言葉を聞いて、マクミラは飛び出した。
 マクミラが傍らに寄り添うと、ダニエルがしぼり出すように言った。
「まだ終われぬ。こんなところでは。お前は、冥主からしたら取るに足らない汚れ仕事を与えられて、最低の人間たちとつきあわされて・・・・・・俺以外は、知らない。お前が、最低の人間たちと気分が悪くなり、吐き気が止まらなくなりながら、与えられたゲームの役割を演じるために、どれだけ苦しんでいるか。必ず生き残って、汚れ仕事はすべて俺が引き受けてやる。マクミラ、見てろよ」


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マーメイド クロニクルズ 第二部 最終章−4 ドルガの告白(再編集版)

2021-06-25 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

「お主たちの言葉で言えば、そうなるのかもしれぬ。当時は、9つの魂のことは知らなかったから・・・・・・我ら一族から見れば、死こそ究極の安楽であり憩いの場なのだ。真意がわからなかった父は襲われた時、本気でやり返してきた。最初の死を迎えた我は、悪魔姫ドルガとして生まれ変わった。それからのことは、お主の方がくわしいであろう」
「なるほど。死の神トッド様が、お主のことを黙して語らぬわけだ」
「同情など犬も食わぬぞ。最後の闘いを始めようではないか」
 般若の形相になったドルガが、スッと飛び立った。暴風雨をもろともしないどころか、暴風雨が友人であるかのようなすずしい顔である。
 ダニエルも、セラフィムが持つ6枚の羽を広げてスッと飛び上がる。ただし羽は金色ではなく暗黒色。こちらも暴風雨を苦にしていない。
 二人の回りの暴風雨が、一気に激しくなった。まるで二人が、激しい風雨をすいよせるかのように。
「感じるぞ。墮天使ダニエル、お前の精神力が強まって行くのが。だが、天使と墮天使とヴァンパイアという三つの力が一つの身体で勢力争いをするのに、もう耐えられないのではないか?」
「大きなお世話だ。俺の命は、お前を倒すまで持てばそれでいい」
「まずは小手調べと行こう」
 言うが早いか、ドルガの鋭い爪がダニエルに襲いかかる。
 だがダニエルが、ドルガの手首をつかむ方が先だった。ヴァンパイアの鋭い爪がドルガの肌に食い込んで行く。
「ほう、金色の鷲と呼ばれたペルセリアスの業は衰えてはいないか」
「そんな名は忘れた。俺は、今では墮天使ダニエルだ!」
「たしかに、もう金色ではなくなったな」
「時間がない。いろいろな意味で。勝負を急がせてもらうぞ。地獄で後悔しろ! ミックスト・ブレッシング!」
 ダニエルの右眼から白い熱線が、左目から黒い熱戦が発せられた。
 黒い熱戦が黒色火薬のようにドルガを幾重にも包むと、一瞬後に白い熱戦が時限爆弾のように発火した。煙と暴風雨のせいで、立会人たちにはまだはっきりと見えないが、ダニエルの必殺技が炸裂したことだけはわかった。
 煙が消え去ると、羽がすすけただけのドルガが中に浮いていた。無敵の悪魔姫には、やはりかなわないのかと皆が思った瞬間、ダニエルをみて絶句した。ダニエルの右半身が金色の鷲ペルセリアスに戻り、左半身が暗黒の墮天使ダニエルになっていた。
 心眼で右半身と左半身が分離したダニエルを感じて、マクミラは気が気でなかった。おかしい!? アポロノミカンの予言が外れるのか?


