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まだ学生だった頃、私は学費を稼ぐために、さまざまなアルバイトをこなしていた。 最初は日給800円、町工場での雑役だった。しかし、次第に高給を求め、金を稼げる仕事へとシフトしていった。 その次にやったのは、日新製菓(南太田)での深夜労働。ベルトコンベアー上を流れてくるヒット商品・バターココナツに紙の帯をかぶせるという仕事だった。空腹と睡魔でみんなイライラしていたから、コンベアの上流にいる社員や職長とよく衝突したものだ。 そんななかで楽しみだったのが社員食堂での朝食。学食とは違って質素な内容だったが、夜勤明けの疲れた身体には非常に美味しく感じられた。窓ガラスから差し込むまばゆい朝陽が、なんとも爽やかだった。 日新製菓のあとは、エレベータの取り付け、雑誌の配送など高い日給を求めて渡り歩いた。 そんなおり、1日1万円という破格のバイト話がきた。すぐに飛びついてみたが、それは、ベトナム戦争で戦死した米兵の死体を洗浄するという仕事だった。さすがに、これだけはできなかった…。 いろいろやったバイトの中で、最も印象に残っているのが大映東京撮影所。電飾といって、盛り場のセットでネオンをチカチカさせたり、ベッドシーンで使うランプをセットしたりという、電気仕掛けの装飾の仕事をした。 大映といえば、長谷川一夫主演の『銭形平次』、三船敏郎主演の『静かなる決闘』、そして芥川龍之介の小説を映画化した『羅生門』(黒澤明監督)など、良質の映画を提供してきた映画会社だったが、私がバイトで入った頃は既に落ち目となっていた。 そんな状況を打破しようと始めたのが、ポルノまがい路線だった。関根恵子、渥美まり、八並英子という三人娘が思いっきり脱ぎまくっていた。 当時の関根恵子は、女優をしながら高校に通っていた。だから撮影所に現れるときは、いつも学生鞄を持つセーラー服姿だった。色白で本当にきれいだったし、台詞の覚えも早かったが、たいへん傲慢でわがままな女優でもあった。気に食わないと、プイッとしてしまい、撮影に戻すのにみんな一苦労していた。そんなだからバイトの私たちは、奴隷のように扱われたものだ。 それでも辞めなかったのは、日給2000円という賃金もさることながら、ピチピチギャルの裸体を見られるという余禄が決め手だった。 「おい、今日は残業だぞ」 主任にそう言われると、胸がドキドキした。通常は5時終業なのだが、裸のシーンを撮影するときは5時以降と決まっていたからだ。照明に照らされた関根恵子や渥美まりの身体は真っ白でハリがあり、とてもきれいだった。 三人娘が「高校生ブルース」で裸体を披露すると、「おさな妻」「可愛い悪魔」「いいものあげる」「高校生心中」など、大映はポルノまがいの映画を短期間にいくつも制作していった。 その頃、松坂慶子も一緒にいくつかの作品に出演していたが、彼女は決して脱がなかった。三人娘が脚光を浴びていたので、ほとんど話題にはならなかったが、近くで演技を見ていると「おとなの雰囲気」「女優の香り」がした。あのとき親しくなっていれば…と、あとになってからずっと悔やんでいたものだ。 映画製作の楽しみといえば「ロケ」である。当時の大映は、ほとんどセットで撮影していた。夕焼け空なんて、まるで本物のようだった。だが、屋内では撮れないシーンもある。そんなときは、たいてい多摩川の川原でロケをしたものだ。 冬のある日、爆破シーンを撮ることになった。私たち裏方は朝早くから川原でセットの家造りを行った。ただでさえ寒い冬場のロケ、吹きっさらしの川原での作業は非常につらかった。それでも11時頃、ようやくセットが出来あがると、俳優さんたちがバスでやって来て、みんなの動きが活発になってきた。 撮影は一日がかりということだったので、昼はアルバイトにも食事が支給された。いわゆる「ロケ弁」というやつだ。撮影現場は、有名女優(女王)からバイト(奴隷)までの階級を意識せざるを得ない、まるで封建社会のようなところだったが、唯一、弁当だけは平等だった。 今の金額で言えば千円以上の幕の内だろうか。大きな海老天ぷら、きれいに型作った煮物、京風の食材、テリーヌ、サイコロステーキ、季節の果物…、これまでに食べたことのないような弁当だった。しかも、関根恵子と同じ弁当なのだ。ただひとつ違うのは、食べる場所が、彼女は温かいバスの中、私たちは寒風吹きぬける川原ということだった。 アルバイト時代からン十年経過した今、崎陽軒のシウマイ弁当を食べるたびに、あのときのことを思いだす。 さて、崎陽軒のシウマイ弁当が出たところで、ここからは横浜中華街の中で買える弁当をご覧いただきましょう。 ![]() 王興記。南門通りに店を構えていますが、電話一本で弁当の出前をしてくれます。 ![]() 重慶飯店のテイクアウト炒飯と豚足。重慶飯店本館隣の売店で売っています。店で出しているものと同じものです。取りに行く時間を指定しておけば、待たずに持ち帰れます。 ![]() 麻婆豆腐専門店の「辣」。麻婆豆腐とご飯が別々の“別居型”と、一緒になった“同居型”の2種類があります。別居型がお奨めです。 ![]() ロイヤルホール1階にある「桃桃林」で買えます。炒飯各種のほかに、焼きソバもいろんな種類があります。これにデザートが付けば満点なのですが… ![]() 順海閣新館で売っていた弁当。オカズは何種類かあり、ライスも大中小と用意されていましたが、今でもやっているのでしょうかね。 冒頭に掲げた写真は関帝廟通り「秀味園」のルーロー飯。そこのテイクアウトバージョンです。店で食べるのとまったく変りません。美味しいです。 ![]() |
大映のバイトの話、読んでいてとてもドキドキしました。17時以降の魅力的な残業なんて、想像するだけで胸が張り裂けそうです。
三人娘の一人、八並映子は、その後「プレイガールQ」でも大活躍でしたね。
47newsで食ブログをやっている、ぐうが@高知と申します。各地のうまいもの探しをしていて、貴サイトにやってきました。
中華街のお弁当、うまそうですね。値段はどれくらいなんでしょうか。中華街は2回ほど行ったことありますが、店内でしか食べたことないので、お弁当とは気がつきませんでした。
バイトでの食事話、面白く読ませていただきました。
私は東急インのレストランで皿洗いのバイトしてたとき、生まれて初めてエスカルゴ(客が残したやつ)を食べましたですよ。