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数学的実在とは-幾何学-10-原論と基礎論(8)

2010-02-09 06:45:21 | 数学基礎論/論理学
 前回の続きです。

 02/07の記事で述べたように「対頂角は等しい」という命題は、『原論』では命題15で「等しいものから等しいものをひけば残りは等しい」という公理(共通概念3)から証明していますが、ヒルベルトの基礎論では補角の合同定理から証明しています。すなわち結合の公理、順序の公理、合同の公理までを設定した後に次の一連の定理を順に証明しています。

定理11.二等辺三角形の両底角は相等しい(合同な2辺を有する一つの三角形においてその辺に対する角は合同である)
定理12.AB≡A'B'かつAC≡A'C'かつ∠A≡∠A'ならば△ABC≡△A'B'C' (三角形の第一合同定理=二辺挟角定理)
定理13.(三角形の第二合同定理=二角挟辺定理) AB≡A'B'かつ∠A≡∠A'かつ∠B≡∠B'ならば△ABC≡△A'B'C'
定理14.∠ABC≡∠A'B'C'ならば、∠ABCの補角∠CBDは∠A'B'C'の補角∠C'B'D'に合同

 なお補角の定義は02/07の記事で述べたとおり「2つの角が頂点と一辺を共有し、他の共通ならざる辺が一直線をなすとき、補角という」です。定理14の角は下図のような関係になります。

 ここで点A,B,C,Dを図のように取れば、AB≡A'B'、BC≡B'C'、BD≡B'D'、となる図のような点A',B',C',D'が取れます(合同の公理1より)。
 すると、∠ABC≡∠A'B'C'ならば、定理11より
   △ABC≡△A'B'C'、つまり、AC≡A'C'、∠BAC≡∠B'A'C' です
 また合同の公理3(線分の加法)からAD≡A'D' です
 ゆえに定理11より、△ABD≡△A'B'D' です
 つまり∠ADC(=∠BDC)≡∠A'D'C'(=∠B'D'C')、DC≡D'C' なので
 BD≡B'D'と合わせれば、合同の公理5から ∠CBD≡∠C'B'D'

 これで合同な2つの角の補角同士も合同であることが証明されましたが、対頂角の2つはどちらも同じ1つの角の補角ですから合同になります。いかがでしょうか、『原論』や学校での初等幾何学の証明に比べるとずいぶん回り道のように見えますね。

 『原論』も「当たり前のことをなんでわざわざ」と散々言われてきました。野崎昭弘『不完全性定理』(p43 ;01/29の記事)によれば、『原論』が日本に伝えられた1730年代当時の日本の数学者たちは「こんなわかりきったことを,なんでわざわざ~」と完全に無視してしまったそうです。またユークリッドと同時代の「快楽主義」の哲学者エピクロス(Epikouros,前341-前271)の弟子たちは、「定理20など証明しなくても,ロバでも知っている」(ほしいエサのあるところまで,遠回りせずにまっすぐ歩いていく)と公言していたそうです。ちなみに定理20とは『原論』第Ⅰ巻の命題20「三角形の2辺の和は他の辺より大きい」という、三角不等式と呼ばれる定理です。

 しかし『幾何学基礎論』の「なんでわざわざ度」は『原論』以上です。エピクロスの弟子たちや江戸時代の和算家たちが読んだらなんと言うでしょうか?


   続く

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