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大学の図書館で,何気なく手に取った久しぶりの恋愛小説.
だと,思ったんですが...
違ってました.
立派なミステリーですよ.
面白かった.
たまには恋愛小説でも,との想いが,良い意味で,見事に裏切られた感じです.
人生を踏み外してしまった二人の女性が主人公です.
一人は,弁護士事務所に勤める流実子(るみこ).
上司の女性弁護士のエッセイの代筆をするうちに,自分の文才に気付く流実子.
しかし,いくら頑張って執筆しても,自分の名前は全く世の中に出ないことに憤りを感じ,体を張って(編集者を誘惑し)自分の本を出そうと頑張ります.
しかし,上司の弁護士だけでなく出版社の編集者や同僚からも裏切られ,失意のうちに職まで失ってしまいます.
もう一人は一流商社に勤めるOL,侑里(ゆり).
同じ商社のエリートサラリーマンと婚約し,幸福な結婚が約束されていましたが,結婚直前に,昔の恋人と再会してしまいます.
その昔の恋人は,一時は演劇に志ざしていましたが,今は身を持ち崩していたのです.
しかし,そのどうしようもない元彼の「美貌」と頼りなげな様子に,焼けぼっくいに火がついてしまい,婚約を解消し,その元彼と同棲してしまうのです.
しかし,全てを捨てて飛び込んだ元彼との生活も,時間とともに色あせ,不幸の予感が忍び寄ってくるのでした.
一見不足のなさそうな二人の女性が,なぜ現在の幸せな生活を捨てて,無謀な世界に飛び込んでいくのか?,その心理の襞の移り変わりが丁寧に描かれます.
そして,全くつながりが無さそうな二人の悲惨なできごとが,ある一人の人物の仕業によって,1本につながっていくのです.
ここがミステリーです.
そして,それに気が付いた流実子と侑里は,偶然,同じことを思い立つのですが...
ここは,ねたばれ防止のため,秘密.
とにかく,女性がこの中途半端な男社会で,真の意味で幸福になるためには,何が重要かということを考える,大きなヒントが隠されているような気がします.
そのヒントは一つではないと思います.
あるいは,人それぞれに違うかもしれません.
常識的には悲惨そのものの二人ですが,この二人が出会うことで,これから生きて行こうという意欲を持つことができたのは間違いないのです.
そして,痛い思いをした経験によって,ポジティブな何かをもたらしてくれそうな予感が救いとなって物語は終わります.
私が読んだのは新潮文庫ですが,もともとは,マガジンハウス社刊行の「天使たちの誤算」.
「天使たち」から「恋人たち」に題名が変わっています.