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マーメイド クロニクルズ 第二部 最終章−3 ナインライヴス(再編集版)

2021-06-22 00:00:41 | 私が作家・芸術家・芸人

 伝説の魔人の強さを知るマクミラがつぶやいた。
「おどろいた。魔神スネールさえ、異次元空間へ送り込んでしまうとは・・・・・・」
 ドルガが振り向いた。「よいか、ここまでは想定内。お前にすがるスネール様のなさけない姿を見ることで、汚れた世界で落ちぶれた我の力は完全復活した。貴様の愛しいダニエルなど、ひとひねりにしてくれる」
 普段でも青白いマクミラの顔が、蒼白になった。
 精神世界に来て以来、頭痛の止まらないダニエルが絞り出すように言った。「俺は、そんなに簡単にやられるつもりはないぜ」
「さあ、嵐が吹き荒れる部屋へ移動だ!」アストロラーベが宣言する。

 嵐の吹き荒れる部屋は、立っていられないほどの暴風雨だった。例によってアストロラーベが、立会人たちのためにセイフティゾーンを作る。
 アストロラーベが語りかけた。「死の神トッドの娘ドルガよ。プルートゥ様の遠縁にあたるお主は、冥界でも名門中の名門の出。なぜ魔人スネールなどと組むようになったのか、語ってはくれまいか?」
「よかろう。冥界の貴公子が、人間界まで追って来てくれたのだ。それくらい教えてやってもバチは当たるまい」
 マクミラは、また悪い癖が出たと舌打ちしたい気分だった。
 第三の部屋の勝負が終わった時点で111分あった時間は、さかさまジョージの手出しで99分に減っていた。無駄にする時間は、一分どころか1秒もありはしないというのに・・・・・・しかし、アストロラーベは不利になればなるほど、意識的なのか無意識的なのか余計な手間をかけたがる癖があった。これまでは、そうした余裕が裏目に出たことが無いにしても、今回は胸騒ぎがしてならない。
「その前に確認しておきたい。最後の闘いに勝利したならば、我らに自由を与える約束だったな?」
「神に二言はない」
「よし、知りたいのは、なぜスネール様と関わるようになったのかだったな。よいか。我ら死の神の一族は、9つの魂を持っている。だから、8回までは殺されても生き返る」
「死の神一族の9つの魂の噂なら、聞いたことがある。今回の闘いでは、どうすればよいのだ。お主を9回殺さなければならないのか? それとも、一度でも殺せば我らの勝ちなのか?」
「もちろん、一度でも殺せればお主たちの勝ち。ただし、9回殺すことはできない。なぜなら我は、すでに生涯に一度殺されたからだ」
「その相手が魔人スネールだったのか?」
「違う。我が父じゃ!」
 ドルガが実の父に殺されたと聞いて、さすがに皆が息を飲む。
「どうした。父の我に対する仕打ちを知って臆したか、冥界の貴公子殿」
「なぜ、そんなことを?」
「父は、母の堕天使ダラミスと地上で契りを結んだことを後悔していた。母は美しかった。美しすぎたと言ってもよいほどに。美しいが移り気な母は、我を産み落とすと次の恋を求め、父の元を去って行った。捨てられた父は、表面的には仕事をこなしていたように見せていたが、独りになると会えなくなった母を忘れられず苦しんでいた。そんな父があわれでならなかったから、我は救ってやろうと思ったのだ」
「つまり、殺してやろうと思ったのだな?」


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マーメイド クロニクルズ 第二部 最終章−2 ドルガのチョイスはトラジック?(再編集版)

