旧・鮎の塩焼キングのブログ

80年代を「あの頃」として懐かしむブログでしたが、子を亡くした悲しみから立ち直ろうとするおじさんのブログに変わりました。

冒険小説 ハテナの交竜奇譚 第2話その15 『ダンジョン・アタック前編』 〜《ウォーグ》の洞穴〜

2025-02-21 17:02:00 | 小説

亡き次男に捧げる冒険小説です。


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一五

 愛馬・烈弩馬龍は一定の速度を守り、東に進んだ。騎乗するハーラにはなんの当てもなかったが、街道を進めるだけ進もうと思っていた。新都には何度も訪れたことがあったので、《聖騎士》の力があれば如何様にも食べていけると、その程度の考えであった。

 どんなに頑張っても50キロメートルも進めば馬は限界を迎える。初日の晩はまだ西マータの領内だった。追手は来ないだろうとたかを括っていた。それだけの余力が我が家にはない、そう踏んだのである。領地の防御を固めるくらいの戦力はまだ有していた。逆に言えば、それ以上のことには手を割けないということだ。優秀な家臣たちだ。《年降る緑色竜》の反撃に備えるため最良を尽くしていることだろう。ハーラの分析は正しく、その晩は静かなものだった。深夜に見た悪夢を除けば。

 迫り来る《緑色竜》は女子供を一飲みにして行く。怯えて腰を抜かしたハーラの前で、《緑色竜》は嫌味たらしく腰を下ろす。ギラギラと光る縦長の瞳孔が一際恐ろしかった。顔を引き攣らせるハーラに鼻を近付けると、酸っぱい匂いの鼻息をかけてきた。《緑色竜》特有の猛毒ブレスがわずかに漏れ出て、ハーラは激しく咳き込む。自分の咳の苦しみでハーラは目を覚ました。ハーラは無力さに腹が立ち、地面を強かに打ち据えると、また眠りについた。

 次の日の逃避行で南マータに入れた。新都まではまだまだ掛かるが、故郷を遠く離れた安堵感が清々しかった。自分に頼るだけ頼って何の力も貸してくれない母と弟たちのことは忘れるように努めた。その晩も悪夢を見た。長い《竜》の舌先がハーラの顔面を舐め回す。恐怖に竦(すく)むハーラに逃れる術はなかった。《竜》の唾液にも毒の成分が含まれるのか、舐められた先から皮膚が赤く爛れて行く。痒い!痛い!ハーラは苦痛に顔を歪めた。《竜》には抗えないと諦めていると、ズシンズシンと遠くから響く音が聞こえた。顔を上げると、朝日が見えた。いつの間にかハーラは目を覚ましていたのだ。

 2日目の夢も悪夢ではあったが、目が覚める瞬間は恐怖が消えていた。あの夢は何を暗示しているのだろう、そんな答えの出ない考えに囚われながら3日目も馬を飛ばした。烈弩馬龍の健脚のおかげで東マータに入ることができた。しかし3日もの逃避行はハーラの心身を削るものであった。愛馬の疲れもあり、ハーラは早めの休みを取った。故郷から遠く離れたため、初めて宿屋で眠ることにした。2日ぶりのベッドは心地よく、天使に抱かれるような感覚のままハーラは深い眠りに落ちていった。

 ズシンズシンと近付いた巨大な《竜》に押し除けられて《年降る緑色竜》が逃げ出した。偉そうに踏ん反り返っていた《年降る竜》がすごすごと逃げ去る姿は痛快であった。しかし目の前にはさらに凶悪な《竜》がいる。《年降る竜》を遥かに凌駕する大きさの《竜》はやはり邪悪な瞳を歪めてハーラを見下ろした。

「こんなものか?」

挑発的な声をかけると巨大な《竜》は後ろ足で立ち上がった。まるで小山のようにそびえ立つ威容にハーラは声が出なかった。暫く《竜》はハーラを観察していたが、

「戯れだ。」

と言い放つと、ぽいと光の玉を投げてよこした。それを受け取ったところでハーラは目を覚ました。ハーラは無意識にスイマール家の印籠を握っていた。握った手に《織》が集まり、《魔術師》の力が発現していた。ハーラは《生得魔術師》に覚醒したのだった。

