亡き次男に捧げる冒険小説です。
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〇七
息が上がるほどの勢いで、「始まりの石畳」まで戻ってきた義兄弟の三人。肩で激しく息をして、石畳の突端を見下ろしていた。石畳の始まりはこれ見よがしに段差がついていた。拳一個よりも大きい段差だった。ツルツルの壁面に対し一段盛り上がった床はよく見るとどこか無骨で、何かを隠せるだけの余地を感じた。ナーレは試しに石畳のへりに手をかけて持ち上げてみた。当然びくともしない。
「やっぱりテー兄の思いつきだったかなぁ。」
たった一枚で何がわかるものかと、テーリはナーレを励ました。テーリは見た目で石畳の変化や違和感が見つけられないかと、目を皿のようにして端から端まで三往復した。途中で足を止め、つま先で石畳一枚一枚の感触の違いを確かめもした。またしても不慣れな洞窟の探索は失敗に終わり、テーリのスキルでは何も見つけることができなかった。
ハーラの提案で手分けをして端から一枚ずつ石畳を調べることにした。ハーラが左端から、ナーレが右端から石畳を一枚ずつ丁寧に調べ始めた。探索に失敗したテーリは通路の真ん中から二人の作業を見つめていた。ハーラもナーレもテーリが
新たな発見をすることを期待し、テーリに考える猶予を与えていた。ハーラもナーレも14枚ずつ石畳を調べ袖にされた。両端から数えて丁度15枚目に当たる真ん中の石畳をハーラが丁寧に調べたが、やはり何も見つからなかった。テーリの推測は外れたかと意気消沈した空気が遺跡に満ちた。
気まずい沈黙を破ったのはナーレだった。
「今僕たちが出来るのは『初心に帰れ』が『始まりの石畳』だと信じることだけだ。僕はまだ諦めない。」
ナーレはテーリの推測を疑わない、そう宣言したのだ。テーリは嬉しかった。だからこそナーレの気持ちに報いたいと頭脳をフル回転させるのだった。そして一つの答えに辿り着いた。
「《緑玉竜》は《宝石竜》の序列三位なんだ…三列目を丁寧に調べて欲しい。」
闇雲に探すよりはいいだろうとハーラとナーレは顔を見合い頷いた。義兄弟は3列目を端から調べ始めた。果たして三列目の真ん中、両端から15枚目の石畳に触れた時、ハーラの指先が違和感を感じた。わずかな隙間とグラグラとした座りの悪さがあった。隙間に指を入れて力を込めると、カチリという音と共に石畳が跳ね上がり、1メートル四方の空間が現れた。ハーラの違和感は的中した。
中には緑玉石で出来た直径8センチメートル程のメダルが15枚収められていた。よく見ると一枚ずつ刻まれている文字が異なっていた。
緑 翠 紫 蒼 水
辰 龍 竜 龙 五
色 玉 金 超 大
メダルの表面に彫られた文字が《竜》に関わりのある事だけはすぐにわかった。ただそれ以上のことは見当もつかなかった。サイズ的に明らかに扉の窪みにぴたりと合う大きさだったため、義兄弟の三人は15枚のメダルを携え、一旦扉の前に戻ることにした。《緑玉竜の隠し扉》に気が付けていたら、このメダルをどう扱えば良いかのヒントを得ることができた。しかし隠し扉があるという認識のない三人がそのヒントを手に入れられる機会は永久にこなかった。
【第2話後編〇八に続く】
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