共通参考文献はこちら
ゲーデルの定理のシリーズでは古典論理体系について具体的に詳しくは触れませんでした。これらについては以下の文献などに記載があります。
主な論理公式の紹介
(主なとは、よく知られた、よく使われる、といった意味)
[Ref-1 p168,172]
ヒルベルト流の論理体系
[Ref-3-p9-11]
ゲンツェン流の論理体系(自然演繹、NKと略称される)
[Ref-4 p50(3章), web-2a]
その他の論理体系の紹介。スマリヤンによる。
[s2-p100(7章)]
以下の記事では、これらの意味付けのようなものを私見も交えながら書いてゆきます。なおゲーデルの定理のシリーズとは違い、以下の議論では特に必要のない限り命題とそれを記述する論理式とを字体などによる明確な区別はしません。
まずは我々が普通に推論をするときによく使うと思われる推論法則を私の独断で選んでみます。これらは一般的に妥当な推論だと考えられているものです。妥当である根拠を示せと正面から問われると困ってしまいますが。なお名称については注をごらんください[*1,*2]。
1.当たり前すぎて意識しにくい
1-1) A→A 反射律
1-2) A∧B ≡ B∧A ∧の対称律、可換律
1-3) A∨B ≡ B∨A ∨の対称律、可換律
1-4) A∧B |--- A ∧除去
1-5) A∧B |--- B ∧除去
1-6) A |--- A∨B ∨導入
1-7) B |--- A∨B ∨導入
1-8) ∀xA(x) |--- A(t) ∀除去、変数の特殊化[Ref-1 p168]
1-9) A(t) |--- ∃xA(x) ∃導入
なお、1-8、1-9でtは任意の対象式
2.誰もが無意識に使うほど
2-1) ¬(A∧¬A) 矛盾は許されない
2-2) A∨¬A 排中律
2-3) ¬¬A ≡ A 二重否定
2-4) A、A→B |--- B 三段論法、正格法(modus ponens)
2-5) A→B、B→C |--- A→C 仮言三段論法(hypothetical syllogism)
3.疲れてると少し迷うかも
3-1) A∨B、A→C、B→C |--- C 場合分け論法、選言三段論法(disjunctive syllogism)
3-2) A→B ¬A→C |--- B∨C 両刀論法(dilemma)[R1-p157,191]
3-3a) ¬A→⊥ |--- A 背理法(modus tollens)
3-3b) ¬A→A |--- A 背理法
3-4) A→B ≡ ¬B→¬A 対偶(contraposition)
3-5) A→(B→C) |--- B→(A→C) 前提は順序によらない(前提可換)
4.様々な同値関係(すぐにはわかりにくい)
4-1) A∧B ≡ ¬(A→¬B)
4-2) A∨B ≡ ¬(¬A→B)
4-3) A∧B ≡ ¬(¬A∨¬B)
4-4) A∨B ≡ ¬(¬A∧¬B)
4-5) A→B ≡ ¬(A∧¬B)
4-6) A→B ≡ ¬(¬A∨B)
4-7) ∀xA(x) ≡ ¬(∃x¬A(x))
4-8) ∃xA(x) ≡ ¬(∀x¬A(x))
5.分配法則(すぐにはわかりにくい)
5-1) A→(B→C) ≡ (A→B)→(A→C)
5-2) A∧(B∨C) ≡ (A∧B)∨(A∧C)
5-3) A∨(B∧C) ≡ (A∨B)∧(A∨C)
6.ド・モルガン則(De Morgan's laws)(すぐにはわかりにくい)
6-1) ¬(A∧B) ≡ ¬A∨¬B 二重否定を介して、4-3と同じ
6-2) ¬(A∨B) ≡ ¬A∧¬B 二重否定を介して、4-4と同じ
6-3) ¬∀xA(x) ≡ ∃x¬A(x) 二重否定を介して、4-7と同じ
6-4) ¬∃xA(x) ≡ ∀x¬A(x) 二重否定を介して、4-8と同じ
なお、1-8、1-9でtは任意の対象式と書きましたが、ちょっとくどい解説をしますと、tという記号は形式的体系を記述する言語の実際の記号ではなく、tの場所に任意の対象式を当てはめるという意味を示しているのです[*3]。「∀除去」と「∃導入」は自然言語で記述すれば次のようになり、これはまさに∀と∃の定義そのものと言ってもよいでしょう。
全ての対象xでA(x)ならば、任意の対象tについてA(t)である。
If A(x) with all the objects x, then A(t) with any object t.
任意のある対象tについてA(t)ならば、A(x)である対象xが存在する。
If A(t) with any one object t, then the object x which A(x) exists.