 学んだこともない呪文が頭の奥底から湧き出てくる。その気持ち悪さが受け入れ難く、魔法の使用を躊躇っていた。そのため昨晩の戦いでハーラが《生得魔術師》の力を行使することはなかったのだ。だが弟分たちの見せた《竜の奇跡》の力は自分も欲するところであり、剣に猛毒を宿すという《竜の奇跡》は甘んじて受け入れることができた。《竜の奇跡》も《生得魔術師》の力の一部かもしれないと思うと、自分のこの新しい《クラス》(生き方・在り方とも訳せる)を受け入れようとハーラの考えは変わった。

 ハーラは申し訳なさそうに頭を掻いた。

「《聖騎士》が魔法にかぶれるなどはあってはならないと自分で勝手に決めていた。でも今はそんなことを言っている場合じゃない。使える力は何でも使って、テーリの願いを叶えてやりたい。どうだテーリ。僕の《生得魔術師》の力は役に立つか?」

 ハーラが話している間、終始黙って頷くばかりのテーリであったが、二人に目を合わせると不適な笑顔を浮かべた。

「勝算の目処が立ったよ!」


【第2話 一六に続く】

次回更新 令和7年2月23日日曜日


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テーリ単身の迷宮探索。ハテナ義兄弟初めてのダンジョン・アタックの始まりだ!


冒険者3levelになったナーレ・ボルバケト

クラス:僧兵2level/吟遊詩人1level

・気を練った戦いができるようになった。

・打撃の嵐や風のステップに習熟した。

・基本的な移動速度が増した。

・使用した気を回復する秘術を覚えた。


冒険小説 ハテナの交竜奇譚 第2話その14 『ダンジョン・アタック前編』 〜《ウォーグ》の洞穴〜

2025-02-19 15:05:00 | 小説

亡き次男に捧げる冒険小説ですね。


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一四

 眩しい日差しと騒がしい緑。それとは不釣り合いな乾いた血の黒さと屍肉の赤さ。昨日の戦いの場は生と死の入り混じる凄惨な様相を露わにしていた。蝿とシデムシが群がる2体の死骸。義兄弟の三人はその死骸に関心を示すことなく素通りした。魔獣にかける情けなど、この《タツノオトシヨ》に持ち合わせている者はいない。

 滴る血の痕が点々と森の奥に続いていた。《野伏せり》のテーリにとって追跡はそう難しいものではなかった。瀕死の《ウォーグ》は追跡されることを警戒する余裕もなく逃走を図っていた。歩きやすい獣道を使って、真っ直ぐに寝ぐらに戻っていた。渓流が作った急峻な崖の下に幾つもの横穴が掘られていた。そのうちの一つに二筋の血痕が続いていた。

「簡単に見つかったね。」

ナーレは拍子抜けした。橋の横で渓谷に降りるのを躊躇っていたことが嘘のようだった。手負いの獣は恐ろしいが、与えた傷は相当深い。昨日の二匹だけだったら、接敵した瞬間にこの冒険は終わる。

「わかっていると思うが、少し様子を見るよ。敵が何匹残っているのか、正確な情報を集めたい。」

《野伏せり》がいることがこんなにも心強いとは。ハーラはテーリの精悍な横顔を見つめた。出会ってまだ1日も経っていないのに、こんなにも信頼できる相手に出会えるとは、運命とは皮肉なものだ。実家には理解者が誰もいなかった。そんな悲しみや寂しさが脳裏をよぎったが、ハーラは首を振るとすぐに目の前の横穴を注視するのだった。

 森の中にハーラとナーレを残し、テーリが一人で横穴に近付いた。地面に寝そべると鼻先をくっつけ入念に匂いを嗅いだり、凹みの数を数えたりしている。横穴の入り口には一切近付かず、慎重に捜索したテーリは音も立てずに二人の待つ藪に戻ってきた。

「わかる限りで《ウォーグ》は8匹いた。」

「とすると、残る《ウォーグ》は最低でも6匹か。思ったより多いな。」

ハーラが顎に手をやり、悩ましげな顔をした。

「それだけならまだ対応できる。残念ながら敵は他にもいる。」

テーリの言葉にハーラもナーレも顔色を失った。

「やっぱり《竜》だね?」

ナーレは声を震わせた。

「いやいや、そこまで怖いものじゃない。《ゴブリン》だよ。3人くらいが出入りしている。」

《ウォーグ》は《ゴブリン》とつるむことが多い。一見すると《ゴブリン》に使役されているように見えるが、いざとなると平気で見捨てるくらいの薄い主従関係で有名だ。テーリの見立てが正しければ手負いの《ウォーグ》が2匹、傷一つない《ウォーグ》が4匹。そして《ゴブリン》が3人。9対3の正面衝突ならば、義兄弟に勝ち目はないだろう。正面衝突をするならば。

 不意にハーラが打ち明けた。

「ここ最近、身体が熱っていたんだ。そうしたらさ、昨日の戦いの中で気付いたんだけど、《魔術師》に覚醒したようなんだ。」

 この場でいうことかとテーリとナーレは目を丸くした。まさか《生得魔術師》の戦力がいきなり加わることになるとは。詳しく話してくれないかと、テーリはハーラの顔を見据えた。ハーラはそれに応じて、実家からの逃避行を思い返し、話し始めた。


【第2話 一五に続く】

次回更新 令和7年2月21日金曜日


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ハーラが過ごしたわずかな逃避行。その間に見た不思議な夢がハーラの眠れる力を呼び覚ました。


冒険者3levelになったハーラ・スイマール

クラス:聖騎士2level/生得魔術師1level

・グレートソードとヘビー・クロスボウが得意武器となった。

・この武器の追加効果を発揮できるようになった。

・両手武器の扱いが更に習熟し、基本的な攻撃力が増した。

・聖騎士の神聖なる一撃の呪文を覚えた。



冒険小説 ハテナの交竜奇譚 第2話その13 『ダンジョン・アタック前編』 〜《ウォーグ》の洞穴〜

2025-02-17 15:07:00 | 小説

亡き次男に捧げる冒険小説です。


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一三

 三人それぞれの思惑が噛み合わない中、《サンダー渓谷》《ゴール橋》の出口側に到着した。当初は手負いの《ウォーグ》狩りという自分たちの力で充分に完遂できる冒険だった。いつの間にかそれが《竜》との遭遇という分不相応な冒険になる可能性が出てきた。不安げなハーラとテーリ。ナーレも二人の神妙な面持ちに、不安が伝播する。

「怖かったらやめた方がいいよ、ハー兄、テー兄。」

ナーレはお気楽な性格に見えてその実、慎重さをもっていた。そうでなくては《青銅街》を生き抜くことはできなかった。今回のヤマは身の危険を感じる。渓谷に着いたナーレはそう直感していた。

「こんなことならヴァッロとヘロを雇っておけばよかったかな。」

ハーラが弱音を吐いた。冗談めかしていたが本心だろう。ヴァッロたちが醸し出していた冒険者としての風格は《息巻く竜》ならば、十分に渡り合える圧があった。しかしそれはもう後の祭りであった。

「《竜》がこの時間帯に活動している可能性は低い。昨日の《ウォーグ》を排除したら、速やかに渓谷を出ればいける。どうかな?」

テーリの正義感は恐怖を抑えつけた。もし《竜》の出入りするような渓谷ならば、《ウォーグ》も住処を変えようとするかもしれない。そうなれば人型生物が襲われる可能性が格段に上がる。昨日の戦いから学んだテーリたちは、一晩にして力が増していた。今の自分たちなら《ウォーグ》程度なら遅れをとることはない。

「無理はしない。それだけは約束しよう。」

ハーラの言葉に二人は頷くと、昨日の戦場へ降りて行った。

 真夏のまだ気温が上がりきらない午前の日差しは、それでもギラギラと義兄弟の三人を照りつけた。昨日と打って変わった蒸し暑い森林特有の風が義兄弟の三人に重く絡みついた。樹々のざわめきで、渓流の涼しげな音はかき消されていた。

