高校時代、私の家に遊びに来た友人は何人もいたが、その中のひとりにB君がいた。
B君はある程度ギターが弾ける奴だったし、自身で曲も作っていた奴だった。
いつものようにBが私の部屋に遊びに来て、私と彼は互いにギターを弾き合っていた。
当時私は自作曲を集めたカセットアルバムみたいなものを作っていたのだが、ちょうど3枚目のカセットアルバムを作ってた時期にB君が遊びにきたので、せっかくだからカセットのA面は、私の部屋での私とB君の疑似ライブアルバムみたいにしようと思った。
B君と私の共通の友人が書いた歌詞に曲を即興でつけて録音したり、私の自作曲をBと一緒に歌ったりして、それらを録音した。
案外盛り上がり、気付けば時間は夜の時間帯に入った。
彼の家は私の家からかなり遠かったと思うのだが、Bは中々帰ろうとせずに私の部屋で盛り上がっていた。
だが、さすがに夜が進み、これ以上私の部屋にいたらBは帰宅できなくなってしまう時間帯になってきた。
翌日は学校があったはずだったから、私の家に泊るというわけにもいかず。
つまりその日は日曜だったのだ。当然翌日は月曜で、学校に行かねばならない日だ。
まあ、翌日が休みだったら、「今日は俺の家に泊っていけよ」と私は言ったと思うが・・。
「おい、そろそろ帰らないと、お前は帰れなくなってしまうぞ」と私は話を向けたのかどうかは忘れたが、そろそろ最後の曲にしよう・・という局面になった。
すると・・
Bは、「だんぞう、俺のこの歌詞に曲をつけてくれよ」と言って、歌詞を私に渡してきた。
その歌詞というのが・・・。
当時Bには好きな女の子がいた。その女の子の名前はイニシャルで書くと「YK」。
歌詞のタイトルは「YKに捧げる歌」だった。
ちなみに実際にはこのタイトルの「YK」は、その女の子の実名が書かれていた。
まあここでは実名は伏せて「YK」にしておくが。
なんともダイレクトなタイトルではあった(笑)。
で、この歌詞が熱烈で熱烈で。
この歌詞を渡された私は、「え・・?おいおい、この歌詞に俺が曲をつけて歌うの?それって変じゃないか?」と、とまどった。
更に「Y子のことを好きなのはお前だろう?なら、この歌詞にはお前が曲を付けたほうがいいんじゃないか?」ともB君に言った。
私はY子にはBの紹介で一度チラッと会っただけだったし、私は特にY子に恋愛感情を持ってたわけじゃなかったし、なにより、BがY子にぞっこんなのを私は普段からBから聞かされて知っていた。
Y子がBのことをどう思っていたかは私は知らなかったが、少なくてもY子は私に何の感情も持ってなかったはずだし、私だってY子に特別な感情を持ってたわけじゃないのだけは自分でもわかっていた。
なのになぜ私が曲をつけて歌うのか・・・と思って、更に私はBに「お前だって曲は作れるじゃないか。」と言ったところ、Bは「いや、だんぞう。この歌詞にはお前に曲をつけてほしいんだ」と譲らない。
この時私は思った。
Bの奴は、この日はこの歌詞に私に曲をつけてもたいたくて、我が家に来たのじゃないか・・・と。
中々言いだせないでいて、いざ帰らなきゃいけない時間帯になって、意を決してその歌詞を私に差し出したのではなかったか。
今思いだすと、そんな気がする。
歌詞が熱烈だったので、ちょっと恥ずかしくて、出しそびれていたのでなかったか。
でも、そのまま出しそびれたまま帰宅してしまったのでは、この日彼が私の家に遊びにきた目的が達成できないままになってしまうしね。
ともあれ、当時の私は、曲を作るのが楽しくてしょうがなかったので、Bが譲らないのを見て、「わかった。じゃ、曲をつけてみるね」と言って、歌詞をみながらギターを弾いて、ぶっつけ本番でカセットに録音した。
私がアドリブでぶっつけ本番で録音してる途中、Bはそばで私が歌って録音するのを聴いていた。しかも、目をつぶって、浸るように(笑)。
私としては、自分がY子に惚れてるわけでもないのに、歌っていたらそれなりに感情移入して「入り込んで」歌ってしまった(笑)。
そして録音し終わったら、Bは「やっぱりだんぞうにつけてもらってよかったよ」と言ってくれた。
この曲は、それだけで終わる・・はずだった。
ところが。
当時私はフォークグループを友人たちと組んでおり、そのグループでカセットアルバムを作ろうという話になった。
メンバーは当時私を含めて3人いて、3人とも自分で作詞作曲をしており、3人とも自作曲でカセットアルバムを作っては、そのカセットを貸しあい、互いの自作曲を批評しあっていた。
で、グループ名義でカセットアルバムを作る時、収録曲をどうするか話しあった。
そのミーティング(?)では、それぞれ貸し合っていた互いのカセットアルバムの中から選曲することになった。
私は私なりに、グループのカセットアルバムに持ち込みたい自作曲は何曲か、みつくろってあった。
だが、他の2人は、私がそのグループのカセットアルバムに持ちこむ曲の中の1曲として、なんと!「YKに捧げる歌」を推してきた。
「この曲、きれいだよ」「うん、この歌、いいぜ」
と語って。
その際・・・はっきり言って私は困った。
おそらく、グループ名義でのカセットアルバムを作ったら、それまで独自に作ってきたカセットアルバム以上に、色んな友人たちに聞かれるだろう。
なにせ、メンバーは3人いるわけで、かぶっている友人もいれば、かぶっていない友人もいた。
グループ名義でのカセットアルバムを作ったら、その「かぶっていない友人」たちにも聞かれるであろう。
その「かぶっていない友人」たちの中には、私が知らない奴もいるはず。
そういう「かぶっていない友人」たちは、グループ名義のカセットアルバムを聴いて、私が歌う「YKに捧げる歌」が流れたら、私がY子に惚れてると誤解してしまうだろう。
当時私には私なりに思いを寄せる相手はいた。片思いではあったが、私が思いを寄せてた相手は決してY子ではなかった。
だいいち、Y子に惚れてたのは、私の友人Bなのだ。
なので、いくらメンバー2人が「YKに捧げる歌」をアルバム収録に推しても、私はそれを受け入れるわけにはいかなかった。
なので、それだけはやめてもらった。
その時・・ふとした思いが私の頭に一瞬よぎった。
こんなだったら、「YKに捧げる歌」のメロディは、私の別の曲にとっておけばよかったかな・・・という思い。
いや、別に、歌詞はBの歌詞でもいいのだが、「YKに捧げる歌」というタイトルと、歌詞の中に「Y子」の実名を何度か連呼する個所があるので、それだけ変えてもらえたら、相手を特定しないラブソングにできるのに・・という思いも。
だが・・・あのメロディは、Bがあの歌詞を私に差し出したからこそ、浮かんだメロディだったのも事実。
それを考えると・・・やはりグループのアルバムに収録するのは、見送ってもらうしかなかった。
てなわけでとりあえず、私がY子に惚れてるみたいに誤解されるのだけは・・・避けられた・・。
もしグループのカセットアルバムに「YKに捧げる歌」が収録されてたら、私がY子に惚れてるかのようにリスナーに思われたに違いない。
実際、「YKに捧げる歌」を収めたカセットアルバムを、当時私と同じクラブに所属してた女の子に聴いてもらったところ、「この曲、ちゃんと本人(Y子)に聴かせたの?」と言ってきた。やはり誤解されたようだった(笑)。
やはり、そういう歌詞は、もし自身で曲をつけられる人は、自分でつけたほうが・・いいと思う。
とりあえずグループのカセットアルバムに収録される事態は避けられた。
ただ・・帳尻合わせではないが「YKに捧げる歌」の代わりに、グループのカセットアルバムに私が持ち込んだ4曲のうちの1曲には、実際のY子が書いた歌詞に私がメロディをつけた曲を収録することでメンバーには了承してもらった。
幸いなことに、Y子の書いた歌詞に私がメロディをつけた曲も、メンバーは推してくれていたし。
・・・で、Y子が書いた歌詞はどんな内容だったかというと・・・・。
彼女自身の恋愛に関する歌ではなく、宇宙が舞台のおとぎ話のような、少女漫画のような架空の内容の物語風の歌詞の曲で、Bの存在などまったくない歌詞ではあった・・・。
それを聴いたBはどう思ったか・・・それはBには私は聞けなかった・・。
もっとも・・仮に、Y子の書いた歌詞がBにあてた歌詞で、しかもその内容が「ふる」内容だったら・・・それはそれでBには残酷な展開になってしまうことになる。
まあ、その可能性を考えると、彼女自身の恋愛に関係ない内容の歌詞であったことは、ある意味良かったのかも・・・しれない??
そう思うことで、私は自身を納得させたのであった。
ちなみに、Y子の書いた歌詞になぜ私が曲をつけることになったかというと、Y子の書いた何作かの歌詞を、Bはそれまでに私に渡していたからだった。
「だんぞう、Y子の書いた歌詞を渡すから、お前、曲をつけてくれよ」
とでも言われていたのだろうと思う。
少なくてもY子から私に直接頼まれたわけではなかった・・・と私の記憶の中では、そうなっている。
まあ、私が曲をつけることで、Y子に対してBの顔がたつことになるなら、それでいいやと私は思ったのは覚えている。
でも・・やはり今でも思うことは・・Bだって曲は作れたんだから、B自身で曲をつければよかったのに・・・ということ。
今思うに・・私自身が想いを寄せてるわけではなく、友人が想いを寄せてる相手あてに書いた熱烈な歌詞のラブソングを、よく臆面もなく私が歌えたものだ・・・。
しかも、歌詞の中に実名が出てきて、更にそれを連呼するような歌詞の曲を。
しかもその曲は、何人もの友人たちには聴かれたのだ。
今考えると、けっこう恥ずかしい・・・。
若い頃にやらかしたことは、年月がたって思い出すと、妙に恥ずかしいことがある。
よくあんなことできたなあ・・・と思って。
若い時代の「自身の恥ずかしい話」、あなたにはないだろうか。
たまたま私がぶっつけ本番でアドリブでつけたメロディを気にいってくれただけだったのかも。
まあ、私も当時は作曲が楽しくて仕方なかった頃でしたので、アドリブでメロディをつけてるうちに、けっこう入り込んでしまい、それなりに熱演にはなったとは思います。
ただ、それを私のレパートリーとして残していくことは全く考えていませんでした。
あくまでもあれはB君のレパートリーになるのがふさわしいと思ってます。
彼が好きな女の子に捧げた歌詞だったのですから。
私があの曲を歌うことは、その後ありませんでした。
あくまでも、あの1回限り。
しかし、よりによって単刀直入なラブソング…(笑)
作曲者としてのだんぞうさんさんが疑われているのも、微笑ましいです。
しかし曲としては、大変評判高かったのですね。
後年、違う歌詞を付けて、だんぞうさん御自身の楽曲になっているのでしょうか?