なろう系小説では悪役として魔族や、魔族を率いるとされる魔王というのがよく登場します。魔族というのは、典型的にはヒト以外の妖怪変化の一族だったり、悪魔の集団だったりしますが、単に「魔族」と呼ばれているだけで普通の知的生命種族である作品も多いです。
例えば次の作品での魔族は、魔力が強くなっただけの人族、いわばSF定番の差別される超能力者一族と同様の存在です。
必勝ダンジョン運営方法
レベル1の今は一般人さん
さて表題の『ロメリア戦記』[Ref-1]の魔族は、自らを"竜の末裔"と名乗る、鱗で覆われ牙を持つ風貌の一族で、物語スタート時の10年前に、人族の住むアクシス大陸とは別の大陸(魔大陸ゴルディア)から「自分たちこそが大陸の覇者にふさわしい」という理由で侵略して来ました。まさしく宇宙SF定番の悪役、爬虫人類または恐竜人類です。しかも平均して戦闘能力は1体が人族2人分に相当するという[*1] 、肉体的には優れた種族なので、かなりの強敵です。
しかも個体の戦闘力に任せるだけかと思いきや、彼らの指揮官たちがなかなかに策略や指揮能力も優秀な者がそろっていて集団戦にも優れているというやっかいな敵で、子供向けヒーロー番組の悪役達のように毎週ごとに戦力を小出しにして正義の味方をわざわざ育ててくれるなんてことは間違ってもしてくれそうにはありません。そりゃあ個体が強いといっても彼ら同士の戦いなら、人族間の戦争と同じでしょうからね。そこを勝ち抜いて魔族の統一を果たした魔王ゼルギスの薫陶というものもあったかも知れません[*2]。
主人公ロメリアは個人としての戦闘能力はごく弱いが軍師としては素晴らしく優れているという設定ですが、敵側にも並みの優れた指揮官は多くて大変です。さらにはロメリアに匹敵する軍師であるライバルも登場して苦戦もします。三国志の諸葛孔明でも、もっと凡庸な相手ばかりだったような。しいて言えば周瑜だけど戦場で戦ってはいないし。
さらにアクシス大陸と魔大陸ゴルディアとの間の海は人類の帆船では未だ渡れないのですが、魔族は魔法を動力とする魔導船で渡ってきたという技術力の差まであります。まさしく人類の未だ知らない超光速宇宙船で攻めてきた爬虫類型宇宙人です。幸いにも人類を圧倒する魔法兵器というものは特になく、爆裂魔石というほぼ我々の現世界の爆薬と同じ役割の兵器が、双方ともにあるくらいです。ただ魔王ゼルギスは「自在に魔物を作り出すことに成功し、私達の大陸に大量の魔物を放った」とされています[1巻2章]。
ついでに言えば、進歩した魔法技術による高層建築や、見たこともない便利な生活魔道具にロメリア達が圧倒されて、「だめだアメリカには勝てない」と衝撃を受けるようなことはありませんでした。いや、そんな文明だったら人族を奴隷にしようなんて思わないよね。
そして魔王ゼルギスが物語スタート前にロメリアを含む5人の討伐パーティーに暗殺されたため、ゴルディアの魔族たちは混乱し、アクシス大陸の侵攻軍は孤立して取り残されてしまいました。しかしその残存戦力は未だ健在で、むしろ生き残るために必死、というより人類をなめていて内輪もめする余裕を見せている、というのが物語の状況です。
なおこの世界では、"竜であるとされる生物"としては、"獣脚竜(ラプトル)"[1巻4章]や"翼竜"[2巻4章]といった野生生物も登場します。テラノザウルスやプテラノドンを連想させるような生物達です。この世界では白亜紀末期の巨大隕石落下による絶滅は起きず、にもかかわらず哺乳類も進化して人族も進化したのでしょう[*3]。
