旧・鮎の塩焼キングのブログ

80年代を「あの頃」として懐かしむブログでしたが、子を亡くした悲しみから立ち直ろうとするおじさんのブログに変わりました。

冒険小説 ハテナの交竜奇譚 第2話その18 『ダンジョン・アタック前編』 〜《ウォーグ》の洞穴〜

2025-02-27 18:07:00 | 小説

亡き次男に捧げる冒険小説です。


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一八

 少し離れた藪の中からチッチの一団がハーラに励まされる義兄弟を見守っていた。昨日までの三人と明らかに違う《織》のたぎりを感じたチッチは、ほぅと低く感嘆の声をあげた。その目は優しく、我が子を慈しむようであった。チッチは生涯独身を貫く覚悟で旅に出た。そのため妻もいなければ子もいない。そのため、自分の眼差しが子を慈しむそれであることに気付けなかったが、三人の息子を持つマッマはその温かみにすぐに気付き一人微笑んだ。

 チッチは周囲に敵がいないか魔法で探知した。特に敵意を感じ取れなかったことから、当面の安全が確保できたとホッと胸を撫で下ろした。余計な手出しをしないまでも、あの三人に万が一が起こったら飛び出すことに迷いはなかった。駆け出しの冒険者の成長は早い。昨晩の戦いからどれだけのことを学び成長したのか、チッチは期待半分、不安半分で義兄弟の向こうでポッカリと口を開けている洞穴に目をやるのだった。

 背中に大量の武器を背負った《戦士》ヘロは余計な物音を立てないために、機能の大半をオフにして微動だにしなかった。

 《蛮人》ヴァッロは興奮をコントロールして戦う原始の力を操る闘士だった。脳にかかるリミッターをいつでも切れる状態にして、血走る目で周囲を警戒していた。

 《ケンタウロス》のマッマはそのままでは目立ちすぎるため、《ディスガイズ・セルフ》を唱えたまま、静かにしゃがみ込んでいた。もしも義兄弟が倒れた時は《聖職者》の力が必要となる。そうならないことを祈って、三人の若い冒険者の動きに注視した。


 時間がどれほど過ぎたのだろう。手練れた冒険者にとって待つことは苦ではなかった。夕刻に差し掛かる頃、獣道をかき分けて《ゴブリン》が四人、洞穴に入って行った。義兄弟の《ダンジョン・アタック》が始まる。チッチの一団に緊張が走った。


【第2話 一九に続く】

令和7年3月1日土曜日


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巣穴に戻る魔獣ども。いよいよ決戦の時だ!



冒険小説 ハテナの交竜奇譚 第2話その17 『ダンジョン・アタック前編』 〜《ウォーグ》の洞穴〜

2025-02-25 08:00:00 | 小説

亡き次男に捧げる冒険小説です。


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一七

 テーリは手近にある小石を拾うと何やら《織》を纏わせた。たちまち小石が淡い光を放ち始めた。《魔法技師》の初歩的な業だよ、と自慢することもなくさらにもう一つの石に光を宿した。

「これはナーレの分、それぞれが持ち歩こう。《ライト》の呪文も使えるんだけど、あれは明るすぎる。偵察行動にはこれくらいの光の方がいい。いざとなったら《ウォーグ》に投げつけて、逃げ帰る時間稼ぎにも使えるしね!」

ナーレは心強いお守りを受け取るとテーリの前に身体を滑り込ませ、洞穴に入って行った。ハーラはなるべく物音を立てないように、辺りをキョロキョロと見回していた。蒸せ返るような森の湿気が充満する以外、動くものの気配は何も感じなかった。

 テーリに見えた勝機の一つが、《ウォーグ》と《ゴブリン》の組み合わせであった。《ウォーグ》は十分に賢いので言語を解することができる。しかし発話は苦手で《ゴブリン》とのコミュニケーションも限定的となる。そうなるとお互いが引っ掛かるかもしれない複雑な罠を仕掛けることもない、テーリはそう断じていた。《翠玉光の森》でも同じような組み合わせの魔獣の棲家を何度か目撃したことがあったが、これといった罠にお目にかかったことはなかった。住人に遭遇さえしなければ、難なくこなせる偵察だった。

 テーリとナーレは1時間もせずに帰還を果たした。真っ直ぐに20メートルほど掘られた横穴はY字型に枝分かれして、《ウォーグ》の寝床と《ゴブリン》の寝床があるだけのシンプルな造りであった。その奥にも広間が掘られていた可能性もあったが、数匹の《ウォーグ》の寝息が聞こえたため、深入りはしなかった。《ゴブリン》の姿や気配も感じられず、出かけていることが分かった。

 義兄弟の三人は息を潜め、《ゴブリン》の帰宅を待つこととした。待っている間、ハーラはテーリとナーレの活躍を労い、この冒険の成功は二人にかかっていると期待を込めた声援を何度も何度も送った。ハーラの話を聞いているうちに、話している本人も含めて勇気と自信が体中に満ちて行くのがわかった。ハーラのもつリーダーシップは《パーティー》を鼓舞するのに大いに役立った。


 この時、テーリは大きなミスを犯していた。横穴の前の捜索範囲をもうあと10メートル広げれば気付けたであろう、巨大な足跡があったのだ。その巨大な足跡は鋭い鉤爪をもつ《竜》のものだった。


【第2話 一八に続く】

次回更新 令和7年2月27日木曜日


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魔獣の巣穴に挑戦するハテナ義兄弟を見守る温かい目。ケンタウロスのマッマは何を思う?


冒険小説 ハテナの交竜奇譚 第2話その16 『ダンジョン・アタック前編』 〜《ウォーグ》の洞穴〜

2025-02-23 08:05:00 | 小説
亡き次男に捧げる冒険小説です。


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一六

 テーリは義兄弟の戦力を詳細に把握した。ハーラの《聖騎士》と《生得魔術師》の能力、そして使えるようになった呪文。テーリの《野伏せり》と《魔法技師》の能力。ナーレの《僧兵》と《吟遊詩人》の能力。それぞれが《戦闘クラス》と《魔術クラス》を有する《マルチクラス》の冒険者であった。これはあらゆる局面に対応できる汎用力のある《パーティー》といえる反面、専門性の低い器用貧乏な集団ともいえる。しかし自分たちのできることがわかっていれば、それを十全に発揮できる戦況を整えれば良い話だ。特に今回のような狭い洞穴に隠れている魔獣や《ゴブリン》は範囲攻撃の呪文をもつ義兄弟にとっては格好の餌食といえた。

 洞穴の内部構造さえわかれば、あとは適切に魔法の罠を張り巡らせるだけである。魔獣を一網打尽とするための命懸けの情報収集が始まった。

 金属の擦れる音がうるさいプレートメールを着込むハーラには、藪の中から周囲を警戒する見張り役になってもらった。身軽なナーレを万が一の護衛として連れ立って、テーリの探索能力を頼りに洞穴への初めての「ダンジョン・アタック」が始まった。


【第2話 一七に続く

次回更新 令和7年2月25日火曜日


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洞窟に潜入するテーリとナーレ。魔獣の巣穴を丸裸にせよ!


冒険小説 ハテナの交竜奇譚 第2話その15 『ダンジョン・アタック前編』 〜《ウォーグ》の洞穴〜

2025-02-21 17:02:00 | 小説

亡き次男に捧げる冒険小説です。


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一五

 愛馬・烈弩馬龍は一定の速度を守り、東に進んだ。騎乗するハーラにはなんの当てもなかったが、街道を進めるだけ進もうと思っていた。新都には何度も訪れたことがあったので、《聖騎士》の力があれば如何様にも食べていけると、その程度の考えであった。

 どんなに頑張っても50キロメートルも進めば馬は限界を迎える。初日の晩はまだ西マータの領内だった。追手は来ないだろうとたかを括っていた。それだけの余力が我が家にはない、そう踏んだのである。領地の防御を固めるくらいの戦力はまだ有していた。逆に言えば、それ以上のことには手を割けないということだ。優秀な家臣たちだ。《年降る緑色竜》の反撃に備えるため最良を尽くしていることだろう。ハーラの分析は正しく、その晩は静かなものだった。深夜に見た悪夢を除けば。

