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旧・鮎の塩焼キングのブログ

80年代を「あの頃」として懐かしむブログでしたが、子を亡くした悲しみから立ち直ろうとするおじさんのブログに変わりました。

D&D冒険小説 ハテナの交竜奇譚 第2話07節 ダンジョン・アタック後編〜囀りのガヴと竜の秘宝〜

2025-04-14 16:06:00 | 小説

亡き次男に捧げる冒険小説です。


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〇七

 息が上がるほどの勢いで、「始まりの石畳」まで戻ってきた義兄弟の三人。肩で激しく息をして、石畳の突端を見下ろしていた。石畳の始まりはこれ見よがしに段差がついていた。拳一個よりも大きい段差だった。ツルツルの壁面に対し一段盛り上がった床はよく見るとどこか無骨で、何かを隠せるだけの余地を感じた。ナーレは試しに石畳のへりに手をかけて持ち上げてみた。当然びくともしない。

「やっぱりテー兄の思いつきだったかなぁ。」

たった一枚で何がわかるものかと、テーリはナーレを励ました。テーリは見た目で石畳の変化や違和感が見つけられないかと、目を皿のようにして端から端まで三往復した。途中で足を止め、つま先で石畳一枚一枚の感触の違いを確かめもした。またしても不慣れな洞窟の探索は失敗に終わり、テーリのスキルでは何も見つけることができなかった。

 ハーラの提案で手分けをして端から一枚ずつ石畳を調べることにした。ハーラが左端から、ナーレが右端から石畳を一枚ずつ丁寧に調べ始めた。探索に失敗したテーリは通路の真ん中から二人の作業を見つめていた。ハーラもナーレもテーリが

新たな発見をすることを期待し、テーリに考える猶予を与えていた。ハーラもナーレも14枚ずつ石畳を調べ袖にされた。両端から数えて丁度15枚目に当たる真ん中の石畳をハーラが丁寧に調べたが、やはり何も見つからなかった。テーリの推測は外れたかと意気消沈した空気が遺跡に満ちた。

 気まずい沈黙を破ったのはナーレだった。

「今僕たちが出来るのは『初心に帰れ』が『始まりの石畳』だと信じることだけだ。僕はまだ諦めない。」

ナーレはテーリの推測を疑わない、そう宣言したのだ。テーリは嬉しかった。だからこそナーレの気持ちに報いたいと頭脳をフル回転させるのだった。そして一つの答えに辿り着いた。

「《緑玉竜》は《宝石竜》の序列三位なんだ…三列目を丁寧に調べて欲しい。」

闇雲に探すよりはいいだろうとハーラとナーレは顔を見合い頷いた。義兄弟は3列目を端から調べ始めた。果たして三列目の真ん中、両端から15枚目の石畳に触れた時、ハーラの指先が違和感を感じた。わずかな隙間とグラグラとした座りの悪さがあった。隙間に指を入れて力を込めると、カチリという音と共に石畳が跳ね上がり、1メートル四方の空間が現れた。ハーラの違和感は的中した。

 中には緑玉石で出来た直径8センチメートル程のメダルが15枚収められていた。よく見ると一枚ずつ刻まれている文字が異なっていた。


緑 翠 紫 蒼 水

辰 龍 竜 龙 五 

色 玉 金 超 大


 メダルの表面に彫られた文字が《竜》に関わりのある事だけはすぐにわかった。ただそれ以上のことは見当もつかなかった。サイズ的に明らかに扉の窪みにぴたりと合う大きさだったため、義兄弟の三人は15枚のメダルを携え、一旦扉の前に戻ることにした。《緑玉竜の隠し扉》に気が付けていたら、このメダルをどう扱えば良いかのヒントを得ることができた。しかし隠し扉があるという認識のない三人がそのヒントを手に入れられる機会は永久にこなかった。


