前回からの続き
1.「論理式Aは証明できる」という意味の、命題と論理式
任意の自然数aについての次のような1項関係Bew(a)を考えます。これは、「aをゲーデル数とする論理式Aは証明できる」という意味を持ちますが、あくまでも自然数の世界Nの中での関係です。Bew(a)は変数xを使えば1項関係Bew(x)となります。なお、"Bew"という表記はRef3,7からの採用です。
定義3.3-1a a=~A~ かつ |--- A ならば、Bew(a)は真
定義3.3-1b さもなくば*1、Bew(a)は偽
そして1項関係Bew(x)を記述する論理式をBew(x)とします。xにaを代入すればBew(a)となります。すると命題3.1-2a,bは次の命題に置き換えられます。以下で~A~や~U~は特定の自然数である~A~や~U~を記述する定数項です。なお、考察対象である形式的体系で論理式Bew(x)がうまく構成できることは別途証明しなければなりません。
命題3.3-1a |--- A が真ならば、 |--- Bew(~A~)
前原の本の定理8.1[Ref-4) p126]に当たる。
命題3.3-1b |--- Bew(~A~) ならば、 |--- A
前原の本の定理8.2[Ref-4) p129]に当たる。
また式3.1-1とその対偶の式3.1-2は次のようになります。
式3.3-1 U⇔¬Bew(~U~)
式3.3-1a U→¬Bew(~U~)
式3.3-1b ¬Bew(~U~)→U
式3.3-2 ¬U⇔Bew(~U~)
式3.3-2a ¬U→Bew(~U~)
式3.3-2b Bew(~U~)→¬U
これで式3.3-1,2を満たす論理式Uが存在すれば、前回記事の証明3.1-2が成立します。すると残る問題はUの存在証明と、Bew(x)の具体的な構成、および命題3.3-1aと命題3.3-1bの証明です。
2.「論理式Aの証明列はBである」という意味の、命題と論理式
Bew(x)の構成のためにまず、任意の自然数b,aについての次のような2項関係B(b,a)を考えます。これは、「bは、aをゲーデル数とする論理式Aの証明列Bのゲーデル数である」という意味を持ちます。
定義3.3-2a a=~A~ かつ b=~B~ かつ BがAの証明列ならば、B(b,a)は真
定義3.3-2b さもなくば*2、B(b,a)は偽
なお証明できるか否かは公理に依存します。そこで公理の集合をKとして、その公理系での関係であることを明確に示すためにBK(b,a)といった表記もできます[Ref-4]。しかし本記事の一連の議論の間はKは固定されていることが多いので、不要な場合は省略することにします。
さて2項関係B(y,x)を記述する論理式B(y,x)が構成できて、B(y,x)は論理式B(y,x)で数値別に表現されること、つまり任意の自然数b,aをy,xに代入したとき下記が成り立つことが証明されています。実はこの証明はなかなか手間のかかるところなのですが、機会があれば後ほど書いてみましょう。
命題3.3-2a B(b,a)が成立するならば、 |--- B(b,a)
命題3.3-2b B(b,a)が成立しないならば、|--- ¬B(b,a)
すると、先ほど考えた論理式Bew(a)は次のように定義できます。「a=~A~である論理式Aが証明できる」ということは「Aの証明列Yが存在する」ということであり、「証明列Yが存在する」ということは「y=~Y~が存在する」ということだからです。
定義3.3-3 Bew(a)≡∃yB(y,a)
さてこの定義のBew(a)について命題3.3-1aは成立するでしょうか?
