撮り旅・ヨーロッパ

ハンガリーを拠点にカメラ片手に古い教会を主に写真撮影の旅を楽しみ、そこで拾った生活、文化情報を紹介します。

ブダペストのカフェ文化(1)

2019-08-19 01:32:02 | 海外生活

まず、ご理解を深める為に、ハンガリーの近代史における大雑把なエポックを整理してみます。

 1686年9月  オスマントルコ軍がブダを開放(ハプスブルク帝国により追放される)

 1699年1月  オスマン帝国のハンガリーから完全撤退とハプスブルク帝国支配がスタート。

 1848年3月  ペシュト革命が勃発 (結果的に革命と独立戦争は失敗に終わる)

 1867年6月  オーストリア/ハンガリー二重帝国が発足

 1914~18年  第一次世界大戦の敗北で二重帝国は崩壊

 1933年~   ナチス・ドイツに接近

 1945年~   第二次世界大戦で敗戦し、ソ連による東側共産主義体制に組み込まれる。

 1956年10月 ハンガリー革命の勃発 (結果的にソ連軍の制圧によって頓挫する)

 1989年10月 ハンガリー議会は憲法を改訂し、共産主義体制から脱却(各国の東欧革命を誘発)

 1989年11月 ベルリンの壁が崩壊し、東西冷戦が幕を閉じる。

以上の歴史的背景を踏まえて、ブダペストのカフェ文化は朱記の3つ部分に分けることが出来る

だろう。(異論もあるかも知れないが独断で) 

1.カフェの草分け時代(1844年頃)

  ペシュトにカフェが現れ始めたのは1780年代であったが、1840年代には民衆は旧態依然とした

 封建社会に飽き飽きし、変革の熱が急騰した。 カフェはパリ、ウィーンの西欧社会の香りに酔い、

 情報交流の場であり、多くの作家、詩人、芸術家達の夢の文化生活を語り合う場となった。

 そして行き着くところ、カフェは「ペシュト革命」を蜂起する場となった。 

 その代表的なカフェとしては .......

 1-1. ピルヴァクス・カフェ (Pilvax kávéház)

  1838年に創設された「カフェ・ルネッサンス」が前身で、1942年に引き継ぎ改名した。

 1848~49年のペシュト革命の中心人物であった詩人のペトフィ・シャンドールや多くの知識

 人達がここで定期的に会議を開き、革命と独立戦争の拠点としたカフェであった。 

 失敗に終わった革命後、1911年に建物は壊され、オリジナルのPilvak cafe は姿を消した。

 1921年に今の位置に Pilvak City Hotel として、階下がレストランとして稼働している。

                                   Aug. 17 2019

 

 当初のPilvak cafe 時代の位置(角地でなく、ちょっと入った所)

 <追記>

  この当時はブダとペシュトを合わせてカフェの数は40軒ほどであったが、革命思想的な

  カフェとして他に「Angol Királyné (英国女王)」「Magyar Király (ハンガリー王)

  といったカフェもあったが消滅して手掛かりが掴めない。

<ロケーション>

  

 

 1-2. カフェ・ルスブルム (Ruszwurm confectionery)

  1827年創業でブダペストで最も古いカフェ(ケーキ屋)であろう。 店は狭いがアンテーク

 の家具が当時の世界にいざなってくれる。 スイーツに目のなかったエリザベート皇妃は朝食

 用として下僕を差し向けたという嘘か真かの逸話もある。                             Oct. 27 2018

     

 カフェ前のテラスからマーチャーシュ教会が望め、今は格好の観光客の息つきの場である。

 

 この店の一押しは、中・東欧でお馴染みの “クレメーシュ” だとか。

 

 

2.カフェの全盛時代(1910~1930年)

  1890年代は、ハンガリーの建国1000年ということもあって都市部では建設ラッシュに湧き、

 ブダペストで500軒のカフェが林立したといわれる。 しかし第二次世界大戦でカフェは

 すっかり破壊され、その後の共産主義体制下では地下組織の根源だとして抑圧されカフェは

 消滅して行った。 この全盛期時代の代表的なカフェと云えば .......

 2-1. ツェントラール・カフェ (Centrál kávéház)

  1885年の創業で、ピンク色の建物・オレンジ色のテントを張ったオープンテラスは創業時

 からのトレードマーク。                       Aug. 07 2019

  フェレンツィ広場 (Ferenciek tere) からカーロィ通りを2~3分歩いた角地にある。

 実はこの角地が当時のカフェ繁栄条件の一つであったようだ。

  

 

  1890年創刊の近代的な文芸誌 “A hét (週)”  や 1908年の “Nyugat(西方)” の編集会議

 が開かれたり、店内にも飾られている写真の人物 エンドレ・アティといった詩人や小説家の

 モーリツ・ジグモンド、コストラーニ・デジェー等が集い、作品を書いたり、情報の交換を

 していた。 戦時下や社会主義時代になって多くのカフェは姿を消して行ったが、ここも一時

 戦争中に閉店していたこともあるが2000年に再開した。

 

 ウィーンにも同名のカフェがあるが、あちらは1876年の創業であるので、ブダペストの

 カフェはウィーンのカフェ文化の影響を受けているのである。 それはハンガリーに限った

 ことではなく、ハプスブルク帝国が影響を及ぼした東欧諸国で「ウィーン風」カフェ文化

 が、民主化の嵐(いわゆる東欧革命)を引き起こしたと言っても過言ではない。

 東欧各国には、各々自国風の珈琲(例えばブルガリア風とか、セルビア風...)は存在するが

 ミルクをたっぷり入れた「ウィーン風珈琲」が、カフェ・ヨーロッパなのである。

 実際、「カフェ・エヴァローパ」や「カフェ・ツェントラール」という同名のカフェは

 各都市にはいくつか存在するらしい。 味わい比べてみるのも面白い旅になるかも。

        .... 参考文献;「カフェ・ヨーロッパ」スラヴェンカ・ドラクリッチ著

 

 ツェントラール・カフェの名物は “メランジュ” である。 底に沈む蜂蜜を少しづつ溶かし

 ながら啜るコーヒーが絶妙。

 

2-2. ニューヨーク・カフェ (New York café)

   1894年の創業で2000年には閉店し、スポンサー探しと改装を経て2006年に復活した。

 創業当時の客は、作家や詩人が多く、有名作家のフェレンツィ・モルナールなどは朝から晩

 までたむろして執筆活動をしていたらしい。 又、ツェントラール・カフェに拠点を置いて

 いた文芸誌 “Nyugad (西方)” は一時期ここに移ってきたこともある。

  Aug. 07 2019

 音楽家のコダーイ・ゾルタン、リヒャルト・シュトラウスも常連であったという。

 

  ニューヨーク・カフェは世界一美しいカフェとの評判通り、豪華絢爛の外観、内装で

 ある半面、1936年には破産したり、閉鎖と再開を繰り返し、スポーツ用品店になったり

 の波乱に満ちた歴史を持っている。         SNS Wikipedia より写真拝借

   

 

 2-3. カフェ・ジェルボー (Café Gerbeaud)

  創業は1858年とペシュト側では最も古いカフェであろう。 スイスの菓子職人の Emile

   Gerbeaud が1884年に店を購入し、数々のハンガリースイーツを生み出し、繁盛させた。

 エリザベート皇妃もお忍びで訪問したとか、作曲家のフランツ・リストも常連だったらしく

 どちらかと云えば音楽家、美術、芸術家の溜まり場だった。

 現在は店の前のヴルシュマルティ広場 (Vörösmarty tér) は、長~い、長い改修工事中。

                                   Aug. 08 2019

 

 メトロM1の始発駅の横                                                          Feb. 17 2019

 

 

 1997年にはロココ調の天井に改装され、一層、西欧風に洗練された。            Aug. 08 2019

 

 本家ウィーンの Café Sache の銘菓 “ザッハートルテ” との味比べも面白いかと。

 

 2-4. ヤーパン・カフェ (Japán kávéház)

  ネオルネッサンス様式の建築で、当時は注目を集め、1890年に本屋と共に創業を始めた。

 多くの文化人に愛されたカフェであったが、現在は閉鎖され本屋だけになっている。

 日本人が関わっていたわけではないのに、何故、日本カフェなのか疑問であるが、当時は

 東洋の神秘として日本は人気があったようだし、室内には竹や菊といった絵が掲げられ

 エキゾチックな日本の雰囲気を醸し出していたという。

 <1900年代当時のカフェ>           SNS Wikipedia より写真拝借

   

 現在の本屋                              Aug. 07 2019

 

 <当時のカフェ状況>

 

  これにて「ブダペストのカフェ文化(1)」はお終いです。

  本ブログへのご参加ありがとうございました。 次回は「3.カフェの復活時代」を掲載します。

 

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