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数学的実在とは-幾何学-11-原論と基礎論(9)

2010-02-21 06:45:24 | 数学基礎論/論理学
 前回の続きです。

 まず間違いの訂正です02/07記事"数学的実在とは-幾何学-9-原論と基礎論(7)"で「ヒルベルトの『幾何学基礎論』では円が登場しません!。」と書いてしまいましたが、第1章§7の最後(p53-54)に登場していました。

定義 Mを平面α上の任意の一点とするとき,線分MAがたがいに合同となるごときα上の点A全体を円という;Mを円の中心という.

 そしてこの定義により円の諸定理が証明できるとだけ短く紹介されています。円の諸定理はすでに幾何学の基礎が確立された後の課題なので、『幾何学基礎論』で扱うテーマではないと言うことでしょう。

 さて01/10記事"数学的実在とは-幾何学-2-"でも紹介しましたが、『幾何学基礎論』での公理系は次の5群からなります。今回と次回で、ⅣとⅤについて述べます。そして平行の公理を使い、いまだ長さの概念なしに、つまり実数との対応なしに線分の比や相似の定義が得られるのですが、そのことについてまた述べる予定です。
Ⅰ.結合の公理
Ⅱ.順序の公理
Ⅲ.合同の公理
Ⅳ.平行の公理
Ⅴ.連続の公理

 Ⅳはすなわち『原論』の公理系で最も有名な平行線の公理です。これは上記の円が登場した第1章§7で述べられています。

Ⅳ.平行の公理(ユークリッドの公理) aを任意の直線,Aをa外の一点とせよ:しからばaとAが定める平面において,Aを通りaに交わらない直線はたかだか一つ存在する.

 ここで「たかだか一つ」すなわち「1本か0本」とだけしていますが、「少なくとも1本存在する」ということは、この公理の直前に示しています。すなわち直線cに対して同位角の等しい2直線a,bを取れば「外角の定理(定理22)から容易に直線a,bがたがいに共通点を持たないことが証明される」。

 外角の定理(定理22)とは「三角形の外角は、それに接しない内角よりも大きい」という定理ですが、この証明には公理Ⅰ2(結合の公理、2点を結ぶ直線がただ一つある)およびⅢ4(合同の公理、二辺挟角)を使います。球面ではⅠ2は成立せず平行線も0本になっています。なお、「平行線が少なくとも1本存在する」という定理には『幾何学基礎論』での定理番号は付けられていません。ただ「5章.デザルグの定理」においては合同の公理を仮定せずに「平行線がただ1つ存在する」という命題を「狭義の平行の公理」として設定しています。

 そしてこの平行の公理を仮定しなければ「直線外の1点を通る、この直線への平行線は無数にある」という命題の成立する幾何学を構築できます。例えば01/15記事"幾何学のモデル-非ユークリッド平面-"で紹介したような曲率負の面における非ユークリツド幾何学(双曲幾何学)になるわけです。ただし『幾何学基礎論』2章の最後(p82)によれば、次のような幾何学も成立するようです

非ルジャンドル幾何学; 平行線が無数に引けて、かつ楕円幾何学(リーマン幾何学)の諸定理が成立する
半ユークリッド幾何学; 平行線が無数に引けて、かつユークリッド幾何学の諸定理が成立する

 このような幾何学のモデルはあまり有名ではなく、私もなかなか想像しにくいです。なお双曲幾何学の定理のひとつである「三角形の内角の和は180度より小さい」という定理は次回に述べるアルキメデスの公理がないと証明できないとのことです。

   続く

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