 渓谷に入っていく三人組の姿を認めたチッチたち四人。いかにも手練れの《パーティー》は義兄弟に気取られない絶妙な距離をあけて義兄弟の跡を追った。不幸なことにチッチたちは《竜》の噂を、道中耳にすることがなかった。聞いたところで、さして問題視することもなかったのだが。ただ、《竜》に対しての備えがなかったことは慢心と言わざるを得なかった。


【第2話 一四に続く】

次回更新 令和7年2月19日水曜日


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遂に見つけた魔獣の巣穴。しかしそこには他の魔物の痕跡が!


冒険者3levelになったテーリ・テフルデニス


クラス:野伏せり2level/魔法技師1level

・ロングボウとピストルが得意武器となった。

・この2種類の武器の特殊効果を発揮できるようになった。

・生存術のスキルを獲得した。

・戦闘技術として遠距離攻撃を獲得し、矢弾の命中率が増した。


冒険小説 ハテナの交竜奇譚 第2話その12 『ダンジョン・アタック前編』 〜《ウォーグ》の洞穴〜

2025-02-15 08:25:00 | 小説

亡き次男に捧げる冒険小説です。


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一二

 宿場町から《サンダー渓谷》までは、早足で2時間の距離だった。午前中の早い時間にも関わらず、街道を行き交う人々は多かった。《坩堝》と呼ばれるだけあって、この大陸は多くの人種で溢れていた。

 向かいから大きな荷物を背負った猫型の獣人《タバクシー》が歩いてきた。親子らしく手を繋いで歩いている。行商で街に向かうのだろう。

 冒険者らしい一団ともすれ違った。翼のある《アーラコクラ》や《ドワーフ》、《エルフ》の《パーティー》だった。腕に自信があるのかすれ違いざま、テーリの顔を見てふふんと笑って見せた。悔しくもないが嫌な気分になったので、ナーレになんだあいつら、と愚痴ってみた。

 すれ違う人々よりも、同じ方向に向けて進む人の方が圧倒的に多かった。早足で移動しているため追い抜いていくのだが、ほとんどの者が《新都ネオキオ》に向かっている様子だった。すれ違う人々も追い抜いた人々も漏れなく《ゴール橋》を渡っていく。中には《サンダー渓谷》に降りる者だっているかもしれない。《ウォーグ》の傷が癒えないうちに駆逐しなくては、と義兄弟の気持ちはいっそう逸るのだった。

 前を歩く《ティーフリング》を追い越す瞬間だった。

「渓谷の《竜》の話は聞いたか。運悪く遭遇したら堪らんな。」



赤い肌をした銀髪の男が隣の青い肌の男にそう話しかけていた。《ティーフリング》は悪魔の血を引く人種だが、だからといって邪悪な存在ではない。その長い歴史の中で悪魔の血が混じって生まれた存在に過ぎない。恐れる存在ではなかった。

 《竜》。この世界、《タツノオトシヨ》を産み落とした《辰》(シン)の末裔たち。空を飛び、火や氷を吐き出す最強の生物。知識と財宝に溢れ、高度な呪文を易々と扱う。爪、牙、翼、尾。全身が人型生物にとって脅威となる凶器で武装されている。年を経ることにその力が増していくのも《竜》の特徴だ。生まれたての《囀る竜》から《息巻く竜》を経て《年降る竜》に至る。この年齢に達した《竜》を押し留める人型生物は英雄としてその名を馳せる。《年降る竜》を超える年齢段階を迎える《竜》もいるにはいるが、それは既に伝説の存在とされる。

 その《竜》が《サンダー渓谷》に潜んでいるというのだ。テーリは思わず前を歩く《ティーフリング》に話しかけていた。

「ちょっと失礼。今、《竜》と仰いました?」

話しかけられた赤肌の男は突然のことに驚いていたが、気の良い男で少しの間立ち話ができた。偶然にも耳にできたことは、この先の冒険に役立つ情報ばかりだった。

 一つ、ここ数ヶ月《サンダー渓谷》を出入りする「小型」の《竜》が目撃されるようになった。

 一つ、《竜》は住み着いているわけではなく、頻繁に出入りを繰り返している。

 一つ、深夜から夜明けに行動しているため、人的被害は「まだ」でていない。要約するとこの三つの情報が重要に思えた。

 ハーラはいい話が聞けたよと銀貨一枚を赤肌の《ティーフリング》へ手渡した。男はなんだか悪いね、と上機嫌で手を挙げた。ハーラたちも手を挙げ返すと、足早に歩を進めた。

「テー兄の言う通り、《サンダー渓谷》には《竜》のお宝がありそうだ!」

ナーレは興奮していた。ドラゴンスレイヤー、いわゆる《竜殺し》の仲間入りができるかもしれない。自分が英雄として持て囃される姿を夢想して、鼻息を荒くする。

 ナーレを担いだテーリは焦っていた。まさか本当に《竜》がいるとは。渓谷の伝説は遥か昔に《竜》がいたというものだ。その残骸を探索できたらしめたものくらいの考えだったのが、まさか現在進行形で《竜》の巣になっている場所とは思いもよらなかった。テーリは身震いをした。どんなに年若い《竜》であろうと駆け出しの自分達が叶う相手ではないからだ。鎮痛な面持ちでテーリは俯いたが、歩むことはやめなかった。

 ハーラはテーリよりもさらに暗い顔をしていた。尊敬する祖父君と父上を殺した《竜》。遠くから見たことしかないが、圧倒的な存在感と恐怖を思い出し足が竦んだ。前に進むことが怖くなったが義兄弟の長男分としての威厳があった。テーリにも増して俯きながら、速度を緩めることはなかった。


【第2話 一三に続く】

次回更新 令和7年2月17日月曜日


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竜の作りし世界《タツノオトシヨ》。あまりに身近な生き物だけれど、《竜》を目の当たりにする機会は少ない。《竜》の脅威を前に、義兄弟に臆病風が吹きつける。


冒険小説 ハテナの交竜奇譚 第2話その11 『ダンジョン・アタック前編』 〜《ウォーグ》の洞穴〜

2025-02-13 15:55:00 | 小説

亡き次男に捧げる冒険小説です。


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一一

 遥か後方からチッチとマッマの出立の気配を感じたヴァッロは安心したような、そうでないような複雑な心境だった。

「ヘロ、チッチ様とマッマさん、怒ってるかなぁ。」

ヘロは冷淡だった。

「怒ってただろ、既に。お前と話を合わせるために表情はにこやかだったが、目は血走ってたからな。まあ、怒りの半分はマッマさんの余計なお世話に起因していたんだろうが。」

チッチとマッマの茶番を鼻で笑ったヘロは、ヴァッロに聞いた。

「お前はチッチ様のお怒りに気が付かなかったのか?」

「うーんとねー。『いいからさっさと本題を切り出せ!』って命令口調で言われたから、チッチ様にしては珍しくブチギレてるなー、って思った。」

呑気に空の青さを楽しみながらヴァッロは答えた。

「だったら『怒ってるかなぁ』なんて聞くな、この大根。」

ヘロはこいつといると疲れると、凝りもしない金属の肩を揉んだ。ちかれたの?とヴァッロが見下ろしてきたので、もう少しまともな演技をしてくれれば、私が骨を折ることもなかったんだぞと悪態をついてヴァッロを睨んだ。

「オデは野菜じゃないぞ。《コボルド》だ。《竜》のー、末裔のー、コー、ボー、ルー、ドー、様だい!」



ヴァッロの発言の後半は聞くに耐えない、いい加減な即興曲になっていた。ヘロはそのダミ声に辟易とすると、耳を押さえて義兄弟の尾行に専念することにした。

 ヴァッロは気持ち良さげに唄っていたが、チッチたちに追いつかれたことに気がつくと途端に黙りこんでしまった。


【第2話 一二に続く】

次回更新 令和7年2月15日土曜


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人種の「坩堝」。そこで行き交う様々な人々との出会いが、義兄弟の運命を導くこともある。