2021-06-18 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

「スネール様!」翼竜の羽ばたきのたびに小さい竜巻が起こるドルガが、アポロノミカンを差し出す。「こちらをご覧ください」
 左の鏡から右の鏡に移ろうとしていたスネールの目が、釘付けになった。
 グムオーーン!
「オオ、スネール様が進化される・・・・・・」
 悪鬼の形相をした蛇が、巨大化、凶悪化し始めた。次にスネールの口から出た言葉は、ドルガの想定外だった。
「マ、マ、マクミラ・・・・・・」
「マクミラだと!? やはりアポロノミカンをもってしても、ダメか・・・・・・」
「マクミラはどこじゃ? 我は、マクミラを守るために人間界で待っておった。おお、愛しいマクミラよ。そこにおったか」
 マクミラが、ハスキーボイスで言い放つ。「魔人ともあろうものが、時と場所をわきまえろ。緊張感のない奴め。せっかく三つの部屋の闘いで場が盛り上がっていたのに、台無しではないか! わたしは誰も愛さず、氷結地獄に送り込んだ悪鬼以外は誰からも愛されぬ運命。いちいちお前たちの求愛を受けていたら、いくつ身体があっても足りない」
「恥を知れ」そこまで聞いていたドルガが、「爆破するもの」の本領を発揮した。死の翼の羽ばたきが強まる度、起きる竜巻も大きくなっていく。両眼が輝いた瞬間、自ら意志を持ったかのように翼から生じた竜巻がスネールを襲った。
 バリ、バリ、バリ・・・
 ドリルのような音を立てる竜巻が爆発すると、スネールが巻き込まれて異次元空間に飛んでいってしまう。冥界最強技の一つとおそれられた、ファイナル・フロンティアであった。跡形もなく消え失せた魔人がどこにいくかは、ドルガ自身にもわからない。だが、彼がもう二度とこの世界に戻ってくることはない。それもこれまでは・・・・・・であったが。
「魔人よ、待つんだ! このままじゃ、無駄死にじゃないか。ボクと合体だ!」言うが早いか、さかさまジョージが逆立ちのままスネールに向かって飛び出す。
 ウウウッ、マクミラ・・・・・・。スネールは、つぶやき続けていた。
 さかさまジョージはアポロノミカンをドルガの腕に残したまま、スネールと共に合わせ鏡の中に消えていってしまった。
 アポロノミカンをマクミラへ放り投げながら、ドルガが言う。「さあ、最後の部屋へ行こう。これは返しておく。目障りな合わせ鏡など、こうしてくれる」ひときわ強い羽ばたきを見せると、ファイナル・フロンティアが発生して二枚の巨大な鏡は異次元空間へと吸い込まれていった。


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マーメイド クロニクルズ 第二部 最終章−1 魔神スネール再臨(再編集版)

2021-06-15 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

     

「ドルガねえちゃん、何するんだ? アポロノミカンは、魔人をつかまえるためにボクが持ってきたんじゃないか」
「スネール様は、降臨する前にマクミラに魂を奪われていた。アポロノミカンを見せて、新魔人として生まれ変わっていただくのだ」
「ま、待つんだ! アポロノミカンを人間以外のものが見せたことはまだない。何が起こるかは、誰にもわからないんだよ」
「さかさまジョージ、お前らしくもない。何が起こるかわからないからこそ、やってみるべきではないか?」
 ウッ、さかさまジョージがうなった。
 ドルガの鋭い爪が特殊ガラスケースを砕く。

 だが次の瞬間、アポロノミカンが圧倒的思念で語りかけてきた。
(死の神の娘よ、今、儂とお主だけは異なった時間帯にいる。ちょっと話をしようではないか?)
 夏海と合体したドルガが、声に出して答える。「何ごとだ? 『神導書』は『悪魔姫』に力を貸すのは不満か? 我が望みは、スネール様と共に世界を再構築することじゃ。やり方が気に入らないならば、はっきり言うがよい。そうでなければ、だまっているがよい」
(アスクレピオスが作った儂も、しょせんは「歴史」のパワーの一部にすぎん。それにお主がここで儂を開くのも、すでに予言されていること)
「それなら何の文句がある?」
(文句などはない。儂はこれまで予言するだけの存在だったし、これからもそれ以上でもそれ以下でもない。ある種の人間どもは、儂を手に入れることで何かを変えられると勘違いしていた。もし儂を狙って手に入れられたのならば、運命がそうなっていただけ)
「年寄りの話はまわりくどくてかなわん。何が言いたい?」
(たしかに、まわりくどかったな。儂はどうやら、神々のゲームに踊らされるお主たちが好きになったようだ。といって、何かをしてやることはできない。儂にできるのは、心構えを伝えることだけじゃ)
「心構え?」
(お主が取り付いた夏海の心をのぞいてみろ。チョイス・イズ・トラジックというメッセージが見つかるはずじゃ)
「チョイス・イズ・トラジック?」
(『悪魔姫』と呼ばれて気ままに暴れ回っていた時のお主と、人間に取り付いた今では立場が変わってしまったのじゃ。人間は、神々のように気まぐれには生きられぬ存在じゃ。人間は、自らの行動を選択する自由を持っている。だが、一度選択をしたら、その選択には責任を持たなければならぬぞ)
「上等よ!」
 次の瞬間、ドルガは元の時間帯に戻っていた。


