狂歌家の風の鳥喰の歌の参考として書いた大頭神社の烏喰祭の回で、大頭神社例大祭でいただいた御朱印の説明文中の「四烏(しがらす)しあわす」という語呂合わせを紹介した。古語の「仕合はす」にあたる現代語は「仕合わせる」であり、話題になった山口の方言「幸せます」はこの「仕合わせる」に「ます」がついたものだ。そして、大頭神社のある廿日市市大野は山口県境寄りであることから、四烏(しあわす)は「幸せます」につながる「仕合わす」の古い用例の可能性もあると考えた。しかし、この語呂合わせが考えられた時代もはっきりせず、これだけで関連を言うのは少し無理があるかもしれない。
今回、「ひろしまの民話」を読んでいたら「しあわせる」が出てきた。これは少し前に書いた「ころげとって」の用例を探すために、そのまま話し言葉で採録された広島の民話を読んでいたらたまたま仕合せるの方が見つかったものだ。一話ごとに語り手の名前が書かれていて、方言の色合いは様々だ。引用するのは山県郡芸北町(当時)の高田金十さんのお話で、丁寧に標準語で話そうとされている中に、所々「こりゃあ、やれん」などの方言がちらちらはさまっている。
「採訪記録 ひろしまの民話(昔話編)」中国放送編集(昭和56年出版)より 「日蓮上人の半生旅日記」
女は日蓮上人の顔をジイッと見つめておりましたが、
「お泊め申しあげるわけにはまいりません。実は、泊まっていただくのはかまいませんけれど、さしあげるものがございませんので」
と申します。
「それなら、拙僧は修行の身じゃ、今日(こんにち)も少々托鉢ぅちょうだいしたので、おかゆなりともたいてもらやあ、しあわせる」
「それなら、お泊りください」
これは、山口の「幸せます」と同じ文脈で使われている。もし山口の使い方を知らなければ、何のこっちゃと悩んだかもしれない。最近同じ山県郡の安芸太田町で「しわいマラソン」が行われ、つらい、ナンギなというこの地方特有の意味を持った「しわい」が報道などでクローズアップされた。広島市周辺では「しあわせる」や上記の意味での「しわい」は聞いたことがない。今でも山県郡で「しあわせる」を使っているかどうか興味があるところだ。
まだ一例だけであるが、ここに書いておいて他にもあれば追記したい。