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等価原理の不成立の意味

2010-05-21 06:43:05 | 物理化学
 一般相対性理論の基本ともなる等価原理は重力質量と慣性質量が一致すると表現されます*1)。等価原理の確認実験としてはエトベッシュの実験が有名です。この実験では例えば金とアルミニウムについて重力質量と慣性質量との比が異なるか否かを調べています(Ref-1)。つまり重力質量と慣性質量との比が物質の種類によらないことを証明しようとしているのです。

 ところで実験で扱えるような通常の物質では質量の大部分が陽子と中性子で占められています。つまり等価原理の確認とは、実質的には陽子と中性子で重力質量と慣性質量との比が同じかどうかの確認ということになります。さらに、中性子は陽子と電子とニュートリノに分解します。ニュートリノの質量は極めてゼロに近いことを考えると、陽子と中性子で重力質量と慣性質量との比が同じかどうかを確認することは、陽子と電子でどうなのかということになります。ほぼ1700倍もの質量比のものの間の違いを調べるのですから、なかなか難しそうです。

 と、ここまで論じて来た道筋には落とし穴があります(^_^)。各素粒子の質量は次のとおりです。
  陽子 1.6726231×10^-27 = 1672.6×10^-30
  中性子 1.6749286×10^-27 = 1674.9×10^-30
  電子 9.1093897×10^-31 = 0.910×10^-30

 中性子の質量は陽子の質量と電子の質量の和に一致しません。余分な質量がどこかから加わっています。中性子が崩壊する時には、この余分な質量がエネルギー(発生する3つの素粒子の運動エネルギー)に変化します。すると、この余分なエネルギーに相当する質量での重力質量と慣性質量との比が、素粒子自体におけるそれとは異なっているかも知れません。

 おなじようなことが陽子と中性子で作られている原子核についても言えます。多くの原子核の質量は、構成成分である陽子と中性子の質量の和よりも小さくなります。この差分は質量欠損と呼ばれます。もしかしたら質量欠損部分の重力質量と慣性質量との比が、素粒子自体におけるそれとは異なっているかも知れません。また質量欠損は核力と陽子同士の静電反発によるポテンシャルエネルギーのものですから、中性子における陽子と電子との結合エネルギーとは源が異なっており、両者の重力質量と慣性質量との比が異なる可能性は十分に考えられます。もっと詳しくは、もしも重力質量と慣性質量が違っていたという実験結果が出たときに、理論物理学者のみなさんにお任せしましょう。


参考文献
Ref-1 広瀬立成『質量の起源』講談社(1994/02),2章

*1) 正確には等価原理には3種類あるようだ。ウィキペデイアの記事を参照してほしい。

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