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マーメイド クロニクルズ 第二部再編集版 序章〜第12章バックナンバー

2021-06-11 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

「第一部 神々がダイスを振る刻」をお読みになりたい方へ

「第二部 序章」

「第二部 第1章−1 ビックアップルの都市伝説」
「第二部 第1章−2 深夜のドライブ」
「第二部 第1章−3 子ども扱い」
「第二部 第1章−4 堕天使ダニエル」
「第二部 第1章−5 マクミラの仲間たち」
「第二部 第1章−6 ケネスからの電話」
「第二部 第1章−7 襲撃の目的」
「第二部 第1章−8 MIA」
「第二部 第1章−9 オン・ザ・ジョブ・トレーニング」

「第二部 第2章−1 神々の議論、再び!」
「第二部 第2章−2 四人の魔女たち」
「第二部 第2章−3 プル−トゥの提案」
「第二部 第2章−4 タンタロス・リデンプション」
「第二部 第2章−5 さらばタンタロス」
「第二部 第2章−6 アストロラーベの回想」
「第二部 第2章−7 裁かれるミスティラ」
「第二部 第2章−8 愛とは何か?」

「第二部 第3章−1 スカルラーベの回想」
「第二部 第3章−2 ローラの告白」
「第二部 第3章−3 閻魔帳」
「第二部 第3章−4 異母兄弟姉妹」
「第二部 第3章−5 ルールは変わる」
「第二部 第3章−6 トラブル・シューター」
「第二部 第3章−7 天界の議論」
「第二部 第3章−8 魔神スネール」
「第二部 第3章−9 金色の鷲」

「第二部 第4章−1 ミシガン山中」
「第二部 第4章−2 ポシー・コミタータス」
「第二部 第4章−3 不条理という条理」
「第二部 第4章−4 引き抜き」
「第二部 第4章−5 血の契りの儀式」
「第二部 第4章−6 神導書アポロノミカン」
「第二部 第4章−7 走れマクミラ」
「第二部 第4章−8 堕天使ダニエル生誕」
「第二部 第4章−9 四人の魔女、人間界へ」

「第二部 第5章−1 ナオミの憂鬱」
「第二部 第5章−2 全米ディベート選手権」
「第二部 第5章−3 トーミ」
「第二部 第5章−4 アイ・ディド・ナッシング」
「第二部 第5章−5 保守派とリベラル派の前提条件」
「第二部 第5章−6 保守派の言い分」
「第二部 第5章−7 データのマジック」
「第二部 第5章−8 何が善と悪を決めるのか」
「第二部 第5章−9 ユートピアとエデンの園」

「第二部 第6章−1 魔女軍団、ゾンビ−ランド襲来!」
「第二部 第6章−2 ミリタリー・アーティフィシャル・インテリジェンス(MAI)」
「第二部 第6章−3 リギスの唄」
「第二部 第6章−4 トリックスターのさかさまジョージ」
「第二部 第6章−5 マクミラ不眠不休で学習する」
「第二部 第6章−6 ジェフの語るパフォーマンス研究」
「第二部 第6章−7 支配する側とされる側」
「第二部 第6章−8 プルートゥ、再降臨」
「第二部 第6章−9 アストロラーベ、スカルラーベ、ミスティラ」
「第二部 第6章ー10 さかさまジョージからのファックス」

「第二部 第7章ー1 イヤー・オブ・ブリザード」
「第二部 第7章ー2 3年目のシーズン」
「第二部 第7章ー3 決勝ラウンド」
「第二部 第7章ー4 再会」
「第二部 第7章ー5 もうひとつの再会」
「第二部 第7章ー6 夏海と魔神スネール」
「第二部 第7章ー7 夏海の願い」
「第二部 第7章ー8 夏海とケネス」
「第二部 第7章ー9 男と女の勘違い」

「第二部 第8章ー1 魔女たちの二十四時」
「第二部 第8章ー2 レッスン会場の魔女たち」
「第二部 第8章ー3 ベリーダンスの歴史」
「第二部 第8章ー4 トミー、託児所を抜け出す」
「第二部 第8章ー5 ドルガとトミー」
「第二部 第8章ー6 キャストたち」
「第二部 第8章ー7 絡み合う運命」
「第二部 第8章ー8 格差社会−−上位1%とその他99%」
「第二部 第8章ー9 政治とは何か?」
「第二部 第8章ー10 民主主義という悲劇」

「第二部 第9章ー1 パフォーマンス開演迫る」
「第二部 第9章ー2 パフォーマンス・フェスティバル開幕!」
「第二部 第9章ー3 太陽神と月の女神登場!」
「第二部 第9章ー4 奇妙な剣舞」
「第二部 第9章ー5 何かが変だ?」
「第二部 第9章ー6 回り舞台」
「第二部 第9章ー7 魔女たちの正体」
「第二部 第9章ー8 マクミラたちの作戦」
「第二部 第9章ー9 健忘症の堕天使」

「第二部 第10章ー1 魔女たちの目的」
「第二部 第10章ー2 人類は善か、悪か?」
「第二部 第10章ー3 軍師アストロラーベの策略」
「第二部 第10章ー4 メギリヌ対ナオミと・・・・・・」
「第二部 第10章ー5 最初の部屋」
「第二部 第10章ー6 ペンタグラム」
「第二部 第10章ー7 ナオミの復活」
「第二部 第10章ー8 返り討ち」
「第二部 第10章ー9 最悪の組み合わせ?」

「第二部 第11章ー1 鬼神シンガパウム」
「第二部 第11章ー2 氷天使メギリヌの告白」
「第二部 第11章ー3 最後の闘いの決着」
「第二部 第11章ー4 氷と水」
「第二部 第11章ー5 第二の部屋」
「第二部 第11章ー6 不死身の蛇姫ライム」
「第二部 第11章ー7 蛇姫ライムの告白」
「第二部 第11章ー8 さあ、奴らの罪を数えろ!」
「第二部 第11章ー9 ライムの受けた呪い」

「第二部 第12章ー1 ライムとスカルラーベの闘いの果て」
「第二部 第12章ー2 責任の神の娘」
「第二部 第12章ー3 リギスの戯れ唄」
「第二部 第12章ー4 唄にのせた真実」
「第二部 第12章ー5 アストロラーベの回想」
「第二部 第12章ー6 勝負開始」
「第二部 第12章ー7 逆襲、アストロラーベ!」
「第二部 第12章ー8 スーパー・バックドラフト」
「第二部 第12章ー9 さかさまジョージの魔術」


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マーメイド クロニクルズ 第二部 第12章−9 さかさまジョージの魔術(再編集版)

2021-06-08 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 マクミラ陣営がアストロラーベの勝利にホッとしていると、声が聞こえた。「冥界の軍師もヤキが回ったか。狙いはお前ではない。回りを見ろ!」
 皆が見ると、数千枚の鏡がドロドロに溶けていた。
 ケケケッケッケ! 
 甲高い笑い声の方を見ると、さかさまジョージが飛び出した。「打ち合わせをしたのが自分たちだけと思い込むなんてバカじゃない? マクミラねえちゃんが作らせた4つのテーマパーク最後の建物、アポロノミカンランドでは、魔術の研究もしていたのさ。さあ、ここで巨大合わせ鏡を作らせてもらうよ。アストロラーベ兄ちゃん、一回は見届け人も助っ人に入れる約束だね。今は人間時間で真夜中の12時。合わせ鏡を作れば、魔神スネールを呼び出せるのさ」
「そんな魔術は聞いたことがない」マクミラが異議を唱えた。「本来、無限に広がる虚無空間に映った鏡から鏡を渡る悪魔の尻尾を聖書ではさむと捕まえられるのであろう?」
「ケケケッケッケ、僕がそう決めたの。ここはなんでもアリの精神世界。精神力がすべて。ボクの思いこみの力を見せてやる!」
 ジョージが、逆立ちしたまま、なにやら呪文をとなえ始めた。

   精神世界の悪魔たちよ
   我が呼びかけに答え、導くものを呼び出す手助けをするがよい
   さもなくば冥界の業火が、一万年の永きにわたり汝らを苦しめるであろう
   火ぶくれはふくれあがり、ヤケドからは苦しみの種が生まれるであろう
   魔界の住人たちよ
   我が呼びかけに答え、率いるものを呼び出す手助けをするがよい
   さもなくば利口ぶった愚者が、世界を支配下に置き有頂天となるであろう
   愚者の支配は、耐えがたい飢えと疫病を隅々にまではやらせるであろう
   汝たちは知っているはずだ
   太古の昔よりの定めによって
   今宵、魔神スネールがよみがえりすべてを変える
   今こそアポロにミカンの力によって
   四人の魔女の元に再臨するがよい
   魔神スネーール!

 次の瞬間、精神世界そのものが轟音を立てて大きくゆれた。巨大な苦しむ蛇が鏡の中に現れて、のたうち回っていた。合わせ鏡は、いまや魔神を四人の魔女陣営とマクミラ陣営に会わせるための「逢わせ鏡」となっていた。
 直接闘ったもの以外は、伝説に聞くだけの魔人スネールがその姿を現した。その黄色い瞳は見るものを金縛りにし、その頭にはまるで龍のような鶏冠が2本生えており、アゴの下には不気味な前垂れが垂れ下がっていた。獰猛なワニのようなキバがびっしりと生えたアゴは、耳まで裂けている。
 四人の魔女たちの中で、一人残ったドルガが目を輝かせている。
 アッ! 
 さかさまジョージが声を上げた。ドルガがアポロノミカンを奪い取ったからだった。


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マーメイド クロニクルズ 第二部 第12章−8 スーパー・バックドラフト(再編集版)

2021-06-04 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

「ムダだ・・・・・・スカルラーベ将軍の力の源泉は怒りだ。単なる現身の熱では、サラマンダーの血を引く私を倒すことはできないと言ったではないか」
「軍師殿、狙いは兄上ご自身ではござらぬ。槍をご覧くだされ」
 皆が槍をのぞき込むと、沸騰しないはずの炎の川ピュリプレゲドンの水が蒸発してなくなっている。
「さあ、どうされます? これで槍の力は残り2つ・・・・・・」
「楽しませてくれるな」アストロラーベが再びフン、と力を込めると、槍に新たな水が満ちる。「まさかここで我が技を自身に使うことになるとは・・・・・・」
 落ち着きをもたらす「癒しの物質セロトニン」と恍惚感をもたらす「脳内麻薬エンドルフィン」が大量に含まれているステュクスの水が槍の中に現れた。それが身体に入ると、落ち着きと恍惚感に引き裂かれた味方は痛みを感じなくなる。アストロラーベが、槍を自分自身に突き刺した。
「さあ、もう残るは冥界の忘却の川レテの水のみ。勝負は、私がお前の記憶を消すか、私がお前にやられるかだ」
「軍師殿、我が最大の秘技をまだ使っていないことを、お忘れではあるまい?」
 ライムが変化したスカルラーベが身構えた。まるで目の前の空気をつかもうとするかのように交差した両手の爪が動くとブルブルと震えて、その爪が後ろに引っ張られる。
 次の瞬間、スカルラーベが叫ぶと腕が目の前の空気を上方に引き裂いた。
 秘技スーパー・バックドラフト!
 回りの空気が吸い込まれるようになくなって、強大なコロナが誕生した。
 ドッカーン! 
 大音響の後、一面が炎に包まれた。核爆弾が炸裂したかのような光の流れのせいで、中心部はまったく何も見えなかった。炎が燃え尽きた後、今度はそこに誰もいなくなっていた。

「軍師殿も、我がファントム・パラダイスによって滅びたか。実の弟の手にかかるのであれば本望であろう」スカルラーベの声でリギスがつぶやいた。
 次の瞬間、突然、現れた半透明の槍がスカルラーベの胸をつらぬいた。手にしていたのは、全身が炎につつまれたアストロラーベだった。
「油断したな。炎はサラマンダーの血を引く私を強化すると言わなかったか? 熱はすべて私自身の体内に取り込んだ。今、お主に注入したのは、手つかずで残っていたレテ川の水だ」
 忘却の川の水を注入されたリギスが、がっくり頭を垂れた。
 アストロラーベは思った。
 また生き残ってしまったか・・・・・・
 さすがの唄姫リギスも、戦闘能力の判断を誤ったか。私を倒したかったならばマクミラやスカルラーベではなく、アフロンディーヌになればよかったのだ。やすやすと、いや望んでころされてやったものを。あるいは、私が一番会いたかったアフロンディーヌに会わせなかったのだから、これこそ「なやますもの」の真骨頂か? フッ、冥界の軍師ともあろうものが、なにをバカなことを考えているのか。
 気がつくと、アストロラーベの第三の部屋の勝負が長引いたため、残り時間はわずか111分間になっていた。


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マーメイド クロニクルズ 第二部 第12章−7 逆襲、アストロラーベ!(再編集版)

2021-06-01 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

「ダメージを与えたつもりか?」アストロラーベにこたえた様子はない。「私もサラマンダーの血を継ぐもの。冥界の業火は、逆に力を与えてくれるわ」
「お兄様、お分かりになりませぬか?」リギスが、マクミラの声で言う。「それは本当の狙いではありません。お手元をご覧くださいませ」
 言われたアストロラーベが半透明の槍を見た。中身がゴボゴボと音を立てて沸騰していた。
「これでどこに消えても現れた瞬間、音でわかりますわ。お兄様」
「さすがだな。マクミラの姿を取る以上、それくらいはしてもらわないと。今、お前が沸騰させたのはアケロンの水だ。まだ、他の3つの川の水が残っている。水を取り替えてしまえば、もう沸騰音など役には立たないぞ」
 フン。アストロラーベが力を込めると業火が体内に引っ込んだ。同時に、槍の内部がすんだ半透明に戻った。「今度の槍の内部は火の川ピュリプレゲドンから取ってきた水。地獄の業火程度では、沸騰させることはできぬぞ」
「ククク、お兄様、楽しませてくれるわ」
 マクミラの姿のリギスが、再び高々と両腕を高く上げた。
 ファントム・パラダイス! 
 リギスの全身が再び光につつまれた次の瞬間、そこにいたのは数千の鏡に写ったスカルラーベだった。

「やれやれ、今度は将軍殿か。楽しませてくれるとは、こちらのセリフよ」
「軍師殿と闘うのは夢でござった」スカルラーベの声で、リギスがうそぶく。「いざ勝負とまいろう」
 言うが早いか、巨大な鎌が一閃された。だが、アストロラーベは造作なく半透明の槍で受け止める。
 激しいつばぜり合いが続いた。優男風のアストロラーベだが、スカルラーベに力でもひけを取らない。
 スカルラーベを思いっきり、はじき飛ばして距離を取る。アストロラーベの漆黒のマントがビリビリと裂けて、青い羽が左右にゆっくり広がった。半透明の剣が宙を切り裂いて、青い炎が次々と生み出される。生命を持ったかのように炎は、獲物を求める3つ首ドラゴンになった。
 はじき飛ばされたスカルラーベも白いマントをビリビリと切り裂いて、真っ黒な羽をゆっくり広げた。大鎌を振り回して、白炎を次々と生み出す。
 鎌を一閃する度に炎の数がふえて、やがてひとつの兄弟な炎になり、すべてを焼き尽くそうとする3つ首白色ドラゴンになった。サラマンダーの血の薄いマクミラの場合、出せる炎は摂氏三千度の熱。それに対して、サラマンダーの血が濃いアストロラーベの炎が六千度、性格が母親そっくりなスカルラーベの炎は九千度から時に一万度さえ超える。
 白色ドラゴンが、アストロラーベに襲いかかった。
 アストロラーベの青い3つ首ドラゴンが、白い3つ首ドラゴンによって燃え尽きたように見えた。だが、炎が消えた時、そこにあったのは宙に浮かぶアストロラーベの姿だった。

     


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