牡蠣のシーズン到来!! 「横浜ほにゃらら日記」のアリーマさんが牡蠣の記事を書いておられたので、こちらも触発されて「B級グルメの食べ過ぎに注意」第19回は牡蠣を取り上げてみた。 以下は牡蠣にまつわる話である。 旅行社の手違いからウィーン行き夜行列車に あれは10年ほど前の真冬のこと。私はスペインでギターを弾くことになり、仲間十数人と一緒にマドリッドへ行った。 演奏は大成功で、そのあとは観光を兼ねてコルドバ、グラナダ、バレンシアと各都市を回ってきた。 最後はバルセロナから飛行機でパリへ向かう手筈だったのだが、私たち4人だけはこの街に残るはめになってしまった。というのは、旅行社の手違いから航空券が4枚足りなくて、無頼派の4人組が夜行列車での移動となってしまったからである。 出発までの寸暇を惜しんで私たちは呑み屋に行き、牡蠣をバケツ一杯食べ、ワインをたらふく飲んだ。そのあとは、夜行列車で寝て行けば、翌朝は憧れのパリである。みんなと再会できるのだ。 ところが、駅に着くとその甘いもくろみは、もろくも潰れてしまった。 夜行列車というのは…な、なんと、「ウィーン行き」だったのである。パリ行きではないのだ。どこかで乗り換えなければいけない列車だった。 寝過ごしたら雪深いオーストリアだ。東横線や相鉄線で乗り過ごすのとはわけが違う。しかも、どこで乗り換えるのか、全く分からない状態だったから、いっぺんに酔いが醒めてしまった。 2度の乗換えを経てパリに 午後10時頃、列車が出発。リュックをデッキに置き、交代で休息することにした。ほとんど灯りのない暗闇の中を汽車は走り続けた。 途中、人相の悪い連中が乗り込んできた。 「外国人相手の窃盗団かも…」 そんなことが気になってみんな眠れなくなってしまった。 数時間後、どこかの駅に着き周囲がざわめき始めた。みんなが降りるので、なんだか分からないまま私たちも降りることにした。 リュックを背負った人たちが先の方へと進んで行く。流れに身を任せて歩いて行くと駅構内にイミグレーションがあった。 ここは国境駅だったのである。列車はウィーン行きだが、ここでスペイン国鉄からフランス国鉄の客車に交換するため、全員が降ろされたのだった。 跨線橋を登ると両替所があった。少しは「フラン」に両替しておきたかったのだが、乗り換え列車の出発時間も気になってそのまま通り過ぎてしまった。しかし、この手間を惜しんだことが、その後の私の運命に重大な支障を及ぼすことになる。 全員がフランス側の列車に乗ると、ウィーンに向けて再び走り出した。 うとうとする間もなく、パリ方面への乗換駅であるリヨンが現れた。ここから先はフランスの誇る世界最速新幹線(TGV)で、深夜の農村地帯を一気にパリまで走る。最近は日本でも夜行新幹線が出たが、フランスではかなり以前から24時間営業だったようである。 やがて田園風景を過ぎると空が白み始め、家々がポツポツと見えるようになってきた。終着駅パリ・リヨン駅はもうじきである。 パリでトイレを探して駆けずり回る もうじきだ、と思ったら、急にお腹が痛くなってきた。ギュルギュル音を立てて爆発寸前になってしまった。昨晩、バルセロナでメチャ食いした牡蠣と、メチャ飲みしたワインと、その後の緊張感が原因のようだった。しかし、新幹線はすでに停まりかけている。 いまから車内トイレに行くわけにはいかない。仕方なく新幹線を降りて駅構内でトイレを探すことに…。 ところが、それが何処にあるのか全く判らないのだ。そうこうしているうちに、もう限界に達してしまった。それでも《こんなところで垂れ流しなどできない! そんなことになったら日本人の恥だっ! 国際問題に発展しかねないぞ》という強い意思を持って括約筋を引き締め走っていたら、あった! あったのだ! 待望のトイレが!!!! もうちょっとの辛抱だ、あと数メートル… 入り口に辿りついたら、肉まんのようなおばさんが怖い顔して、銭湯の番台みたいなところに座っていた。 「トイレ使うんやったらチップ出してえな」 なんということだ! 私はたった今、フランスに着いたばかりなのに! 札はおろか小銭だって持ち合わせていないよ。いくら叫んでも通じなかった。 青いパリの空 爆発寸前のお尻を押さえながら同行者の待つ場所へ戻ると、「もうすぐパリ東駅行きの電車が来る。我慢してそれに乗れ」と冷たい言葉。その電車に車内トイレが付いているかどうかは判らない。そこで一緒にいた某氏がとっさに思い出してくれた。 「そうだ! 以前パリへ行ったときに残ったコインが確か1枚あったかも…」 急いで財布の中を引っかきまわすと、1フランが出てきた。コインを引ったくり、一気にトイレまで走った。入口で“肉まん”にチップを投げつけ、個室へ急いだ。 ところが、ここで再び愕然とする。個室のドアが開かないのだ。全部「使用中」なのかと思ったらそうではなく、なんと、個室に入るにもコインが必要だったのである。 しかし、私にはもうコインがない。さっき“肉まん”にあげた1フランからお釣りを貰いたいところだが言葉が通じないし…もはやこれまでか… 《いやいや、まだ何か手があるはず…そうだ! 日本ではよく駅の構外に汚いけどトイレがある、フランスでも無料のがあるに違いない》 括約筋と気を引き締めて外に飛び出した。だが、そこには殺風景な街が広がっているだけで、無料トイレなど見当たらない。もはやこれまでと観念したとたん、1ccほどチビリ始めてしまった。 と、そのとき、工事現場が私の目に止まった。 《これで助かったあ!》 工事用フェンスの中に駆け込み一気に放出。 見上げたパリの空は青く澄み切っていた。 【付録】 生牡蠣にレモン汁をかけて食べるというのは、現代では当たり前のことになっているが、江戸時代までの日本人はこんな食べ方をしていなかった。これを教えたのは、おそらくフランス人であり、横浜が発祥の地だと私は考えている。 安政6年、横浜が開港すると、多くの欧米人がやって来た。と同時に、攘夷を唱える武士と外国人との間に殺傷事件が多発。そこで、外国人が安全に通行できる「専用遊歩道」の建設が求められ出来あがったのが、いわゆる根岸の外国人遊歩道である。コースは谷戸橋~元町~地蔵坂~山元町~根岸~不動坂~八幡橋の約9キロ。 しかし、この間には休憩する場所がなかったため、幕府は周辺民家13軒に命じて休憩所を造らせた。その中の一軒に「大竹屋」という店があった。場所は今の八幡橋のたもと、幼稚園のある辺りである。 外国人がここで休憩している間に、馬たちはすぐ横の場所で水を飲んだり、休んだりしていたそうだ。今、ここに動物検疫所があるのも、なんとなく因縁めく。 さてそんなある日、ここを訪れたひとりの外国人が、岸壁に張りついている牡蠣を見つけ、これにレモン汁をかけて食べてみせた。生牡蠣の食べ方を日本で最初に知ったのは、この店の主人だったのではないか。以後、「大竹屋」は牡蠣料理の店として評判になったという。 蛇足であるが、その後こういった休憩所に若い女性を置き、別室で特殊接待をするという新しい営業形態が生まれる。これが「ちゃぶや」の始まりである。 さて、そんな牡蠣だが、現在でも山下公園や税関裏の岸壁で獲ることができる。何年か前、台風が過ぎたあと、山下公園地先に流れ着いたワカメを獲っているおじさんがいた。小型の錨で海底のワカメをすくうたびに牡蠣も一緒に水揚げされていたのを思い出す。 かつて、といっても明治時代であるが、フランス波止場(現・山下公園)前では本当に潮干狩りをしていたのだ。日下部金兵衛が撮影した幻灯板写真が残っている。これがそのシーンである。参考までに。 本文と関係ない写真を何枚か掲出したが、一番のお気に入りは本町・セントラルグリルのカキフライ定食だ。これは超うまい。 生牡蠣を使用したフライにタルタルソースがバッチリからむ。これに濃厚なソースを少し垂らして、さらにカラシを混ぜレモン汁を振り掛けると、あ~大満足。 サクサクとしたコロモを破って、中から海のミルクとも言われるジューシーな汁が出てくる。口いっぱいに広がる潮の香りと、奥深い旨味。繊細にして奥深い味わいが楽しめる。 ←素晴らしき横浜中華街にクリックしてね |
しっかし、この手の話は必ず最後にハッピーエンドな中、1ccの実損がやけにリアルです。
管理人さまは何か音楽関係のお仕事なのでしょうか?ツアーの観光旅行だけじゃなくてこういうガチンコの海外体験も大変面白いですし、たった数日間のことなのに何年経っても忘れないですよね。
そういえば西洋人って日本食があちらでブームになるまで生魚もあまり食べなかったし、ユッケや馬刺のような生肉系料理もあまり聞きませんよね。
そのくせ牡蠣は生にこだわるのですから、なんか面白いですね。
私は瀬戸内育ちでして、あちらでは大阪や東京などに出荷できないような牡蠣を一斗缶で販売していました。価格はわかりませんが、母親が時々買ってくるところをみるとそれほど高いものではなかったと思います。流水で適当に汚れを落としたら、そのまま食するもよし、電子レンジで加熱するもよし、です。
そんな感じでしたので、東京に来てからオイスターバーで一個450円もするのを見てびっくりしました(笑)
いやあ~、MTDさんも下がユルイ者なのですか。暴飲暴食に気をつけましょうね。
「1ccの実損」という表現、面白いです。実損かあ。
>torio様
1個450円なんて…なかなか食べられないです。税関裏の牡蠣は無料ですが、緑色していてなんだか怖い。
それを生で食べちゃった人がいますけど…
別に冬にしか食べられないものでもないのに、どうしてこの季節ってこう牡蠣が食べたくなるんでしょうね。
そうですか、流浪のギタリストだったんですね。
ヨーロッパって、今はどうだか知りませんが、かつてはトイレ確保がかなりの難題だったので、結構妙に深く共感してしまいました(笑)
ときに、ヨーロッパで貝にかけるレモン汁は「消毒用」だそうです。レモンの酸(?)でかなりのばい菌が死ぬのだそうです。
あと、貝を食べ過ぎると消化が悪いせいでお腹が緩くなることがあります。冗談抜きで貝のバイキンにやられたら、発熱・嘔吐・下痢で立ち上がれないくらいのダメージです。
不幸中の幸い(?)で、よかったですねー。