8月になりました。3年前まで、毎年8月には必ずタイに行っていたので、8月というとバンコク各所の賑わいや、郊外のおもしろ寺院&映画テーマパークなどの様々な観光スポットを思い出します。タイ語は二言三言しかできないのに、安心してゆったりと旅ができるのもタイならではの魅力でした。そんな8月のタイでは、毎年数本のタイ映画を見てきていたのですが、タイに行けない今年はタイ映画の方から日本にやってきてくれました。それも、物語&脚本よし、俳優よし、演出よし、の三拍子揃った見応えのあるタイ映画『プアン/友だちと呼ばせて』(2021)で、製作総指揮は何と!香港の王家衛(ウォン・カーウァイ)監督という豪華版。それもそのはず、『プアン/友だちと呼ばせて』の監督は、世界中でヒットしたタイ映画『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017)の監督バズ・プーンピリヤなのです。以下、詳しくご紹介していきますので、まずは作品のデータからどうぞ。
『プアン/友だちと呼ばせて』 公式サイト
2021年/タイ/タイ語、英語/129分/原題:วันสุดท้าย..ก่อนบายเธอ(最終日..さよならの前に)/英題:One for the Road
監督:バズ・プーンピリヤ
主演:トー・タナポップ、アイス・ナッタラット、プローイ・ホーワン、ヌン・シラパン、ヴィオーレット・ウォーティア、オークベープ・チュティモン
配給:ギャガ
※8月5日(金)新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、渋谷シネクイントほか全国順次ロードショー
©2021 Jet Tone Contents Inc. All Rights Reserved.
喧噪のニューヨーク。タイ人で洒落たバーの経営者ボス(トー・タナポップ)は、若くてイケメン、金持ちである上に自らバーテンダーとしてカクテルも作ってしまうカッコ良さが大人気で、ガールフレンドに事欠きません。そんなボスが彼女の1人とイチャイチャしている時に、タイから1本の電話が。出てみると、以前ニューヨークで同居していた友人ウード(アイス・ナッタラット)からでした。数年前急にタイに戻ったきり音信不通だったのですが、なんと「白血病で余命宣告を受けたんだ。頼みがあるから帰ってきてほしい」と言うではありませんか。バンコクに戻って会いに行くと、見る影もなく痩せて、髪の毛も失ったウードが現れました。ウードの望みは、「ニューヨーク時代の元カノに返したい物があるから、会いに行きたいんだ。運転手になってくれ」というもの。2人は、ラジオDJ番組のパーソナリティだったウードの亡き父(タネート・ワラークンヌクロ)の愛車、ヴィンテージもののBMWに乗り込み、元カノのアリス(プローイ・ホーワン)が暮らすコラート(バンコクから北東へ259㎞、ナコーン・ラーチャシーマーとも言い、イサーン=東北タイ地方の入り口にあたる町)に向かいます。
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ニューヨークでダンスを学んでいたアリスは、現在ではコラートのダンス教室で中高年の男女に教え、「先生」と慕われていました。昔のことを思い出しながらそのアリスを眺め、預かっていた品物を返したウードは、当時言えなかった言葉を伝えます。さて、これで1件落着、と思ったボスでしたが、何とウードは「次に行こう。元カノは1人とは限らないんだよ」と言い出すではありませんか。次の目的地は、女優志望だった元カノのヌーナー(オークベープ・チュティモン)が映画のロケをしているサムットソンクラームだということで、バンコクに引き返し、その南西72㎞にあるこの町のロケ現場の教会へ。しかし、結婚式シーンを撮っていたヌーナーは演技がうまくいかず、悩みに悩んでいる最中でした。さらに3人目のヌン(ヌン・シラパン)は北部タイのチェンマイ在住なので、バンコクから真北に720㎞。こうして2人の強行軍は続いたのですが、終わった、と思ったところからまた、別の旅が始まっていったのです...。
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このようにニューヨークから始まった物語は、バンコクからタイの各地に飛び、さらには過去と現在を縦横に行き来して、ボスとウードの人生を暴き出していきます。「暴き出す」というのは言葉が悪いと思われるかも知れませんが、かなりショッキングな事実もいろいろ飛び出してきて、まだ若い2人の人生に振りまかれた辛酸を我々にも舐めさせてくれます。中でもボスが「金持ちのぼんぼん」になった経緯と現状には、胸が痛くなる思いがします。
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本作は、ウォン・カーウァイ(以下”王”)監督が『バッド・ジーニアス』を見て心奪われた時から始まった、と言ってよく、その後王監督がバズ・プーンピリヤ(以下”バズ”)監督に「一緒に映画を撮ろう」と声をかけたのだそうです。王監督は澤東電影のプロデューサーとして、自分の監督作以外にもたくさんの作品をプロデュースしていますが、タイ映画は初めてではないかと思います。その後、王監督のアイディアに沿って企画を組み立ててみたもののうまくいかず、最後には「思い入れのないストーリーより、君自身を投影した物語がいいのでは」とアドバイスされ、バズ監督はこのストーリーを組み立てたのだとか。また、「余命宣告を受けるキャラクターだけでなく、行動を共にするもう1人の人物も登場させよう」というアイディアも王監督からのものだそうで、実に優秀なプロデューサーですね。
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主人公2人のキャスティングはすぐに決まったそうで、どちらもこれ以上はないハマリ役です。特に、ウード役アイス・ナッタラットの役になりきる努力がすばらしく、初登場シーンはバンコクの下町で彼が営んでいるレコード店?(もしかしたら、DJだった亡きお父さんが収集したレコードのコレクションなのかも)に立つ姿なのですが、痩せ衰え、髪が抜け落ちたその様子は、本当の病人のようでした。その時彼が持っていたのがMOS(1989年にモデルから映画デビューし、映画、ドラマで活躍。歌手としてもデビューして、タイ人のアイドルとして絶大な人気を誇った)のアルバムだったと思うのですが、タイ映画、特に製作会社GDH系の監督たちは、ノスタルジーを誘うような小道具を配するのが上手ですね。
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いろんな場所を巡り、いろんな時を巡り、人とは、友情とは、愛情とは、を考えさせてくれる作品です。とても濃密な内容なので、あと2、3回見直したいぐらいの充実ぶりと言っていいでしょう。見た当初は、元カノたちに何かを返していく、というのが、オークベープ・チュティモン主演作『ハッピー・オールド・イヤー』(2019)と似ているな、と思ったりしたのですが、本作の主人公ウードは品物を届けることで別のプレゼントを相手に渡していることがわかってきてからは、隠し扉を上手に配した脚本はすごい! と感心してしまいました。特に後半、ボスに関して観客が知らされていなかったことが次々に出てくる場面では、おお、また隠し扉が! とのけぞる思いでした。そんな、サスペンス映画のような気分も味わえる、かなりの力作です。サンダンス映画祭でプレミア上映され、ワールドシネマドラマティック部門でクリエイティブ・ビジョン審査員特別賞(長い! よーするに、すごく個性&独自性が光る映像作品、と評価されたわけですね)を受賞したというのも納得でしょう。ぜひ劇場でご覧になって、暑さを忘れて下さいね。最後に予告編を付けておきます。
『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』監督最新作!『プアン/友だちと呼ばせて』予告編 8月5日(金)公開【公式】
<追加情報/新宿武蔵野館より>
トークショー付き特別先行上映開催決定!
映画『プアン/友だちと呼ばせて』の公開を記念し来日中のバズ・プーンピリヤ監督と、バズ監督の前作『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』の大ファンで映画好きで知られる人気タレントこがけんさんとのトークショー付き特別先行上映会を新宿武蔵野館で開催することが決定いたしました!
この機会に是非ともご来場下さい。皆様のご来場を心よりお待ちしております。
【日時】8月2日(火)16:30の回上映後
【登壇者】バズ・プーンピリヤ監督/こがけんさん(お笑い芸人)
※登壇者は予定につき、予告なく変更となる場合がございます。予めご了承下さい。
【料金】1,900円(税込)均一/全席指定席
※ムビチケ使用不可
【発売日】オンライン予約販売:7月27日(水)12:00(正午)より
オンライン予約サイトはこちら(まだ三角マークなので予約可)
※残席がまだわずかながらあるようです。ご希望の方はトライしてみて下さいね。