同じ惑星に誕生しながらも異なる大陸に隔離されて異なる進化を遂げた2種の知的生命体。いかなる理由か一方的に侵略してきたとなっては人族も徹底抗戦するしかありません。とはいえ片方の徹底的殲滅などということが現実的かどうかも疑問なところです。果たして両種族の和解というか、妥協的平和は実現するのか? 幸いにも双方ともに相手の言葉は学んでいて意思疎通はでき、似たような価値観も持っているらしいことは、一筋の希望と言えるでしょう。
ただ竜人族の方にちょっとした弱点はありそうです。というのも侵略の目的のひとつが、人族の奴隷獲得であり、故郷の大陸でも連れてきた奴隷たちが大事な労働力となっているらしいのです。アクシス大陸に築かれた竜人の国では、奴隷を開放しようとすれば一般人が不満をもらすみたいな話も出てきます。こうなると竜人族の方は人族を殲滅することはできません。サムライアリのように奴隷アリがいないと餌も取れないというほどではないにせよ[Ref-3]、社会がいわば「奴隷依存症」になっているのですね。まあ古代ギリシャも古代ローマも奴隷依存症でしたからね。
なぜ人族を奴隷化しようなどと考えたのかというのも謎です。もしかしてゴルディア大陸にも、元から奴隷化された人族はいただけかも知れません。10年前から急に労働力が不足してきたというのも奇妙な話ですし。しかし物語の現時点ではアクシス大陸での侵略軍との戦いだけなので、ゴルディア大陸の詳しい事情はまだまだ不明です。
このように、登場する種族はハードSF的なリアルさですが、地水火風の魔法はしっかりと存在し、人族も竜人族も使う人は使います。そして主人公ロメリアはなかなかにユニークな魔法というかスキルというか、能力を2つ持っています。
一つ目は、戦場においていわゆるハイな状態になると、戦場のすべてを俯瞰して感知することができ、味方の兵士達に声を届ける(というか、意思を伝える)ことができてしまう、という能力です。軍師ロメリアには、まさにピッタリの相性の良い能力です。中世時代の戦場で、一人だけ自前のレーダーと無線機を持ってるようなものですから、とてつもないチート能力です。
もう一つは、その名も"恩寵"という"奇跡"です。
---------- 引用開始 -----------
ただ王子が旅立つと知ったその夜。王子のために教会でお祈りをしていた時、天から荘厳な声とともに一つの奇跡を与えられたのだ。
奇跡の名は『恩寵』。その効果は周囲にいる私の仲間に幸運と好調をもたらし、逆に敵対する者には不運と不調をもたらす。
自分自身にはなに一つ効果を発揮しないが、王子たちは常にこの『恩寵』の恩恵にあずかっていた。
---------- 引用終了 -----------
どちらの能力も普通の魔法とは違っており、現時点では世界中でロメリアだけに与えられた能力のようです。この世界では人族でも竜人族でも多くの者が魔法適性というものを持ち、彼らの使う魔法はよく知られて分類もなされていて、「普通の」という意味は、このようなよく知られている魔法という意味です。
普通の能力者としては"魔法使い"と"癒し手"がいます。"癒し手"は他の作品だと"治癒魔法の使い手"などと呼ばれて"魔法使い"の一種とされることが多いのですが、この世界では別扱いです。本当は治癒魔法という魔法と似た現象なのかも知れませんが、人族の宗教である"救世教"の教祖が"癒しの御子"と呼ばれていて[1巻1章]、この辺りが別扱いの理由かも知れません。で、どうやら"癒し手"の方が"魔法使い"よりも多いようです。もしかすると、軍事的に役立つほどに強い能力の"魔法使い"は少ない、というだけで、ごく些細な弱い魔法だけ使えるような人は結構多いという可能性もありますが、そんな話も今のところは出てきていません。
