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ゲーデルの定理-3.4- 第1不完全性定理の証明(証明を意味する論理式)

2015-11-29 07:50:49 | 数学基礎論/論理学
前回からの続き

1.「論理式は証明できる」という意味の、命題と論理式
 任意の自然数aについての次のような1項関係Bew(a)を考えます。これは、「aをゲーデル数とする論理式は証明できる」という意味を持ちますが、あくまでも自然数の世界の中での関係です。Bew(a)は変数xを使えば1項関係Bew(x)となります。なお、"Bew"という表記はRef3,7からの採用です。
 定義3.3-1a a=~~ かつ |--- ならば、Bew(a)は真
 定義3.3-1b さもなくば*1、Bew(a)は偽

 そして1項関係Bew(x)を記述する論理式をBew(x)とします。xにaを代入すればBew(a)となります。すると命題3.1-2a,bは次の命題に置き換えられます。以下で~~~~は特定の自然数である~~や~~を記述する定数項です。なお、考察対象である形式的体系で論理式Bew(x)がうまく構成できることは別途証明しなければなりません

 命題3.3-1a  |--- が真ならば、 |--- Bew(~~)
   前原の本の定理8.1[Ref-4) p126]に当たる。
 命題3.3-1b  |--- Bew(~~) ならば、 |---
   前原の本の定理8.2[Ref-4) p129]に当たる。

 また式3.1-1とその対偶の式3.1-2は次のようになります。
 式3.3-1   U⇔¬Bew(~~)
 式3.3-1a  U→¬Bew(~~)
 式3.3-1b  ¬Bew(~~)→U
 式3.3-2   ¬U⇔Bew(~~)
 式3.3-2a  ¬U→Bew(~~)
 式3.3-2b  Bew(~~)→¬U

 これで式3.3-1,2を満たす論理式が存在すれば、前回記事証明3.1-2が成立します。すると残る問題はの存在証明と、Bew(x)の具体的な構成、および命題3.3-1aと命題3.3-1bの証明です。

2.「論理式の証明列はである」という意味の、命題と論理式
 Bew(x)の構成のためにまず、任意の自然数b,aについての次のような2項関係B(b,a)を考えます。これは、「bは、aをゲーデル数とする論理式の証明列のゲーデル数である」という意味を持ちます。
   定義3.3-2a a=~~ かつ b=~~ かつ の証明列ならば、B(b,a)は真
   定義3.3-2b さもなくば*2、B(b,a)は偽

 なお証明できるか否かは公理に依存します。そこで公理の集合をとして、その公理系での関係であることを明確に示すためにB(b,a)といった表記もできます[Ref-4]。しかし本記事の一連の議論の間はは固定されていることが多いので、不要な場合は省略することにします。

 さて2項関係B(y,x)を記述する論理式B(y,x)が構成できて、B(y,x)は論理式B(y,x)で数値別に表現されること、つまり任意の自然数b,aをy,xに代入したとき下記が成り立つことが証明されています。実はこの証明はなかなか手間のかかるところなのですが、機会があれば後ほど書いてみましょう。
   命題3.3-2a B(b,a)が成立するならば、 |--- B(b,a)
   命題3.3-2b B(b,a)が成立しないならば、|--- ¬B(b,a)

 すると、先ほど考えた論理式Bew(a)は次のように定義できます。「a=~~である論理式が証明できる」ということは「の証明列が存在する」ということであり、「証明列が存在する」ということは「y=~~が存在する」ということだからです。
 定義3.3-3 Bew(a)∃yB(y,a)

 さてこの定義のBew(a)について命題3.3-1aは成立するでしょうか?

証明3.3-1
 1) |--- が真と仮定する。つまり、論理式の世界でが証明できるとする。
 2) それは具体的な証明列が存在することである。
 3) するとb=~~が存在しB(b,a)が成立する。(a=~~)
 4) 命題3.3-2aより、|--- B(b,a)である。
 5) ゆえに古典述語論理体系のに関する推論規則*3より |--- ∃yB(y,a)である。

 さらに次の命題も成立すればBew(a)はBew(a)により表現されていることになりますが、これは成立しません。
   命題3.3-1c Bew(a)が偽(つまり |-x- ) ならば、|--- ¬Bew(a)

 すなわちBew(a)が偽の場合には、「|-x- ¬Bew(a)かつ|-x- Bew(a)」という場合もありうるからです。命題3.3-1cは成り立たないが命題3.3-1aだけ成り立つことを、前原は「(論理式Bew(a)は関係Bew(a)を)表明している」と書いていました。「表現している」ではなくて。

 次に命題3.3-1bは成立するでしょうか? 「ゲーデルの定理-3.1-」の記事証明3.1-1で示したように、命題3.3-1cが成立すれば命題3.3-1bも成立しますが、そうではないので、命題3.3-1bだけを別に証明しなくてはなりません。実はそのためには、10/09の記事で紹介したω無矛盾(ω-consistent)という性質が必要になります。

 まずBew(a)すなわち∃yB(y,a)¬∀y(¬B(y,a))と同値です。

証明3.3-2
 1) |-x- と仮定する。
 1-1) 任意のbにつきB(b,a)は成立しない。
 1-2) |--- ¬B(b,a)  ∵命題3.3-2b
 1-3) |--- ∀y(¬B(y,a)) ∵ω無矛盾ならば
 1-4) |--- ¬∃y(B(y,a)) ∵同値に書き換え
 1-5) |-x- ∃y(B(y,a)) ∵無矛盾ならば
 2) |-x- ならば、|-x- ∃y(B(y,a))
 3) |--- ∃y(B(y,a)) ならば、|---  ∵2)の対偶

 次は式3.3-1を満たす論理式の存在証明ですが、これにはゲーデルの対角化定理(diagonalization theorem)というものが使われます。

 続く

-------------
*1) 蛇足だが、大部分の自然数aにおいて、aはゲーデル数ではないのでBew(a)は偽である。ただしこれはゲーデル数を前回のように決めるならばであり、全ての自然数をゲーデル数にするように決めたりすれば、その限りではない。
*2 大部分の自然数対[a,b]について、*1と同様にB(b,a)は偽である。
*3) 例えば1)~4)の推論や「ゲーデルの定理-3.1-」の記事証明3.1-1では、メタ数学の推論における三段論法や対偶の同値性を使っているが、形式的体系での推論規則は使っていない。に関する推論規則はまだ本記事では紹介していない。

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