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グルーの逆説-4- third son

2010-05-29 06:47:19 | 数学基礎論/論理学
 本テーマについての前回(2010/03/26)の記事で述べたように、グッドマンが提出した逆説の英文でのオリジナルは以下のようになります。

  "X is grue" if X is green and was examined before time t, or blue and was not examined before t.

 ここの "or" が "and" であると、時刻t以前にグリーンと確認された同じ物が時刻t以降にブルーになる、つまり同じ物の色が時刻tで変化することになります。しかし "or" の場合には、時刻t以前にグリーンと確認された物は時刻t以降もグリーンでありかつグルーです。ところが時刻t以降に初めて確認された物の場合には、ブルーの物がグルーであるという定義がされているのです*1)

 さて逆説が生じるのは、「全てのエメラルドはグリーンだ」および「全てのエメラルドはグルーだ」という命題を帰納的に推測する場合です*2)。もっと具体的には、例えば箱に入ったままで一度も調べられていないエメラルドがあり、時刻t以降に箱を開けたときに観察されるこのエメラルドの色を推定する場合です。時刻t以前の観察でこれらの命題が成立していたとすれば、時刻t以降であってもこれらの命題が成立する、というのが帰納による推測です。しかしグッドマンの定義によれば時刻t以降は2つの命題は両立しません。

 これに対する私の回答は前回述べたように、そもそもグッドマンの設定がある命題についての帰納を無条件に否定しているからだ、というものです。時刻tで翻訳が変化する述語(またはカテゴリー)を定義するのは自由ですが、対象Xがその述語に当てはまるかどうかを判定するのに未来の事象や観察していない事象を使うことは誰にもできません。もし翻訳について帰納の成立を認めるならば、グルーとグリーンはいつまでも同義語のままだし、グルーとグリーンの関係をグッドマンの設定通りとするならば、時刻t以前の観察では対象Xがグルーなのかグリーンなのかは判定不可能です

 そもそもグルー/ブリーン語人にしても英語人にしても色を表す述語は、「その物体からの光が人の色覚にある特定の刺激を与えること」として定義されるはずです。ここからはグッドマンの定義は決して出てきません。どんな述語が投射可能かどうかは意味を考慮することで決まるものなのです。そこに論理的な原理など求めても何もないのです。

 投射可能な述語の決定の難しさについてはグッドマンは別の例も出しています。

1. a given piece of copper conducting electricity increases the credibility of statements asserting that other pieces of copper conduct electricity
 ある銅片が電気伝導性であることは他の銅片が電気伝導性であるという命題の確実性を増す
2. the fact that a given man in a room is a third son does not increase the credibility of statements asserting that other men in this room are third sons
 部屋の中のある男が三男であることは、その部屋の中の他の男が三男であるという命題の確実性を増さない

 2に関連して、「部屋の中のある男が寒がっていれば、その部屋の中の他の男も寒いだろう」という推測は確実であるというのがありました。
 まあ、中間的な色々な例が出せますよね。部屋の中のある男が、「片目である」「赤毛である」「咳をしている」「眠っている」「正装している」・・・。
 うむ、2の場合でも、「部屋の中の全員はあるクラブの会員である」という情報があったらどうでしょうか? もしかしたら全員が「世界三男友の会」のメンバーかも知れないという可能性が高くなりそうですね(^_^)


*1) こうなると前回述べた「人の目に触れていないもの」で定義するバージョンもグッドマンの真意とは異なりそうです。いつまでも確認できないのでは定義できませんから。

*2) このとき、まず調査対象がエメラルドであることを色以外の属性(形、硬度、音速、電気伝導度、元素分析、匂い、などなど)の観察から判定できることが前提になります。ていうか、実はエメラルドの特徴はグリーンであることでして(^_^)、ブルーのエメラルドはもはやエメラルドではなくてアクアマリンなのでした。ブルーのエメラルドという設定はグッドマンのしゃれだったらしいです。(Ref-1による)


Ref-1) ウィリアム・パウンドストーン;松浦俊輔(訳)『パラドックス大全-世にも不思議な逆説パズル-』青土社(2004/09)

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