父の入院も長期に及んで、4人部屋の他の患者さんは次々に入れ替わる。そのほとんどが高齢者であるから耳が遠い人も多く、主治医や看護師さんの話は聞きたくなくても聞こえてくる。そこで若い看護師さんがしきりに使うのがタイトルの「なので」だ。「血糖が高い値でした。なので、昼食前にインシュリンをうちます。」のように使っている。看護師さん全体からみると多数派ではないけれど、使う人はひっきりなしに「なので」を使う。
(現状の説明) 「なので」 (処置の説明)
という感じで、たしかに看護師さんにとっては便利な用法かもしれない。そして後半を聞いてもらうために、「なので」の語勢は結構強くなっている。だからカーテン越しに「なので」ばっかり言っているように聞こえてくる。一度気になりだしたらあちこちで気になる。NHKテレビでも、さすがにアナウンサーにはいないが料理や趣味の番組の出演者に似たような話し方をする人がいるようだ。
言葉は日々変化していくものだから、良いとか悪いとか言っても仕方ない。私の興味は、何によって変化したか、そこを知りたい。ドラマなのか、アニメなのか、あるいは有名人の口ぐせか。そして何年ぐらいで間違いと指摘されるぐらい広まって、そして気にならなくなっていくのか。そのあたりのプロセスが気になるのだけど、実際に追跡するのは簡単ではない。ネットで検索しても、何年前から使われ出したか特定するのは困難を極める。
しかし今回は、「文頭「なので」に違和感 接続詞で話し始める人たち」という2年前の記事に言及があった。勝間和代さん について、
「彼女がさっそうと世に出た10年ほど前。「女子力」なんて言葉がまだ一般的ではなかった時代の女性たちを大いに勇気づけた功労者の1人とも言える勝間さんは「文頭・なので」という接続詞の使い方を定着させた「功労者」でもあった。彼女の典型的な語り口は、たとえばこんな感じだ。
「やればできる!なので、やりましょう!」
「理由・結論をポンと最初に語る。直後の接続詞『なので』で行動を呼びかける」というダイナミックでテンポのよい話し方は新鮮だった。しかし、あらためて読んだ著作には「文頭・なので」は皆無だ。頭のよい勝間さんは話し言葉と文章の「けじめ」を付けていたらしい。」
とある。勝間さんが使い始めたという訳ではないようだが、この勝間さんの語り口が定着のきっかけとすれば、十年間で違和感、というところまで来ていることになる。この接続詞の「なので」の使い勝手が良いのは話し言葉だろうから、引用の後半部は当然のことと思われる。また、記事の後半部で
「ちなみに改定前(14年以前)の三省堂国語辞典でも、普通に『文頭・なので』はありますよ」
とあり、「準備万端調えた。なので心配していない 」という例文も載っている。やはり出発点を見つけるのは難しい。叩かれるほど流行ったのが勝間さん以降ということだろうか。
読売新聞の発言小町『なので』 接続詞に様々な投稿があるが、3年前ということもあるのだろうか、否定的な意見が目立つ。その中に「そういことなので」と言い換えたらみたいなのがあって、それなら「そういうことなので」のつづまった形ということにしたら・・・いや、正しいとか間違っているとかいう議論には参加しないのだった。
これぐらいで終わりにしたいが、他にも気になっている表現はある。一つに、「キンキンに冷えたビール」これも昔は聞いたことがなかった。きっかけはコマーシャルかグルメ番組かそれともビールじゃない別の物なのか、御存じの方がいらっしゃいましたら教えていただきたい。