証明3.3-1
1) |--- A が真と仮定する。つまり、論理式の世界でAが証明できるとする。
2) それは具体的な証明列Bが存在することである。
3) するとb=~B~が存在しB(b,a)が成立する。(a=~A~)
4) 命題3.3-2aより、|--- B(b,a)である。
5) ゆえに古典述語論理体系の∃に関する推論規則*3より |--- ∃yB(y,a)である。
さらに次の命題も成立すればBew(a)はBew(a)により表現されていることになりますが、これは成立しません。
命題3.3-1c Bew(a)が偽(つまり |-x- A) ならば、|--- ¬Bew(a)
すなわちBew(a)が偽の場合には、「|-x- ¬Bew(a)かつ|-x- Bew(a)」という場合もありうるからです。命題3.3-1cは成り立たないが命題3.3-1aだけ成り立つことを、前原は「(論理式Bew(a)は関係Bew(a)を)表明している」と書いていました。「表現している」ではなくて。
次に命題3.3-1bは成立するでしょうか? 「ゲーデルの定理-3.1-」の記事の証明3.1-1で示したように、命題3.3-1cが成立すれば命題3.3-1bも成立しますが、そうではないので、命題3.3-1bだけを別に証明しなくてはなりません。実はそのためには、10/09の記事で紹介したω無矛盾(ω-consistent)という性質が必要になります。
まずBew(a)すなわち∃yB(y,a)は¬∀y(¬B(y,a))と同値です。
証明3.3-2
1) |-x- A と仮定する。
1-1) 任意のbにつきB(b,a)は成立しない。
1-2) |--- ¬B(b,a) ∵命題3.3-2b
1-3) |--- ∀y(¬B(y,a)) ∵ω無矛盾ならば
1-4) |--- ¬∃y(B(y,a)) ∵同値に書き換え
1-5) |-x- ∃y(B(y,a)) ∵無矛盾ならば
2) |-x- A ならば、|-x- ∃y(B(y,a))
3) |--- ∃y(B(y,a)) ならば、|--- A ∵2)の対偶
次は式3.3-1を満たす論理式Uの存在証明ですが、これにはゲーデルの対角化定理(diagonalization theorem)というものが使われます。
続く
-------------
*1) 蛇足だが、大部分の自然数aにおいて、aはゲーデル数ではないのでBew(a)は偽である。ただしこれはゲーデル数を前回のように決めるならばであり、全ての自然数をゲーデル数にするように決めたりすれば、その限りではない。
*2 大部分の自然数対[a,b]について、*1と同様にB(b,a)は偽である。
*3) 例えば1)~4)の推論や「ゲーデルの定理-3.1-」の記事の証明3.1-1では、メタ数学の推論における三段論法や対偶の同値性を使っているが、形式的体系での推論規則は使っていない。∃に関する推論規則はまだ本記事では紹介していない。
1.「論理式Aは証明できる」という意味の、命題と論理式
任意の自然数aについての次のような1項関係Bew(a)を考えます。これは、「aをゲーデル数とする論理式Aは証明できる」という意味を持ちますが、あくまでも自然数の世界Nの中での関係です。Bew(a)は変数xを使えば1項関係Bew(x)となります。なお、"Bew"という表記はRef3,7からの採用です。
定義3.3-1a a=~A~ かつ |--- A ならば、Bew(a)は真
定義3.3-1b さもなくば*1、Bew(a)は偽
そして1項関係Bew(x)を記述する論理式をBew(x)とします。xにaを代入すればBew(a)となります。すると命題3.1-2a,bは次の命題に置き換えられます。以下で~A~や~U~は特定の自然数である~A~や~U~を記述する定数項です。なお、考察対象である形式的体系で論理式Bew(x)がうまく構成できることは別途証明しなければなりません。
命題3.3-1a |--- A が真ならば、 |--- Bew(~A~)
前原の本の定理8.1[Ref-4) p126]に当たる。
命題3.3-1b |--- Bew(~A~) ならば、 |--- A
前原の本の定理8.2[Ref-4) p129]に当たる。
また式3.1-1とその対偶の式3.1-2は次のようになります。
式3.3-1 U⇔¬Bew(~U~)
式3.3-1a U→¬Bew(~U~)
式3.3-1b ¬Bew(~U~)→U
式3.3-2 ¬U⇔Bew(~U~)
式3.3-2a ¬U→Bew(~U~)
式3.3-2b Bew(~U~)→¬U
これで式3.3-1,2を満たす論理式Uが存在すれば、前回記事の証明3.1-2が成立します。すると残る問題はUの存在証明と、Bew(x)の具体的な構成、および命題3.3-1aと命題3.3-1bの証明です。
