ポエブクロウ

自由詩_Azukizawa

コソン

2025-02-13 03:45:46 | 

            5

 すぐに両親が駆けつけてきた。
「大丈夫、守」母親が守の手をとり言った。
「大丈夫です、いま安定剤で落ち着いています……」医者が言った。
「そうよかった」父親が言った、「守何があったんだ。学校ではお前が疑われている。お
前が上田里志という6年生を脅し、5万円巻き上げた事になっている、中学生にたのんで
。そんなことはないよな」
「……そ、それは、逆だよ」守は舌がもつれながら話した、「ちが……あいつが全部で5
万円僕にしはらえって。そのうち1万円は、前の日に僕を殴ったぶんだって言ってた。だ
から残りの4万と足して5万だ……そんで、すれ違ったとき仲間に足を引っ掛けられ僕こ
ろんだんだ……」
「それを誰か見ていなかったか」
「わからない……だれか……」
「おとうさん、それぐらいにしといてください」看護婦が言った、「脈が不安定になって
います」
「お、おじさんが……橋の下のオジサンが……」
 それだけ言うと守は眠ってしまった。
「看護婦さん、大丈夫ですか」母親が言った。
「睡眠薬をすこし処方してありますので、効いてきたのでしょう」
「よかった、ただ眠っただけね、意識を失ったのかと思った」
「私が付き添っています、あなた帰って。で、あした担任の先生に言っといてくんない。
重松先生は生徒思いのいい先生よ」
『何がいい先生だ』父親はむっとした、「わかった、橋の下のオジサンの事も言っておく


            6

 次の朝、父親は自分で調理し、食べた。会社には、有給で休む事にし、その旨電話した
。朝学校へ向かって歩き始めたが、川を渡るとき、ふと息子の言葉を思い出し、橋の下を
覗いてみた。焼け焦げたにおいがし、3、4人の刑事らしい人が忙しそうに動きまわって
いた。
「刑事さん、この人です」中学生らしい子供が守の父親を指差して叫んだ。刑事たちは、
父親を取り囲み、中の一人が言った、
「ゆうべの9時ごろ何処にいました?」
「……びょ、病院です……」
「それを証明してくれる人はいますか?」
「あ、ちょっとまって」守の父親は病院の時計を思い出した、「病院を出た時刻は8時5
0分ごろでした」
「じゃ、それから9時半ごろまでのアリバイを証明できますか」
「いや、そのまま家に帰り、ビールを飲みながらテレビを見ていたら眠ってしまいました

「なるほどね、アリバイはないわけだ」
「たしか、音楽番組を見ていました。内容も話せます」
「そんなもの証拠になりますか、出演していた歌手がテレビの中からあなたを見ていれば
別ですがね」隣の若い刑事が言った。みんなは薄笑いした。
「任意同行願います」
「まったく、あなたがたの言っている事は意味不明です、私は学校へ行く用事があります
。息子に言われて……」
「ええ、息子に言われてこんな事をしたんですか、ひどい」
 刑事はすぐに携帯で電話した。
「新井さんですか、守君の父親が息子に言われて犯行に及んだみたいです。任意動向を申
し出たんですが、学校に行ってからにしてくれって言ってます」
「だめだめ、そんな危険な人物を学校にやったら何をしでかすかわからない。緊急逮捕だ

「わかりました、8時30分危険人物として逮捕する!」
「ま、待ってください、逮捕礼状もなしに逮捕できないでしょう」
「ポケットの中を調べてみろ!」
 若い刑事が父親をねじ伏せると、道路にうつぶせに押さえ込み、馬乗りになり、ポケッ
トをまさぐった。
「こんなものがありました!」
 それは小さなドライバーだった。
「まったく、あきれたもんだ、これだけでも逮捕できる。どうして、こんなものを持って
いるんだ」
「そ、それは、……」父親は、瞬間、どうして入っているものか緊張のあまり、答えが出
てこなかった。

 それからパトカーで警察署に連行され、きびしい取調べを受けた。

 

 


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