ちょっとくどい解説をしますと、どちらの文章にも「任意の[ある]対象tについてA(t)」という文がありますが、その示す状況は異なります。「∀除去」では「どの対象tを選んでも、A(t)である」のですが、「∃導入」では「ひとつの対象tを選んだときA(t)のことも¬A(t)のこともあるかも知れないが、もしA(t)だったとしたら、それがどのtであったとしても」という意味になるのです。この微妙な違いは形式的言語でも表現しにくいですね[*4]。
さて私の実感では、数学的証明、その他の科学や日常での論理的推論に必要なものは上記の1~3のグループの法則までです。4~6のグループの法則はプール演算や論理法則の問題としてのおもしろさはありますが、実戦での推論に使う必然性はまずないだろうと考えます。つまり1~3のグループの法則をきちんと理解し、間違いなく適用できれば論理的推論はできるのです。
上記の推論法則で量化子(quantifier)、つまり∀と∃を含むものは述語論理法則、それ以外は命題論理法則になりますが、これらの妥当と思われる推論法則や定理を誘導するのに必要な最小限の公理は何かが問題となります。ユークリッド幾何学の公理系のように述語論理体系の公理系を求めるという問題です。しかしここで、上記の例は公理や定理というよりも推論法則として示されています。命題論理や述語論理などの論理体系における、推論法則と定理との関係を整理しておく必要がありそうです。
続く
--------
*1) ○導入、○除去、という名称はゲンツェン流の論理体系での名称である。
*2) 特に伝統的論理学(数学的論理学ではなくアリストテレス以来の西洋論理学)では、定言(categorical)、仮言(hypothetical)、選言(disjunctive)という言葉がよく使われ、「○言的立言」「○言三段論法」などの言葉がある。仮言は「もし~ならば」すなわち論理記号「→」を使う表現であり、選言は論理記号「∨」を使う表現だと思えばよい。東京大学の清水哲郎のサイトからの三段論法(syllogismus)が適切に詳しい。ただ定言に関してはよく使われる例がわかりやすい。すなわち「すべての人間は死ぬ(大前提)、ソクラテスは人間だ(小前提)、ゆえにソクラテスは死ぬ(結論)」。これはまさにカテゴライズによる論理であり、仮言と対照をなすかのような定言という訳語は実は少々ミスリーディングかも知れない。対照どころか定言三段論法と仮言三段論法とは、構造的には同一である。
*3) 要は変数xに対象式tを代入した式ということであり、前原の本[Ref-3, P7]では代入であることを明示するのに下図のような記法を使っている。
*4) 「任意の」という言葉にはこのような多義性があり、論理的に厳密に書かれているはずの数学の本などでも意味が取りづらいことが時々ある。困ったものだ。
ゲーデルの定理のシリーズでは古典論理体系について具体的に詳しくは触れませんでした。これらについては以下の文献などに記載があります。
主な論理公式の紹介
(主なとは、よく知られた、よく使われる、といった意味)
[Ref-1 p168,172]
ヒルベルト流の論理体系
[Ref-3-p9-11]
ゲンツェン流の論理体系(自然演繹、NKと略称される)
[Ref-4 p50(3章), web-2a]
その他の論理体系の紹介。スマリヤンによる。
[s2-p100(7章)]
以下の記事では、これらの意味付けのようなものを私見も交えながら書いてゆきます。なおゲーデルの定理のシリーズとは違い、以下の議論では特に必要のない限り命題とそれを記述する論理式とを字体などによる明確な区別はしません。
まずは我々が普通に推論をするときによく使うと思われる推論法則を私の独断で選んでみます。これらは一般的に妥当な推論だと考えられているものです。妥当である根拠を示せと正面から問われると困ってしまいますが。なお名称については注をごらんください[*1,*2]。
1.当たり前すぎて意識しにくい
1-1) A→A 反射律
1-2) A∧B ≡ B∧A ∧の対称律、可換律
1-3) A∨B ≡ B∨A ∨の対称律、可換律
1-4) A∧B |--- A ∧除去
1-5) A∧B |--- B ∧除去
1-6) A |--- A∨B ∨導入
1-7) B |--- A∨B ∨導入
1-8) ∀xA(x) |--- A(t) ∀除去、変数の特殊化[Ref-1 p168]
1-9) A(t) |--- ∃xA(x) ∃導入
なお、1-8、1-9でtは任意の対象式
2.誰もが無意識に使うほど
2-1) ¬(A∧¬A) 矛盾は許されない
2-2) A∨¬A 排中律
2-3) ¬¬A ≡ A 二重否定
2-4) A、A→B |--- B 三段論法、正格法(modus ponens)
2-5) A→B、B→C |--- A→C 仮言三段論法(hypothetical syllogism)
3.疲れてると少し迷うかも
3-1) A∨B、A→C、B→C |--- C 場合分け論法、選言三段論法(disjunctive syllogism)
3-2) A→B ¬A→C |--- B∨C 両刀論法(dilemma)[R1-p157,191]
3-3a) ¬A→⊥ |--- A 背理法(modus tollens)
3-3b) ¬A→A |--- A 背理法
3-4) A→B ≡ ¬B→¬A 対偶(contraposition)
3-5) A→(B→C) |--- B→(A→C) 前提は順序によらない(前提可換)
4.様々な同値関係(すぐにはわかりにくい)
4-1) A∧B ≡ ¬(A→¬B)
4-2) A∨B ≡ ¬(¬A→B)
4-3) A∧B ≡ ¬(¬A∨¬B)
4-4) A∨B ≡ ¬(¬A∧¬B)
4-5) A→B ≡ ¬(A∧¬B)
4-6) A→B ≡ ¬(¬A∨B)
4-7) ∀xA(x) ≡ ¬(∃x¬A(x))
4-8) ∃xA(x) ≡ ¬(∀x¬A(x))
5.分配法則(すぐにはわかりにくい)
5-1) A→(B→C) ≡ (A→B)→(A→C)
5-2) A∧(B∨C) ≡ (A∧B)∨(A∧C)
5-3) A∨(B∧C) ≡ (A∨B)∧(A∨C)
6.ド・モルガン則(De Morgan's laws)(すぐにはわかりにくい)
6-1) ¬(A∧B) ≡ ¬A∨¬B 二重否定を介して、4-3と同じ
6-2) ¬(A∨B) ≡ ¬A∧¬B 二重否定を介して、4-4と同じ
6-3) ¬∀xA(x) ≡ ∃x¬A(x) 二重否定を介して、4-7と同じ
6-4) ¬∃xA(x) ≡ ∀x¬A(x) 二重否定を介して、4-8と同じ
なお、1-8、1-9でtは任意の対象式と書きましたが、ちょっとくどい解説をしますと、tという記号は形式的体系を記述する言語の実際の記号ではなく、tの場所に任意の対象式を当てはめるという意味を示しているのです[*3]。「∀除去」と「∃導入」は自然言語で記述すれば次のようになり、これはまさに∀と∃の定義そのものと言ってもよいでしょう。
全ての対象xでA(x)ならば、任意の対象tについてA(t)である。
If A(x) with all the objects x, then A(t) with any object t.
任意のある対象tについてA(t)ならば、A(x)である対象xが存在する。
If A(t) with any one object t, then the object x which A(x) exists.
ちょっとくどい解説をしますと、どちらの文章にも「任意の[ある]対象tについてA(t)」という文がありますが、その示す状況は異なります。「∀除去」では「どの対象tを選んでも、A(t)である」のですが、「∃導入」では「ひとつの対象tを選んだときA(t)のことも¬A(t)のこともあるかも知れないが、もしA(t)だったとしたら、それがどのtであったとしても」という意味になるのです。この微妙な違いは形式的言語でも表現しにくいですね[*4]。
さて私の実感では、数学的証明、その他の科学や日常での論理的推論に必要なものは上記の1~3のグループの法則までです。4~6のグループの法則はプール演算や論理法則の問題としてのおもしろさはありますが、実戦での推論に使う必然性はまずないだろうと考えます。つまり1~3のグループの法則をきちんと理解し、間違いなく適用できれば論理的推論はできるのです。
上記の推論法則で量化子(quantifier)、つまり∀と∃を含むものは述語論理法則、それ以外は命題論理法則になりますが、これらの妥当と思われる推論法則や定理を誘導するのに必要な最小限の公理は何かが問題となります。ユークリッド幾何学の公理系のように述語論理体系の公理系を求めるという問題です。しかしここで、上記の例は公理や定理というよりも推論法則として示されています。命題論理や述語論理などの論理体系における、推論法則と定理との関係を整理しておく必要がありそうです。
続く
--------
*1) ○導入、○除去、という名称はゲンツェン流の論理体系での名称である。
*2) 特に伝統的論理学(数学的論理学ではなくアリストテレス以来の西洋論理学)では、定言(categorical)、仮言(hypothetical)、選言(disjunctive)という言葉がよく使われ、「○言的立言」「○言三段論法」などの言葉がある。仮言は「もし~ならば」すなわち論理記号「→」を使う表現であり、選言は論理記号「∨」を使う表現だと思えばよい。東京大学の清水哲郎のサイトからの三段論法(syllogismus)が適切に詳しい。ただ定言に関してはよく使われる例がわかりやすい。すなわち「すべての人間は死ぬ(大前提)、ソクラテスは人間だ(小前提)、ゆえにソクラテスは死ぬ(結論)」。これはまさにカテゴライズによる論理であり、仮言と対照をなすかのような定言という訳語は実は少々ミスリーディングかも知れない。対照どころか定言三段論法と仮言三段論法とは、構造的には同一である。
*3) 要は変数xに対象式tを代入した式ということであり、前原の本[Ref-3, P7]では代入であることを明示するのに下図のような記法を使っている。
*4) 「任意の」という言葉にはこのような多義性があり、論理的に厳密に書かれているはずの数学の本などでも意味が取りづらいことが時々ある。困ったものだ。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます