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「守くんは、しばらく入院させたほうがいいかもしれません」診察した医師が言った。
「そんなに悪いんですか」
「それはまだなんともいえません、ただ私の経験からいうと、少しうちどころが悪かった
ようです。脳に損傷がいってるかもしれません。管理されたところで安静にしていないと
、危険かもしれません」
「わかりました」父親は言った、「しばらく入院させます。どれぐらいでしょうか」
「一月ぐらいでしょう」
「そんなに……」
父親はあくる日、学校に行き、担任の先生に会った。
「うちどころが悪かったらしく、一月は入院しなければいけなくなりました」
「そうですか、大変ですね、わかりました」
「ところで、守が上級生、たぶん6年生ぐらいだと思いますが、暴力を振るったそうなの
で、大変申し訳ありませんでした。あとでその上級生にこっぴどく殴られたようですが、
ご存知ありませんか」
「いや、私は何も聞いておりません」
「気の弱い子です、何かなければいきなり自分よりはるかに強い相手を殴るというような
ことはないと思います。調べてみてくれませんか。その時は軽い怪我で済んだんですが、
こんどのは重すぎます。仕返しをされたのでは……いや、これは私の憶測にすぎません」
「とにかく、調べてみましょう。ちょっと不自然ですね」
4 逆転
それから一週間たち守の担任の先生が守の家に訪ねてきた。
「守君の様態はどうですか」
「まだ、昏睡状態です」
「それはいけませんな。ところで大変な事になりました」
「ええ、何が」守の父親が言った。
「守君が二人の知り合いの中学生に頼んで喧嘩した相手の上級生をおどしたそうです」
「ええ、脅したって……ええ?うちの子はずっと病院ですよ」
「そうですよね……入院するまえに中学生に頼んだんじゃないでしょうかね。二人は5万
円脅し取ったそうです。上級生は上田里志といいますが、里志君の父親はかんかんでして
ね、どうしても訴えるって言うのです」
「ええ、なんか、話がどっかでひっくり返していません。詳しいことは、まだ本人が昏睡
状態なのでわかりませんが……」
「そうですよね……守君の性格として、そんな事をするような……里志君に暴力を振るっ
たのも、その前に友達同士の遊びをなんども妨害された鬱憤がたまっていたからじゃない
かって、南和子先生が言われているんですが、確か、こちらとはご親戚の方ですよね……」
父親は少しむっとした。
なんだよ、こいつ、守のほうを疑っている……
その日の夜、守は暗闇の中で目を覚ました。自分がどこにいるのか朦朧とし、わからな
かった。急に恐怖感が襲ってき、動悸が激しくなり、息苦しさのあまりベッドでもがいて
しまった。あわてて看護婦がやってき、あかりをつけ「どうしたの!」と言った。
守はおもわず、看護婦に抱きついてしまった。
「どうなってるの、僕どうしたの?」
「おちついて、ゆっくりと呼吸して。あなたはね、頭を強く打ってこの病院に運ばれてき
たのよ。すぐにご両親に来てもらいますね」
守は、少し落ち着いた。
医師がやってき、安定剤を打つと、動悸も治まった。
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