 迫り来る《緑色竜》は女子供を一飲みにして行く。怯えて腰を抜かしたハーラの前で、《緑色竜》は嫌味たらしく腰を下ろす。ギラギラと光る縦長の瞳孔が一際恐ろしかった。顔を引き攣らせるハーラに鼻を近付けると、酸っぱい匂いの鼻息をかけてきた。《緑色竜》特有の猛毒ブレスがわずかに漏れ出て、ハーラは激しく咳き込む。自分の咳の苦しみでハーラは目を覚ました。ハーラは無力さに腹が立ち、地面を強かに打ち据えると、また眠りについた。

 次の日の逃避行で南マータに入れた。新都まではまだまだ掛かるが、故郷を遠く離れた安堵感が清々しかった。自分に頼るだけ頼って何の力も貸してくれない母と弟たちのことは忘れるように努めた。その晩も悪夢を見た。長い《竜》の舌先がハーラの顔面を舐め回す。恐怖に竦(すく)むハーラに逃れる術はなかった。《竜》の唾液にも毒の成分が含まれるのか、舐められた先から皮膚が赤く爛れて行く。痒い!痛い!ハーラは苦痛に顔を歪めた。《竜》には抗えないと諦めていると、ズシンズシンと遠くから響く音が聞こえた。顔を上げると、朝日が見えた。いつの間にかハーラは目を覚ましていたのだ。

 2日目の夢も悪夢ではあったが、目が覚める瞬間は恐怖が消えていた。あの夢は何を暗示しているのだろう、そんな答えの出ない考えに囚われながら3日目も馬を飛ばした。烈弩馬龍の健脚のおかげで東マータに入ることができた。しかし3日もの逃避行はハーラの心身を削るものであった。愛馬の疲れもあり、ハーラは早めの休みを取った。故郷から遠く離れたため、初めて宿屋で眠ることにした。2日ぶりのベッドは心地よく、天使に抱かれるような感覚のままハーラは深い眠りに落ちていった。

 ズシンズシンと近付いた巨大な《竜》に押し除けられて《年降る緑色竜》が逃げ出した。偉そうに踏ん反り返っていた《年降る竜》がすごすごと逃げ去る姿は痛快であった。しかし目の前にはさらに凶悪な《竜》がいる。《年降る竜》を遥かに凌駕する大きさの《竜》はやはり邪悪な瞳を歪めてハーラを見下ろした。

「こんなものか?」

挑発的な声をかけると巨大な《竜》は後ろ足で立ち上がった。まるで小山のようにそびえ立つ威容にハーラは声が出なかった。暫く《竜》はハーラを観察していたが、

「戯れだ。」

と言い放つと、ぽいと光の玉を投げてよこした。それを受け取ったところでハーラは目を覚ました。ハーラは無意識にスイマール家の印籠を握っていた。握った手に《織》が集まり、《魔術師》の力が発現していた。ハーラは《生得魔術師》に覚醒したのだった。

 学んだこともない呪文が頭の奥底から湧き出てくる。その気持ち悪さが受け入れ難く、魔法の使用を躊躇っていた。そのため昨晩の戦いでハーラが《生得魔術師》の力を行使することはなかったのだ。だが弟分たちの見せた《竜の奇跡》の力は自分も欲するところであり、剣に猛毒を宿すという《竜の奇跡》は甘んじて受け入れることができた。《竜の奇跡》も《生得魔術師》の力の一部かもしれないと思うと、自分のこの新しい《クラス》(生き方・在り方とも訳せる)を受け入れようとハーラの考えは変わった。

 ハーラは申し訳なさそうに頭を掻いた。

「《聖騎士》が魔法にかぶれるなどはあってはならないと自分で勝手に決めていた。でも今はそんなことを言っている場合じゃない。使える力は何でも使って、テーリの願いを叶えてやりたい。どうだテーリ。僕の《生得魔術師》の力は役に立つか?」

 ハーラが話している間、終始黙って頷くばかりのテーリであったが、二人に目を合わせると不適な笑顔を浮かべた。

「勝算の目処が立ったよ!」


【第2話 一六に続く】

次回更新 令和7年2月23日日曜日


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テーリ単身の迷宮探索。ハテナ義兄弟初めてのダンジョン・アタックの始まりだ!