2.「論理式Aの証明列はBである」という意味の、命題と論理式
Bew(x)の構成のためにまず、任意の自然数b,aについての次のような2項関係B(b,a)を考えます。これは、「bは、aをゲーデル数とする論理式Aの証明列Bのゲーデル数である」という意味を持ちます。
定義3.3-2a a=~A~ かつ b=~B~ かつ BがAの証明列ならば、B(b,a)は真
定義3.3-2b さもなくば*2、B(b,a)は偽
なお証明できるか否かは公理に依存します。そこで公理の集合をKとして、その公理系での関係であることを明確に示すためにBK(b,a)といった表記もできます[Ref-4]。しかし本記事の一連の議論の間はKは固定されていることが多いので、不要な場合は省略することにします。
さて2項関係B(y,x)を記述する論理式B(y,x)が構成できて、B(y,x)は論理式B(y,x)で数値別に表現されること、つまり任意の自然数b,aをy,xに代入したとき下記が成り立つことが証明されています。実はこの証明はなかなか手間のかかるところなのですが、機会があれば後ほど書いてみましょう。
命題3.3-2a B(b,a)が成立するならば、 |--- B(b,a)
命題3.3-2b B(b,a)が成立しないならば、|--- ¬B(b,a)
すると、先ほど考えた論理式Bew(a)は次のように定義できます。「a=~A~である論理式Aが証明できる」ということは「Aの証明列Yが存在する」ということであり、「証明列Yが存在する」ということは「y=~Y~が存在する」ということだからです。
定義3.3-3 Bew(a)≡∃yB(y,a)
さてこの定義のBew(a)について命題3.3-1aは成立するでしょうか?
証明3.3-1
1) |--- A が真と仮定する。つまり、論理式の世界でAが証明できるとする。
2) それは具体的な証明列Bが存在することである。
3) するとb=~B~が存在しB(b,a)が成立する。(a=~A~)
4) 命題3.3-2aより、|--- B(b,a)である。
5) ゆえに古典述語論理体系の∃に関する推論規則*3より |--- ∃yB(y,a)である。
さらに次の命題も成立すればBew(a)はBew(a)により表現されていることになりますが、これは成立しません。
命題3.3-1c Bew(a)が偽(つまり |-x- A) ならば、|--- ¬Bew(a)
すなわちBew(a)が偽の場合には、「|-x- ¬Bew(a)かつ|-x- Bew(a)」という場合もありうるからです。命題3.3-1cは成り立たないが命題3.3-1aだけ成り立つことを、前原は「(論理式Bew(a)は関係Bew(a)を)表明している」と書いていました。「表現している」ではなくて。
次に命題3.3-1bは成立するでしょうか? 「ゲーデルの定理-3.1-」の記事の証明3.1-1で示したように、命題3.3-1cが成立すれば命題3.3-1bも成立しますが、そうではないので、命題3.3-1bだけを別に証明しなくてはなりません。実はそのためには、10/09の記事で紹介したω無矛盾(ω-consistent)という性質が必要になります。
まずBew(a)すなわち∃yB(y,a)は¬∀y(¬B(y,a))と同値です。
証明3.3-2
1) |-x- A と仮定する。
1-1) 任意のbにつきB(b,a)は成立しない。
1-2) |--- ¬B(b,a) ∵命題3.3-2b
1-3) |--- ∀y(¬B(y,a)) ∵ω無矛盾ならば
1-4) |--- ¬∃y(B(y,a)) ∵同値に書き換え
1-5) |-x- ∃y(B(y,a)) ∵無矛盾ならば
2) |-x- A ならば、|-x- ∃y(B(y,a))
3) |--- ∃y(B(y,a)) ならば、|--- A ∵2)の対偶
次は式3.3-1を満たす論理式Uの存在証明ですが、これにはゲーデルの対角化定理(diagonalization theorem)というものが使われます。
続く
-------------
*1) 蛇足だが、大部分の自然数aにおいて、aはゲーデル数ではないのでBew(a)は偽である。ただしこれはゲーデル数を前回のように決めるならばであり、全ての自然数をゲーデル数にするように決めたりすれば、その限りではない。
*2 大部分の自然数対[a,b]について、*1と同様にB(b,a)は偽である。
*3) 例えば1)~4)の推論や「ゲーデルの定理-3.1-」の記事の証明3.1-1では、メタ数学の推論における三段論法や対偶の同値性を使っているが、形式的体系での推論規則は使っていない。∃に関する推論規則はまだ本記事では紹介していない。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます