またたび

どこかに住んでいる太っちょのオジサンが見るためのブログ

BUTTERFLY-1

2009-02-12 08:21:53 | またたび
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 彼女の背中の右肩に大きな緋色のバラのタトゥがある。
 白い肌に溶け込むように映えるその色はシャツを着ても当然透け、彼女の表情と同じく、毅然と構えていた。
 身長は小柄で髪は肩まであり、普段は一本に結んでいる。鼻筋は通っていて、整った顔立ちである。
 一見、強気な顔にも感じるが、時折見せる笑顔が何とも言えない彼女の魅力の一つであった。まるで小悪魔が手招きしているかのようだった。
 僕自身はタトゥには興味があったが、身近にしている人はいなかったためか、余計新鮮に感じていた。
 彼女といっても、まだ手すら握ったこともなく、男女の関係にはいっていない。可能性がないわけではないと出会った当初は思っていたし、負け戦に挑むほど、自信家ではない。
 出会いのきっかけは二十五歳で子持ちのバイト仲間から妹の紹介だった。
 妹の歳は僕より二つ上なので二十二歳。
 目元は姉そっくりの魅力的な大きな目をしていた。
 密かに恋心を抱いていたので、不倫になるよりも健全な道を選んだ。
 僕は自分でもいうのはなんだが、すごく律儀で、理論に偏る。よくある話だが、高校までバンド活動を続けていた。
 汗を流す部活動よりもロックの道を選んだ。一応、将来はプロを目指していたが、喧嘩別れをして解散した。
 始めはうまくいっていたが、続けるうち不協和音が徐々に生じ、高校最後の夏にライブが終わると同時に、バンドも終止符を打った。
 所詮、みんなも学生時代の思い出作り程度にしか、活動はしていなかったと思う。
 しかし、解散の原因は僕のある一言だった。
 たった一言で今まで積み重ねてきたものを失い、言葉の重さを充分に味わった。
 信じていただけにかなり辛い思い出となった。
 それからは、相手に合わせるような態度となり、失う怖さから自分をうまく表現できなくなっていた。
 あんな気持ちにはもうなりたくないし、同じことは繰り返したくない。
 僕さえ我慢すれば、それで済むことだと思っていた。
 本音を出して嫌われたくない、とにかく傷つくことに対し、異常な恐怖を感じていた。
 その考えは高校時代と変わっていない。変われるものなら、変わってみたい。考えを変えるには、何かきっかけが欲しかった。
 彼女との出会いが少し自分の中で変われるきっかけになったことは確かだった。
 後にそれが痛みを伴う感情がついてくることはこのとき知るはずもなかった。