冒険者3levelになったナーレ・ボルバケト

クラス:僧兵2level/吟遊詩人1level

・気を練った戦いができるようになった。

・打撃の嵐や風のステップに習熟した。

・基本的な移動速度が増した。

・使用した気を回復する秘術を覚えた。


冒険小説 ハテナの交竜奇譚 第2話その14 『ダンジョン・アタック前編』 〜《ウォーグ》の洞穴〜

2025-02-19 15:05:00 | 小説

亡き次男に捧げる冒険小説ですね。


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一四

 眩しい日差しと騒がしい緑。それとは不釣り合いな乾いた血の黒さと屍肉の赤さ。昨日の戦いの場は生と死の入り混じる凄惨な様相を露わにしていた。蝿とシデムシが群がる2体の死骸。義兄弟の三人はその死骸に関心を示すことなく素通りした。魔獣にかける情けなど、この《タツノオトシヨ》に持ち合わせている者はいない。

 滴る血の痕が点々と森の奥に続いていた。《野伏せり》のテーリにとって追跡はそう難しいものではなかった。瀕死の《ウォーグ》は追跡されることを警戒する余裕もなく逃走を図っていた。歩きやすい獣道を使って、真っ直ぐに寝ぐらに戻っていた。渓流が作った急峻な崖の下に幾つもの横穴が掘られていた。そのうちの一つに二筋の血痕が続いていた。

「簡単に見つかったね。」

ナーレは拍子抜けした。橋の横で渓谷に降りるのを躊躇っていたことが嘘のようだった。手負いの獣は恐ろしいが、与えた傷は相当深い。昨日の二匹だけだったら、接敵した瞬間にこの冒険は終わる。

「わかっていると思うが、少し様子を見るよ。敵が何匹残っているのか、正確な情報を集めたい。」

《野伏せり》がいることがこんなにも心強いとは。ハーラはテーリの精悍な横顔を見つめた。出会ってまだ1日も経っていないのに、こんなにも信頼できる相手に出会えるとは、運命とは皮肉なものだ。実家には理解者が誰もいなかった。そんな悲しみや寂しさが脳裏をよぎったが、ハーラは首を振るとすぐに目の前の横穴を注視するのだった。

 森の中にハーラとナーレを残し、テーリが一人で横穴に近付いた。地面に寝そべると鼻先をくっつけ入念に匂いを嗅いだり、凹みの数を数えたりしている。横穴の入り口には一切近付かず、慎重に捜索したテーリは音も立てずに二人の待つ藪に戻ってきた。

「わかる限りで《ウォーグ》は8匹いた。」

「とすると、残る《ウォーグ》は最低でも6匹か。思ったより多いな。」

ハーラが顎に手をやり、悩ましげな顔をした。

「それだけならまだ対応できる。残念ながら敵は他にもいる。」

テーリの言葉にハーラもナーレも顔色を失った。

「やっぱり《竜》だね?」

ナーレは声を震わせた。

「いやいや、そこまで怖いものじゃない。《ゴブリン》だよ。3人くらいが出入りしている。」

《ウォーグ》は《ゴブリン》とつるむことが多い。一見すると《ゴブリン》に使役されているように見えるが、いざとなると平気で見捨てるくらいの薄い主従関係で有名だ。テーリの見立てが正しければ手負いの《ウォーグ》が2匹、傷一つない《ウォーグ》が4匹。そして《ゴブリン》が3人。9対3の正面衝突ならば、義兄弟に勝ち目はないだろう。正面衝突をするならば。

 不意にハーラが打ち明けた。

「ここ最近、身体が熱っていたんだ。そうしたらさ、昨日の戦いの中で気付いたんだけど、《魔術師》に覚醒したようなんだ。」

 この場でいうことかとテーリとナーレは目を丸くした。まさか《生得魔術師》の戦力がいきなり加わることになるとは。詳しく話してくれないかと、テーリはハーラの顔を見据えた。ハーラはそれに応じて、実家からの逃避行を思い返し、話し始めた。


【第2話 一五に続く】

次回更新 令和7年2月21日金曜日


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ハーラが過ごしたわずかな逃避行。その間に見た不思議な夢がハーラの眠れる力を呼び覚ました。


冒険者3levelになったハーラ・スイマール

クラス:聖騎士2level/生得魔術師1level

・グレートソードとヘビー・クロスボウが得意武器となった。

・この武器の追加効果を発揮できるようになった。

・両手武器の扱いが更に習熟し、基本的な攻撃力が増した。

・聖騎士の神聖なる一撃の呪文を覚えた。