どちらも強さは人によりピンからキリまであって、魔王討伐パーティーの一人である救世教会の聖女エリザベートは、失くした手足も再生させるほどの[2巻4章]世界最高クラスの癒しの技を持っています。さらに彼女は傷や毒などを癒す力だけではなく、光の壁で物理的攻撃を防ぐという"『守護』の力"を持っています[2巻4章]。ここで「並みの癒し手では小さな光の膜しか作れず」と書かれていますので、"癒し手"というのは生体の治療という力の他に光の膜を作るという力も併せ持っいるようです。これは別に"光の魔法"というものではなくて『守護』なるものに分類されるようです。そしてエリザベートは、この2つの術しか使えません[2巻5章]。
魔法の方は、火、風、土、雷、などという種類があり、ロメリアの筆頭部下となるアルは火の魔法の、レイは風の魔法の最高クラスの魔法使いに成長していきます。特にレイは風の力で空を飛ぶことを覚えるのですが、これは極めて珍しいことらしく歴戦の竜人達も初見でほぼ不意を打たれるくらいに想定外の技術らしい。なお"魔法使い"が"魔法兵"として戦場で戦うのは魔族(竜人)も人族も普通のことです。
アルとレイの場合はそれぞれ1種の魔法しか使えませんが、やはり魔王討伐パーティーの一人である魔法使いエカテリーナともなると複数種の魔法を使いこなします。披露した術としては、人を透明化する隠密魔法である"無色の魔法(セロファ)"、光の玉を放つ"爆裂魔法"、"雷撃魔法"を[1巻1章]で、土魔法の一種とも思えるような『黄金郷』の魔法[2巻5章]、が書かれています。
つまるところ、魔法と守護の力(癒しと光の壁)とは、やはり異種の力と言えそうです。
そしてロメリアの"恩寵"は、魔法とも守護の力とも違う別の種類の能力ですが、その不思議な性質については次回に。
----------------------------
*1) 竜人を数えるときは"体"を使う。これは竜人たち自身も同じく自分達を"体"で数える描写がなされている。が、この場面は、エノルク語(竜人語)=>人族語=>日本語、という翻訳を経ているから注意が必要だ。エノルク語でもヒトと竜人に別の数詞を使うとすれば、竜人用数詞にヒト語で"体"を当てはめた可能性がある。で、エノルク語ではヒト用の数詞と獣用の数詞が同じだったりして(^_^)。
そもそも英語などの印欧諸語のように数詞のない言語もあるので、エノルク語に数詞があるかどうかも不明だ。英訳のときはどうするんだろうか、"体"と"人"と"匹"の区別は? まあ単に使わないだけとするしかないだろうからニュアンスは消えるなあ。
*2) 群雄割拠の遊牧騎馬民族を統一したジンギスカンが優れた軍略の持ち主だったという例もある[Ref-2]。
*3) 神様みたいなのがどこかから混ぜこぜに持ってきて置いといたという可能性はあるけれども、そういう無粋な設定はできるだけ無視しておこう。
で、二畳紀から白亜紀の中生代に登場した爬虫類たちだが、恐竜(鳥類は獣脚類に含まれる)、もっとも近縁な翼竜、少し広い分類の主竜類に含まれるワニ、の他にも、魚竜、モササウルス、トカゲやヘビ、そして哺乳類の祖先たる単弓類、などの多彩な種類がいて実際にどんな種が魔大陸ゴルディアの魔族へと進化したのかはわからない。彼らが自分達の祖先とみなしているのはむろん、彼らが実際の進化系統など知るはずもない現存種で単なる信仰でしかないのだろうが、それが実際にはどんな動物なのかは、未だはっきり描かれてはいない。強そうな獣脚竜(ラプトル)は有力候補かな?