【第2話後編〇八に続く】 

毎週 月・水・金曜日 更新


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D&D冒険小説 ハテナの交竜奇譚 第2話06節 ダンジョン・アタック後編〜囀りのガヴと竜の秘宝〜

2025-04-11 13:13:00 | 小説

亡き次男に捧げる冒険小説です。


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〇六

 ガヴは侵入者の行き着く先が巨大な扉であることを誰よりもよく理解していた。この数ヶ月もの間、渓谷中の《ゴブリン》やら《ウォーグ》を投入して、扉の秘密を解き明かそうと躍起になっていたのはガヴ本人だからだ。頭も運も悪く、釣天井の餌食となった《ゴブリン》は少なくなかった。

 寿命の長い《竜》は呑気なことで知られる。他聞に漏れずガヴも「いずれ」誰かが開けてくれるだろうくらいにしか考えていなかった。ただやることもないので、この遺跡に足繁く通い、謎解きゲームに興じていたというのが本当のところであった。家臣のグシャは

「自分ならすぐに解けますのに。」

とよくこぼしていた。それでは楽しみが減ってしまうので、グシャにはこの遺跡の出入りを禁じていた。

 追い詰めた先で侵入者どもをどう痛ぶろうかと残虐な妄想を楽しみながら洞窟を走っていた。ガヴはもう少しで扉というところで侵入者に追いついた。《竜》の優れた耳に、こんな言葉が飛び込んできた。

「そうか!あの場所か!」

ソウカ、アノバショカ。《ヒューマン》の小僧がそう叫ぶ声を聞き、喜んでいる姿を見た。ガヴは「いずれ」がこんなにも早く訪れるとは思っても見なかったので、小躍りをした。可愛い《ゴブリン》どもを殺した不届者ということは、よく見ずともわかった。彼らの身体から発せられる屍臭は《竜》の鋭敏な嗅覚に真実を訴えてくる。可愛い下僕の仇に当たる《ヒューマン》ではあるが、ガヴは有り難さのあまり抱きしめた後、踏みにじってあげたいと本気で思った。

 どこに鍵があるのだろうかと遠巻きに眺めていると、三人の《ヒューマン》は向きを変えて、ものすごい勢いでこちらを目指して駆け出した。驚いたガヴは反射的に向きを変え同じく走り出した。

「今やつらに見つかるのはまずい!」

独りごちたガヴは飛べることも忘れ、ただただ追いつかれないように駆け続けた。


 《囀る黒色竜》のガヴは《竜》の中では極めて幼い固体であった。その判断力や行動に《竜》本来の高邁さはまだ備わっていない。「余」などと身分の高さをひけらかす呼称を使用するのも、その幼さの顕われであった。夢中になって駆け出したガヴの心理は正に幼児のそれであった。追いかけられることが恐怖であり、楽しくもある。逃げることが目的となり、疲れるまで駆けた。気が付けば義兄弟から遠く先まで戻ってしまい、義兄弟の解いた「石畳の始まり」をも超え、光る石が剥き出しの大洞窟まで戻っていた。

 何故こんなに余は走ったのだ、と自分のしたことが判然としなくなり、ガヴはしばし洞窟の天井を見上げていた。

「扉の鍵だ!」

見届けなくてはならない謎かけの答え。それを解明した冒険者たちの行方を追わねば!すっかり我に返ったガヴが再び大洞窟の奥に戻ろうと振り返ろうとしたその時だった。《竜》の闖入者に気付き、義兄弟を救わんと追ってきたチッチ一団と鉢合わせになってしまった。

 ガヴは一目で悟った。この一団はマズイ。余の力では到底敵う相手ではないということに。それだけの破滅的なオーラを纏った一団が睨みつけてきた。ガヴは身体を貫くような激しい敵意に晒されて戦慄した。チッチから視線を外すしかなかった。こんな屈辱は初めてだった。


【第2話後編〇七に続く】 

毎週 月・水・金曜日 更新


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義兄弟がやっとの思いで手に入れた15枚のメダル。刻まれた文字が意味するものとは?



D&D冒険小説 ハテナの交竜奇譚 第2話05節 ダンジョン・アタック後編〜囀りのガヴと竜の秘宝〜

2025-04-09 12:37:00 | 小説

亡き次男に捧げる冒険小説です。


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〇五

 「急に大きな声を出す奴があるか!でも、解けたんだな?」

隣でテーリの呟きに耳をそば立てていたハーラが耳を押さえて嗜めた。顔は半分怒っていたが、半分は期待に輝いていた。

「この荘厳な遺跡の『初心』が表す「始まりの場所』はどこだったかなって考えたら、あそこじゃないかなって!ワンチャン、あり得るんじゃない!」

扉までは一本道だった。鍵を探そうにも探す部屋などなかった。変化や違和感といって心当たりがあるならば…!ハーラとナーレはテーリの言わんとすることが理解できた。

「そうだ!突然、石畳に変わった!」

ナーレが突飛な声を上げた。岩肌が露出していた地面が綺麗に一直線に並んだ石畳に変わった。あそこから雰囲気が一変したのだ。ナーレは石畳が始まった場所の艶やかな壁をさすっていたことを思い出した。

「テー兄、あそこがこの遺跡の始まりだ。わざとらしい程明らかなスタート地点だった!扉の問いかける『初心』はあそこだね。」

まるでナーレは自分が謎かけを解いたかのようなしたり顔で二人の義兄を交互に見た。

 正直ハーラは石畳が始まった場所に取り立てて違和感を覚えなかった。そんなものかと全く意識すらしていなかった。しかしテーリの考察を聞いた途端、あの場所こそが謎かけの示す場所だとしか思えなくなった。それにこのままここに突っ立っていても埒があかない。ハーラは行動を起こすぞと義弟たちに声をかけると、先頭に立って走り始めた。


 「わざとらしい石畳の造り。目立つように設置された扉の上に仕掛けられた釣天井。僕らは《緑玉竜》に試されている。そう感じるんだ!」

テーリはこの遺跡を作った《緑玉竜》に思いを馳せていた。どんな《竜》がこんな遺跡を作ったのだろう。なかなか面白い趣向が凝らされている。とうの昔に死んでしまったのだろうが、《緑玉の大超竜》と一度話をしてみたいものだ。テーリはハーラの横に並んで走った。先に待つ石畳の始まりの地点を目指して。なんだか上手くいきそうだと、義兄弟の三人には根拠のない自信が溢れていた。遺跡を照らすエメラルドの輝く明滅が早まった。誰にも開けることのできなかった扉が開くかもしれないと、遺跡全体が期待に胸を高鳴らせたのかもしれない。

 興奮状態にあった三人は、自分たちの姿を見て慌てて踵を返した一匹の《黒色竜》の存在に気づくことができなかった。


【第2話後編〇六に続く】 

毎週 月・水・金曜日 更新


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義兄弟を利用しようと黒竜王が暗躍するか!?



D&D冒険小説 ハテナの交竜奇譚 第2話04節 ダンジョン・アタック後編〜囀りのガヴと竜の秘宝〜

2025-04-07 12:13:00 | 小説

亡き次男に捧げる冒険小説です。


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〇四

 テーリたちは手始めに謎かけを素直に読み取ることにした。「初心に帰れ」とは最初に抱いた希望や目的を思い返せということだ。「汝らの傲慢を省みよ」とは僕たち義兄弟の偉そうなところを見直せということだ。二つの文は似通った意味に感じられた。そして全く意味のわからない文章であると改めて結論付けた。


 義兄弟は次に謎かけとしてこの二つの文を読み解くことにした。「初心に帰れ」。この扉にこの文言が刻まれていることに意味がありそうだ。テーリがそう指摘する。言葉の意味を精神や気持ちの在り方でなく、物質そのものとして曲解して解いてみるのはどうかなと、ナーレが妙な発想を始めた。

「帰れるなら帰ろうよ。どこに帰る?『初心』って呼ばれる町なり森ってあったっけ?」

答えが帰ってこないことなど承知の上でおちゃらけてナーレが問うた。テーリはナーレの着眼点に面白みを感じた。「初心」が場所を指すなら、そこまで「帰れば」鍵が見つかる。なるほど謎かけの答えらしい考え方だ。テーリは無言のままナーレの頭を撫でた。テーリの意図がわからないナーレは馬鹿にされたのかと勘違いして、テーリの手を振り払った。謎解きに没頭するテーリは意に介さず、ぶつぶつ呟き続けた。

「『初心』とはどこのことだ?初めの心…初めの場所…始まりの場所…。」

ふっと違和感を感じた場所が脳裏に浮かんだ。

「そうか!あの場所か!」

謎かけが解けたという確信は、テーリの呟きを叫びに変えた。


【第2話後編〇五に続く】 

毎週 月・水・金曜日 更新


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謎かけの秘密に気付いたテーリ!義兄弟は扉を開くヒントを探しに…。




D&D冒険小説 ハテナの交竜奇譚 第2話03節 ダンジョン・アタック後編〜囀りのガヴと竜の秘宝〜

2025-04-04 12:52:00 | 小説

亡き次男に捧げる冒険小説です。


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〇三

 間近で見る扉は威圧的であった。《大超竜》が楽々と通れる20メートルはあろうかという巨大な扉。それは人力で開けられるような代物ではなかった。宝石とも金属とも判別のつかない素材でできた扉は、扉の向こう側が透けて見えるのではないかと錯覚させるほどの透明度をもっている緑に輝く素材でできていた。扉には鍵穴がなく、三つの拳大の円形の窪みがあるだけだった。天井にはこれ見よがしに本物のエメラルドでできた針が隙間なく並べられて、打ち付けられていた。間違った方法で扉を開けようとすると落ちてくるのだろう。罠をひけらかすことで、心理的なプレッシャーを与えようという「設置者」の思惑が見え隠れする。

「気に入らないね。」

天井を見上げてテーリが悪態をついた。挑戦的で人をくった仕掛けだ。何としてでも攻略したくなった。

 三つの円形の窪みの下には一枚の銘板が打ち付けられていた。銘板は扉とは素材が明確に違い、正真正銘本物の緑玉石、エメラルドであった。銘板には《竜語》でこう書かれていた。


 初心に帰れ。汝らの傲慢を省みよ。


 テーリが朗々と読み上げた。《竜》は謎かけとそれに挑む知恵者を好む。この扉も洞窟も《竜》のものであることが、これで確定したとテーリは険しい顔になった。ハーラもこの扉の向こうに待つ者を想像してごくりと唾を飲み込んだ。ナーレは《竜語》が読めるものの久しぶりに見るその文字に、読めないのではとドギマギしていた。心の中でたどたどしく読んでいると、テーリが読み上げてくれた。自分の読み方は合っていたと、ナーレはホッとした。

 「扉を開ける鍵は三つの円形の物体だ。それを探そう。」

テーリの言葉にハーラとナーレは頷いた。

「多分その鍵の在処を示すのが、この謎かけなんだろうな。」

ハーラは自分に言い聞かせるように呟いた。テーリはハーラに顔を向ける。

「ハー兄の言う通りだろう。『初心に帰れ』と『汝らの傲慢を省みよ』。この二つの文が扉を攻略する唯一のヒントだと思う。懇切丁寧に扉の開け方を説明してくれる《緑玉竜》様はお優しい方だよ。」

短すぎる謎かけからは何も伝わってこなかった。テーリはまだ見ぬ棲家の主人の底意地の悪さに舌を出した。


【第2話後編〇四に続く】 

毎週 月水金曜日 更新


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ナーレの何気ない一言が、テーリの閃きを呼ぶ!第一関門は突破できるのか?