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第三章 分割・民営化攻撃の本格化と国労闘争
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第七節 国労攻撃の本格化と国労の反撃
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├○ 三 企業人教育の実施 │
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企業人教育は、1986年4月に国鉄当局から提案された。それは、5ヵ月間で約7万人を対象に実施するものであり、①大学卒業者を対象とする企業人教育(A、5000人)、現場の管理者を対象とする企業人教育(B、1万人)、一般職員を対象とする企業人教育(C5万人)というように、三つの教育研修からなっていた。
その実施の趣旨について、国鉄当局は「過日、所要の国鉄改革法案が国会に提出されたところであるが、このような状況において、国鉄経営の現状に鑑み今後を展望するとき、職員一人一人が企業人としてふさわしい考え方と行動力を身に着けることが、活力ある経営を通じて鉄道事業の未来を切り拓いていくために、現在何よりも必要とされている」と指摘した。その教育実施の背景には、国鉄の財政赤字の要因を「企業意識」「コスト意識」を持っていない職員に求める『国鉄監査報告』(1987年)の考え方、また、いわゆる「ヤミ・カラ・ポカ」の問題のマスコミによるキャンペ-ン等があるが、企業人教育の実施は、いわば新会社JRに残すべき職員を選別にかける試みであった。
国鉄改革法案に賛成し、しかも「労使共同宣言」に署名した動労、鉄労、全施労、真国労は、企業人教育の実施についても進んで賛成した。しかし、旅客列車の安全輸送を最優先課題とする国労は、「企業収益」、「輸送コスト」を最優先する企業人教育の実施に反対した。また、教育・訓練のあり方は従来から労使の団体交渉の対象事項であるとして、国労は4月10日、4月14日の2回にわたり、企業人教育を強行しようとする国鉄当局の考え方を質した。
国労側が強く主張した点は、第一に、企業人教育の教育内容が、国鉄法第一条の目的に添う国鉄職員の「知識及技能の向上」に資するものであること、第2に、企業人教育の実施に当たり、不当労働行為、人権侵害、特定思想の押し付けにならないないこと、第3に、企業人教育の受講者を決定するに当たって、労働組合所属間の差別を一切行わないことであった。
国労側の要求に対する国鉄当局の対応は、非誠実なものであった。例えば、企業人教育の実施に当たって、不当労働行為、人権侵害、特定思想の強要が行われないようにという国労側の主張に対して、国鉄当局は「本教育は鉄道事業の活性化を図るために企業に対する認識を深め、企業人としての基本的心構えを醸成するものであり、内容的にも広く企業の現状から学ぶものである」と答えただけであった。また、組合所属間の差別が行なれないようにという国労側の要求に対しても、国鉄当局は、「受講希望者を優先のうえ、本人の勤務成績等を総合的に勘案し、受講者を決定する」とだけしか解答しなかった。
もちろん、企業人教育を進んで受講すれば、新会社JR各社に残れると宣伝されていた。そして、5万人を対象とする企業人教育(C)に7万人の職員が受講の申込みを行ったが、その受講申し込みは、労働組合の所属を問わず多かった。しかし実際上は、国労組合員の多くが企業人教育の対象者から外されることになった。なぜなら、国鉄職員が企業人教育を受講するためには、「職員管理調書」で高い評点を得なければならず、また、高い評点を得なければ、職場長の推薦も得られなかったからである。
企業人教育の直接の狙いは、「柔順な人づくり」であった。現場における国労運動を敵視する国鉄当局は、「命令と服従の労務管理」と称されるような職場の専制的支配を実現するために、国鉄当局は、職場管理者の指揮・命令に柔順で、「もの言わぬ」職員を集中的な教育研修を通じて育成することが必要であると考えた。つまり、国鉄当局は、どのような理不尽で不合理な命令であっても、これに盲目的に従うような職員が望ましいと考えていたからである。したがって、企業人教育は、職員に鉄道事業にとって必須の業務知識や技能を身に着けさせるために行われたのではなかった。
そうではなく、現場管理者に恭順な姿勢をとる職員を短期的に養成するために行われた。
企業人教育の特長は、第一に、ビデオ鑑賞の時間が設けられているということである。受講者たちは、「経営改革について」「お客様の声」「生き生き職場をつくるため」「清々しい職場つくり」等の、当局が編集したビデオを見せられた。ビデオは多人数教育に向いているからであるが、それは、国鉄の「分割・民営化」を推進する立場から編集されていた。企業人教育は、受講者に対して「思想改革」と「意識転換」を求め、その意味で、それは職員に思想転向を強いるものであった。つまり、企業人教育(C)は、「国鉄は、経営改革にむけて、時代の変化を的確に把握し、かつ、これを先取りする前向きな企業精神とコスト意識をもって顧客へ魅力あるサ-ビスを提供することに心掛け、親方日の丸意識の払拭に努めることが肝要である」という立場から、「職員一人一人が国鉄の置かれた状況を正しく認識し、その職責を十分自覚し、みずから進んで企業精神の発揮に勤めるべき」ことが大切であるというのである。
続く
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