----------------------------
Ref-1)
1-a) 有山リョウ『ロメリア戦記 ~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~』小学館 (2020/06/24)~4巻(2022/04/25)~外伝(2023/07/19)
1-b) web版
Ref-2) リデルハート『新版 世界史の名将たち』原書房(2009/12/24),ISBN-13:978-4562045167
1 チンギス・カンとスブタイ〔中世西欧を震撼した機動力と打撃力〕
2 マレシャル・ド・サックス〔軍事上の予言者〕
3 グスタヴァス・アドルファス〔近代戦の創始者〕
4 ヴァレンシュタイン〔歴史の謎〕
5 ウォルフ将軍〔合衆国の祖父〕
Ref-3)
3-a) 集団でサナギを拉致して「奴隷」にする…サムライアリの恐るべき生態とは?(長谷川英祐『働かないアリに意義がある』からの紹介)
例えば次の作品での魔族は、魔力が強くなっただけの人族、いわばSF定番の差別される超能力者一族と同様の存在です。
必勝ダンジョン運営方法
レベル1の今は一般人さん
さて表題の『ロメリア戦記』[Ref-1]の魔族は、自らを"竜の末裔"と名乗る、鱗で覆われ牙を持つ風貌の一族で、物語スタート時の10年前に、人族の住むアクシス大陸とは別の大陸(魔大陸ゴルディア)から「自分たちこそが大陸の覇者にふさわしい」という理由で侵略して来ました。まさしく宇宙SF定番の悪役、爬虫人類または恐竜人類です。しかも平均して戦闘能力は1体が人族2人分に相当するという[*1] 、肉体的には優れた種族なので、かなりの強敵です。
しかも個体の戦闘力に任せるだけかと思いきや、彼らの指揮官たちがなかなかに策略や指揮能力も優秀な者がそろっていて集団戦にも優れているというやっかいな敵で、子供向けヒーロー番組の悪役達のように毎週ごとに戦力を小出しにして正義の味方をわざわざ育ててくれるなんてことは間違ってもしてくれそうにはありません。そりゃあ個体が強いといっても彼ら同士の戦いなら、人族間の戦争と同じでしょうからね。そこを勝ち抜いて魔族の統一を果たした魔王ゼルギスの薫陶というものもあったかも知れません[*2]。
主人公ロメリアは個人としての戦闘能力はごく弱いが軍師としては素晴らしく優れているという設定ですが、敵側にも並みの優れた指揮官は多くて大変です。さらにはロメリアに匹敵する軍師であるライバルも登場して苦戦もします。三国志の諸葛孔明でも、もっと凡庸な相手ばかりだったような。しいて言えば周瑜だけど戦場で戦ってはいないし。
さらにアクシス大陸と魔大陸ゴルディアとの間の海は人類の帆船では未だ渡れないのですが、魔族は魔法を動力とする魔導船で渡ってきたという技術力の差まであります。まさしく人類の未だ知らない超光速宇宙船で攻めてきた爬虫類型宇宙人です。幸いにも人類を圧倒する魔法兵器というものは特になく、爆裂魔石というほぼ我々の現世界の爆薬と同じ役割の兵器が、双方ともにあるくらいです。ただ魔王ゼルギスは「自在に魔物を作り出すことに成功し、私達の大陸に大量の魔物を放った」とされています[1巻2章]。
ついでに言えば、進歩した魔法技術による高層建築や、見たこともない便利な生活魔道具にロメリア達が圧倒されて、「だめだアメリカには勝てない」と衝撃を受けるようなことはありませんでした。いや、そんな文明だったら人族を奴隷にしようなんて思わないよね。
そして魔王ゼルギスが物語スタート前にロメリアを含む5人の討伐パーティーに暗殺されたため、ゴルディアの魔族たちは混乱し、アクシス大陸の侵攻軍は孤立して取り残されてしまいました。しかしその残存戦力は未だ健在で、むしろ生き残るために必死、というより人類をなめていて内輪もめする余裕を見せている、というのが物語の状況です。
なおこの世界では、"竜であるとされる生物"としては、"獣脚竜(ラプトル)"[1巻4章]や"翼竜"[2巻4章]といった野生生物も登場します。テラノザウルスやプテラノドンを連想させるような生物達です。この世界では白亜紀末期の巨大隕石落下による絶滅は起きず、にもかかわらず哺乳類も進化して人族も進化したのでしょう[*3]。
同じ惑星に誕生しながらも異なる大陸に隔離されて異なる進化を遂げた2種の知的生命体。いかなる理由か一方的に侵略してきたとなっては人族も徹底抗戦するしかありません。とはいえ片方の徹底的殲滅などということが現実的かどうかも疑問なところです。果たして両種族の和解というか、妥協的平和は実現するのか? 幸いにも双方ともに相手の言葉は学んでいて意思疎通はでき、似たような価値観も持っているらしいことは、一筋の希望と言えるでしょう。
ただ竜人族の方にちょっとした弱点はありそうです。というのも侵略の目的のひとつが、人族の奴隷獲得であり、故郷の大陸でも連れてきた奴隷たちが大事な労働力となっているらしいのです。アクシス大陸に築かれた竜人の国では、奴隷を開放しようとすれば一般人が不満をもらすみたいな話も出てきます。こうなると竜人族の方は人族を殲滅することはできません。サムライアリのように奴隷アリがいないと餌も取れないというほどではないにせよ[Ref-3]、社会がいわば「奴隷依存症」になっているのですね。まあ古代ギリシャも古代ローマも奴隷依存症でしたからね。
なぜ人族を奴隷化しようなどと考えたのかというのも謎です。もしかしてゴルディア大陸にも、元から奴隷化された人族はいただけかも知れません。10年前から急に労働力が不足してきたというのも奇妙な話ですし。しかし物語の現時点ではアクシス大陸での侵略軍との戦いだけなので、ゴルディア大陸の詳しい事情はまだまだ不明です。
このように、登場する種族はハードSF的なリアルさですが、地水火風の魔法はしっかりと存在し、人族も竜人族も使う人は使います。そして主人公ロメリアはなかなかにユニークな魔法というかスキルというか、能力を2つ持っています。
一つ目は、戦場においていわゆるハイな状態になると、戦場のすべてを俯瞰して感知することができ、味方の兵士達に声を届ける(というか、意思を伝える)ことができてしまう、という能力です。軍師ロメリアには、まさにピッタリの相性の良い能力です。中世時代の戦場で、一人だけ自前のレーダーと無線機を持ってるようなものですから、とてつもないチート能力です。
もう一つは、その名も"恩寵"という"奇跡"です。
---------- 引用開始 -----------
ただ王子が旅立つと知ったその夜。王子のために教会でお祈りをしていた時、天から荘厳な声とともに一つの奇跡を与えられたのだ。
奇跡の名は『恩寵』。その効果は周囲にいる私の仲間に幸運と好調をもたらし、逆に敵対する者には不運と不調をもたらす。
自分自身にはなに一つ効果を発揮しないが、王子たちは常にこの『恩寵』の恩恵にあずかっていた。
---------- 引用終了 -----------
どちらの能力も普通の魔法とは違っており、現時点では世界中でロメリアだけに与えられた能力のようです。この世界では人族でも竜人族でも多くの者が魔法適性というものを持ち、彼らの使う魔法はよく知られて分類もなされていて、「普通の」という意味は、このようなよく知られている魔法という意味です。
普通の能力者としては"魔法使い"と"癒し手"がいます。"癒し手"は他の作品だと"治癒魔法の使い手"などと呼ばれて"魔法使い"の一種とされることが多いのですが、この世界では別扱いです。本当は治癒魔法という魔法と似た現象なのかも知れませんが、人族の宗教である"救世教"の教祖が"癒しの御子"と呼ばれていて[1巻1章]、この辺りが別扱いの理由かも知れません。で、どうやら"癒し手"の方が"魔法使い"よりも多いようです。もしかすると、軍事的に役立つほどに強い能力の"魔法使い"は少ない、というだけで、ごく些細な弱い魔法だけ使えるような人は結構多いという可能性もありますが、そんな話も今のところは出てきていません。
どちらも強さは人によりピンからキリまであって、魔王討伐パーティーの一人である救世教会の聖女エリザベートは、失くした手足も再生させるほどの[2巻4章]世界最高クラスの癒しの技を持っています。さらに彼女は傷や毒などを癒す力だけではなく、光の壁で物理的攻撃を防ぐという"『守護』の力"を持っています[2巻4章]。ここで「並みの癒し手では小さな光の膜しか作れず」と書かれていますので、"癒し手"というのは生体の治療という力の他に光の膜を作るという力も併せ持っいるようです。これは別に"光の魔法"というものではなくて『守護』なるものに分類されるようです。そしてエリザベートは、この2つの術しか使えません[2巻5章]。
魔法の方は、火、風、土、雷、などという種類があり、ロメリアの筆頭部下となるアルは火の魔法の、レイは風の魔法の最高クラスの魔法使いに成長していきます。特にレイは風の力で空を飛ぶことを覚えるのですが、これは極めて珍しいことらしく歴戦の竜人達も初見でほぼ不意を打たれるくらいに想定外の技術らしい。なお"魔法使い"が"魔法兵"として戦場で戦うのは魔族(竜人)も人族も普通のことです。
アルとレイの場合はそれぞれ1種の魔法しか使えませんが、やはり魔王討伐パーティーの一人である魔法使いエカテリーナともなると複数種の魔法を使いこなします。披露した術としては、人を透明化する隠密魔法である"無色の魔法(セロファ)"、光の玉を放つ"爆裂魔法"、"雷撃魔法"を[1巻1章]で、土魔法の一種とも思えるような『黄金郷』の魔法[2巻5章]、が書かれています。
つまるところ、魔法と守護の力(癒しと光の壁)とは、やはり異種の力と言えそうです。
そしてロメリアの"恩寵"は、魔法とも守護の力とも違う別の種類の能力ですが、その不思議な性質については次回に。
----------------------------
*1) 竜人を数えるときは"体"を使う。これは竜人たち自身も同じく自分達を"体"で数える描写がなされている。が、この場面は、エノルク語(竜人語)=>人族語=>日本語、という翻訳を経ているから注意が必要だ。エノルク語でもヒトと竜人に別の数詞を使うとすれば、竜人用数詞にヒト語で"体"を当てはめた可能性がある。で、エノルク語ではヒト用の数詞と獣用の数詞が同じだったりして(^_^)。
そもそも英語などの印欧諸語のように数詞のない言語もあるので、エノルク語に数詞があるかどうかも不明だ。英訳のときはどうするんだろうか、"体"と"人"と"匹"の区別は? まあ単に使わないだけとするしかないだろうからニュアンスは消えるなあ。
*2) 群雄割拠の遊牧騎馬民族を統一したジンギスカンが優れた軍略の持ち主だったという例もある[Ref-2]。
*3) 神様みたいなのがどこかから混ぜこぜに持ってきて置いといたという可能性はあるけれども、そういう無粋な設定はできるだけ無視しておこう。
で、二畳紀から白亜紀の中生代に登場した爬虫類たちだが、恐竜(鳥類は獣脚類に含まれる)、もっとも近縁な翼竜、少し広い分類の主竜類に含まれるワニ、の他にも、魚竜、モササウルス、トカゲやヘビ、そして哺乳類の祖先たる単弓類、などの多彩な種類がいて実際にどんな種が魔大陸ゴルディアの魔族へと進化したのかはわからない。彼らが自分達の祖先とみなしているのはむろん、彼らが実際の進化系統など知るはずもない現存種で単なる信仰でしかないのだろうが、それが実際にはどんな動物なのかは、未だはっきり描かれてはいない。強そうな獣脚竜(ラプトル)は有力候補かな?
----------------------------
Ref-1)
1-a) 有山リョウ『ロメリア戦記 ~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~』小学館 (2020/06/24)~4巻(2022/04/25)~外伝(2023/07/19)
1-b) web版
Ref-2) リデルハート『新版 世界史の名将たち』原書房(2009/12/24),ISBN-13:978-4562045167
1 チンギス・カンとスブタイ〔中世西欧を震撼した機動力と打撃力〕
2 マレシャル・ド・サックス〔軍事上の予言者〕
3 グスタヴァス・アドルファス〔近代戦の創始者〕
4 ヴァレンシュタイン〔歴史の謎〕
5 ウォルフ将軍〔合衆国の祖父〕
Ref-3)
3-a) 集団でサナギを拉致して「奴隷」にする…サムライアリの恐るべき生態とは?(長谷川英祐『働かないアリに意義がある』からの紹介)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます