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「夏の庭」湯本香樹実
同じ小学校に通う木山,山下,河辺の仲良し3人組.
いたずら心から始めた一人暮らし老人の見張り遊び.
出だしは,「子供とは残酷なものだ」,と思わせるストーリーです.
しかし,その怪しからぬ遊びを続けているうちに,老人との間の小さな接点が線となり,面となり,やがて「交流」とも呼べるやりとりが始まる.
そして,老人にも子供たちにも変化が生じてくる.
老人は見張られている事で生活の張りを取戻し,人間らしい活き活きとした暮らしが戻る.
子供たちには老人が持っている知識や経験,そしてさりげない会話を通して,老人の哀しい過去を知り,それが子供たちの心に人生の拡がりを感じさせてくれる.
同情とも共感とも言えない何かが彼らの心を満たしていく.
人が生きていくと言う事は,たいていそれ自体がつらいことなんだ.
でもつらいことと,つらいことの間に,それらの間を満たしてくれる暖かな何かがあるから生きていける.
ストーリの随所に出てくる昭和の香りも良い.(「三丁目の夕日」に通じるものがある)
これは,良い本にめぐり合えました.
今年読んだ本では「悼む人」に匹敵する宝石かもしれない.
児童文学関係の新人賞を総なめにしてますし,10カ国に翻訳され,外国でも賞をもらってます.
新人賞なんていわず,今すぐ直木賞上げちゃえば!